別所哲也「新たな技術を取り込んだショートフィルム」を分かち合う 今年のSSFF & ASIAへの思い語る
2024年5月28日(火)19時0分 シネマカフェ
今年の映画祭より、ラグジュアリーな船旅を提供し続けているキュナードが協賛を決定し、約5,000本の作品群から選ばれる、世界で唯一のジョージ・ルーカスの名を冠したグランプリの受賞者に副賞として日本各地を巡る優雅な船旅が提供される。
これを記念し、別所さんは東京に寄港中の客船クイーン・エリザベスを訪問、コラボレーションにより創出される新世代のエンターテインメント、そして今年の映画祭の抱負を語った。
船内をじっくりと訪れるのは初めてだという別所さん。「調度品にいたるまで細かいところまでこだわった作りになっていて、非日常を味わえる、夢の船旅の象徴とも言える、最高級のグレードのものを見せていただけた」と語る。800人が入れる劇場にはボックス席もあり、映画や様々なパフォーマンスを観ることもでき、船の中でありながら最高級のシアターがあることには特に感動を覚えたと話す別所さん。「世界中を巡るクルーズ船で、ショートフィルムをお届けできるというのは夢の一つ」と明かす。
今年のテーマ「Illuminate Your Life 〜いのち 照らせ セカイ 照らせ」に込めた想い
「映画というのはまさに、“光の絵の具”でできていて、その陰影がスクリーンに映し出される。光によって、人々自身の生活や人生、命を映し出そう」そんな思いから映画祭スタッフと一緒に考えたというテーマ。
別所さんは「災害や戦争もある現在、本来はみなが手を取り合い、理解し合って、笑顔で幸せにいられるようにするのがエンタテインメントの役割。もっともっと映画をはじめとしたエンタテインメントが光を届けなきゃいけない状況にあると思います」という。光によって照らされる命や世界があり、照らすことで、対立や分断を超え融和へと辿り着けたら——と海を眺めながら想いを馳せる。
もともと、映画は発明王のエジソンが生み出し、リュミエール兄弟がスクリーンに映し出して始まったもの。最新の“技術”なくしてその誕生はなく、常に最新のテクノロジーと共に前進してきたものだとしながら、別所さんは「映画祭はクリエイティブの展覧であると同時にテクノロジーの展覧でもあります」と言う。
「そのふたつが融合するという意味で、いま、非常にシンボリックな現象として起こっているのが生成AIであったり、ブロックチェーンによるNFTであり、撮影技術においてはドローンやVX、XR、VRなど様々なものが生まれています」と潮流を説明する。
今回、AIを使用した作品が100本を超え応募があったというSSFF & ASIA。「僕がこの映画祭を始めた頃は、フルCGによる作品が最新のものだったりしましたが、いまやフルAIをはじめ、様々な新たな技術を取り込んだショートフィルムが顕在化しています。そういった最新の技術をみなさんにご覧いただき、分かち合う場が映画祭だと思っています」と話す別所さん。
「僕らが何かを仕掛けたというよりも、実態としてクリエイターたちが既に新たな技術を手に歩き出しているというのがあります」と語る。そして、「制作から、完成した作品のアウトプットも含めて、どんどん新たな技術を取り入れて、映画祭の中でお見せしたい」と展望を口にした。
AIはクリエイターにとって良い相棒になるのでは?
「AIにどんな可能性があり、何ができるのか? そこに関してはまだ未開発の部分も多く、未完でもあるので、そこに脅威や畏怖を感じる方も多いと思います。あるいは、自分のクリエイティブな領域を浸食され、奪われてしまうのではないかという思いを抱く方もいると思います」。
そう話しながらも、「生成AIやLLM(Large Language Models)の技術に関して話を聞いてみると、結局、僕たち自身が学んできたもの、生み出してきたものからしか学ばないわけで、人間由来のものしかないというのが前提としてあると思います」と続ける。
AI脚本やAI撮影がクリエイターの居場所を奪うのでは、と懐疑的な考え方もある一方で、別所さん「AIはクリエイターにとって良い相棒になるのではないか」と考えると言う。
「もちろん、議論を進めるためにも積極的に映画祭で様々なテクノロジーを知り、試行錯誤していきたい。フルAIによる映画製作やNFTを活用した資金調達が既に可能な時代。その流れを誰かが号令をかけて止められるわけではない。だからこそ“良きパートナー”とするためにも、早い段階で付き合っていくべきだと思います」と言及、SSFF & ASIAは四半世紀(25年)を経て、新たな時代へと舵を切る。
人生の“アナザー・ライフ”を見る体験と“ベター・ライフ”を探すという、ふたつのチャンス
さらに、SSFF & ASIAの水先案内人として、別所さんが今年の映画祭のみどころを紹介する。世界中の様々な映像作家、俳優の作品——ベン・ウィショーにエイドリアン・ブロディ、レア・セドゥといった名優の出演作品が特別上映され、日本作品でも、千葉雄大や仲里依紗、福士蒼汰、森崎ウィンが監督に挑戦する作品がノミネートしている今年の映画祭。
6月4日(火)のオープニングセレモニーではショートフィルムというカルチャーを切り拓き、画期的な技術や映像表現で作品を発信するクリエイターやアクターを讃える「Global Spotlight Award」の受賞発表にも注目。「Stray Kids」やイーサン・ホーク、ジャン=リュック・ゴダールやペドロ・アルモドバルがファイナリストとして名を連ねている。
また、今年はパリ五輪開催に合わせたスポーツがモチーフとなったドラマの数々を特集する「スポーツプログラム」や、国際赤十字社と共同で行う「戦争と生きる力プログラム」の上映、環境問題や女性の社会進出など社会問題に向き合う作品など見ごたえある作品も多数。
「映画には人生の“アナザー・ライフ”を見る体験と“ベター・ライフ”を探すというふたつのチャンスがあると思います。まさにそうしたライフを照らし出すショートフィルムの数々をぜひ見に来てほしい。お待ちしています」とアピールした。
副賞としてクイーン・エリザベスの2025年日本発着クルーズの旅が贈られるSSFF & ASIA 2024グランプリ=ジョージ・ルーカスアワードは、6月17日(月)のアワードセレモニーにて発表される。
「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2024」は6月4日(火)オープニングセレモニー 〜6月17日(月)アワードセレモニーは都内会場にて開催。オンライン会場は6月30日(日)まで。