『なつぞら』絶好調を支える脚本家「入れ子芝居」の妙

6月1日(土)16時0分 NEWSポストセブン

『なつぞら』出演者たち

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 高評価が定まりつつある朝ドラ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、脚本家の技巧について言及する。


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 NHK連続テレビ小説『なつぞら』が絶好調。平均視聴率は22.1%(第8週まで)と、実に安定した走りっぷりを見せています。このドラマの何が牽引役となっているのでしょうか?


 まず冒頭の2週間、子役時代のなつを演じた粟野咲莉の演技のうまさに、心をグッとつかまれた視聴者が続出しました。なつが広瀬すずになってからの北海道シーンでは、「祖父」泰樹(草刈正雄)となつとのやりとり、泰樹の人生経験から絞り出される深いセリフに感動した、涙した、といった称賛の声が聞かれました。


 一方で吉沢亮岡田将生工藤阿須加……ズラリと揃った「イケメン祭り」が牽引役、という声も聞かれます。また、過去の朝ドラヒロインのオンパレード出演──松嶋菜々子、小林綾子、比嘉愛未、山口智子らがとっかえひっかえ出てくる面白さが際立っているから、と見る向きも。


 そう、どれもが絶好調の要因に違いありません。ただ、私がこの朝ドラで最も注目している点は別のところにあります。一言でいえば、脚本家・大森寿美男の「入れ子芝居」のテクニックです。


 ご存じのように入れ子とは一つの枠組の中にまた入れ物があって、またその中に別の入れ物がある……という仕掛け。『なつぞら』の一番大きな入れ物としては、まず「なつの成長物語」があります。戦争で両親を失った孤児の女の子が、北海道で新たな「家族」を得て、東京で実の兄と再会し自分の夢に向かって羽ばたいていく、という本筋を入れる器です。


 その大きな物語の「器」に、また別の物語の「器」が入っている。例えば高校生のなつが所属する演劇部でお芝居『白蛇伝説』を上演。なつはヒロイン・ペチカを演じます。この芝居はただの劇中劇に留まらず、本筋である家族の話や泰樹と農協との確執といったことに絡んでいき、なつと泰樹との新たな関係へとつながる。その技巧的展開は見事でした。


 あるいは、東京・新宿編では「ムーランルージュ新宿座」のきらびやかな舞台。クラブ「メランコリー」では歌手・煙カスミ(戸田恵子)にパッとスポットライトが当たりゴージャスな衣装に身を包んだカスミの華やかな声が響きわたる。そう、一瞬にして別世界が立ち現れるワクワク感がいい。


 岸川亜矢美(山口智子)の踊り子シーンに咲太郎(岡田将生)のタップダンスと、他にも小さな舞台がいくつも用意されています。ロシアの玩具・マトリョーシカ人形はよく知られていますが、このあたりはいわば“マトリョーシカ的ドラマ仕掛け”と言ってもよいのかも。


 そもそも、「新宿」という場所自体、そうした演劇的DNAを持っている土地柄です。花園神社は昔から見世物小屋が出たり大道芸人が芸を見せる場所だったし、今でも境内でテント芝居が上演されています。「歌舞伎町」という地名もそう。空襲で焼けた町の復興事業として歌舞伎の劇場の建設計画が持ち上がり地名が生まれ、紆余曲折を経て新宿コマ劇場が誕生しました。


 というように、新宿の土地には演劇的DNAが埋まっている。大森氏が「新宿」という場所を選んだのも、そうしたDNAと関係しているはず、と想像できます。


 なつの物語が、一転して別世界へと飛ぶ。鮮やかな場面転換が視聴者を惹き付け、飽きさせない「駆動力」になっているのではないでしょうか。


 時空を飛ぶ仕掛けといえば、絵を描く「キャバス」も装置の一つ。例えば、なつが東洋動画の入社試験を受ける時、キャンバスを介して突然北海道で絵を描いている天陽(吉沢亮)が登場。「どこにいたって俺となっちゃんは何もない広いキャンバスの中でつながっていられる。頑張れ。頑張ってこい、なっちゃん」とエールを送るシーンは実に印象的でした。


 今どきの視聴者は「イケメンが出ていればストーリーはそっちのけ」というほど甘っちょろくはない。脚本自体も、そんな薄っぺらい中身ではない。脚本・大森氏はかつて朝ドラの名作『てるてる家族』においても入れ子的演劇仕掛けを随所に仕込み、人形浄瑠璃や昭和歌謡レビューを挿入しながら、まるでミュージカルのような楽しさを味わわせてくれました。


 2ヶ月が経過した『なつぞら』。役者たちが頑張ってくれることは疑いなし。だからあとの4ヶ月、物語の「立体的構造」に磨きをかけエッジを鋭くし、脚本の妙によってぐいぐいと引っ張り続けてほしい。ぜひ、見たこともない朝ドラを生み出してほしいと思います。

NEWSポストセブン

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