夏八木勲の映画デビュー すでに圧倒的「男臭さ」!——春日太一の木曜邦画劇場

5月28日(火)17時0分 文春オンライン


1966年作品(88分)/東映/レンタルあり


 夏八木勲が亡くなり、早いもので七回忌を迎えた。


 間違いなく、筆者が最も愛した役者の一人であり、スクリーンやテレビ画面に映し出される彼の姿、そして一挙手一投足の全てに対して、役柄を越えて心酔していた。


 夏八木勲の魅力。それはなんといっても、隙がないまでに充満し、そして放たれている、その圧倒的な「男臭さ」である。厳(いか)つい面相、ギラつく眼差し、鍛え抜かれた肉体、そして熱い魂がほとばしる芝居——「全身これ、男性ホルモン」とすら表現できる様は、爽やかさばかりが尊ばれる昨今の風潮に対して居心地の悪さを感じていた身には、憧れの存在だったのだ。そのため、映画やドラマの内容、出来不出来に関係なく、夏八木がそこに映るだけで満足だった。


 そこで。本連載ではそれなりに夏八木のことは書いてきたが、この機会にまた改めて何週かにわたって夏八木出演作品を取り上げていきたい。


 今回は『骨までしゃぶる』。夏八木が二十六歳で出演した、映画デビュー作である。


 物語の舞台となるのは、明治三十年代の東京洲崎の遊郭。そこでは、貧しさのために地方から娘たちが連れてこられており、遊女として身を売っていた。ヒロインのお絹(桜町弘子)もそんな一人で、夏八木はお絹と恋仲になる大工・甚吾郎を演じている。


 当初は貧しい故郷と異なり衣食に不自由しない生活に満足していたお絹だったが、そうした衣食は全て借金として計上されており、彼女たちは絶対に抜け出ることはできないという実態を知ることになる。しかも、脱走者が出たことで、店の管理体制は厳しくなる。ノルマも含めて店の締め付けが厳しくなっていくにつれ、お絹を含めた女たちは不満を募らせていった。


 お絹と甚吾郎は、そうした中で出会う。遊女と客——最初はその関係だった。甚吾郎は先輩に無理やり連れてこられて困り果て、一人で寝ることを選ぶ。その純情さにほだされたお絹は、本気で甚吾郎に惚れ込んでしまう。そして、甚吾郎もお絹が好きになる。


 この時の夏八木がいい。デビュー時から既に完成されている「男臭い面相」と、これが初めてのカメラ前での芝居となる硬さとがあいまって、百戦錬磨のお絹が惚れるだけの素朴で純情な青年ぶりに説得力を与えていた。特に二度目に逢う際、懸命にオシャレしてアピールする姿はとにかくチャーミングで、お絹ならずともこちらまで胸がキュンとなってしまう。そして、お絹との約束を守る様も、「さすが、夏八木」と言いたくなる頼もしさに満ち溢れていた。


 夏八木勲は、最初から夏八木勲。それが分かる作品だ。




(春日 太一/週刊文春 2019年5月30日号)

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