45周年の谷村新司 「スランプを経験したことはないんです」

6月9日(金)7時0分 NEWSポストセブン

今年でアーティスト活動45周年の谷村新司

写真を拡大

 今年でアーティスト活動45周年を迎える谷村新司(68)が、この4月、歌舞伎や文楽など伝統芸能の殿堂・国立劇場でリサイタルを行なった。


 開演、花道からの登場だ。谷村が歌いながら花道を歩く。拍手喝采の客席には、胸の前で手を組んでため息を漏らす女性がいる。谷村をじっと見つめ、小さく手を振る人も多い。会場を包み込んでいたのは、谷村の圧倒的な色気であった。


「色気があると言われるのは嬉しいですね(笑い)。僕は大阪の生まれで、家が邦楽一家と言いますか、おふくろは長唄の三味線、姉は地歌舞を教えていたので、常に着物姿の女性が集っていました。


 家には馴染みの呉服屋さんがしょっちゅう来ていて、目の前で反物をパーッと広げる。色の海です。好奇心の強い子どもだったので、『おっちゃん、これ何ていう色?』と聞いたりしてね。


 親父は親父で、小学生の自分を祇園に連れて行く(笑い)。そういう環境で育ったから、立ち居振る舞いや所作が自然に身についているのではないかな、と思います。歌っている最中も、無意識に『左から振り向いたほうがいいな……』と自然に体が動きます」


 リサイタルでは、45周年を記念して発売された、自身初となる3枚組のオールタイムベスト盤『STANDARD〜呼吸〜』の中から、「いい日旅立ち」や「22歳」、「昴」などのスタンダード・ナンバーをたっぷりと披露した。


 しかしひとくちに45周年といっても、簡単なことではない。谷村新司は、なぜこれほど長い間、一線に立ち続けることができるのか。


「僕にもわからないです(笑い)。でも、スランプを経験したことはないんです。スランプって、その人がそう思うからスランプになる。ようは気の持ち方次第では……ネガティヴな考え方をする人っていますよね?『何で皆そうなんだろう?』って僕は疑問に思う。


 たとえば嫌なことがあった時、3日間何もしない人がいる。でもその間、もし歩いてみたら随分遠くに行けますよね。3日間、死ぬ気で勉強したら何でも学べる。くよくよするのは無駄なエネルギーです。その時間がもったいないです」


◆55歳で一度人生を“空っぽ”にする


 とはいえ、人生には逆風も吹く。時としてうまくいかないこともある。


「向かい風?『おっ、チャンスが来たな』って思っています。飛行機でも凧でも、舞い上がるのはアゲインストの時です。追い風のほうが実は危険(笑い)。追い風の時には、色んな人が集まってくるでしょ? そういう人を僕はあまり信じません。逆に、向かい風の時に来てくれる人を大事にしたい」


 谷村新司は、十数年前、実は意図的に生き方を変えた。


「忘れもしません、55歳のクリスマスの晩です。妻に言われたんです。『歌を創って、歌を届けて、旅をして……これだけがあなたの生き方じゃないのかもしれないわね』と」


 帯状疱疹が出るなど、その当時、体調は万全ではなかったが、年間200回以上のステージをこなし、生き方に疑問を持ったことはなかった。


「妻は仕事のパートナーでもあり、公私にわたり僕を支えてくれていました。妻の言葉は、僕がそれまで考えもしなかったこと。とても衝撃的だったんですが、同時に『あっ、そうかも』と思ったんです」


 谷村は、感じた瞬間に足を踏み出した。活動は全部白紙。ファンクラブを解散し、事務所も1年かけて閉じた。


「それまでは8割は従来のことのキープで、残りの2割で新しいことをやろうとしていた。でもそれだと、結局2割程度の内容のものにしかならないんですよ。それを空っぽにしたら何でもできるんじゃないか。そう思ったら妙に興奮してきましたね」


 積み重ねてきたものをゼロにする。これは簡単な決断ではない。だが仕事を絶つと、今まで見えなかったものに気づき始めたのだという。それは新鮮な体験だった。何でもやれる。さあ何をしよう。そう思っていたところに、ある話が舞い込んだ。


「中国の上海音楽学院から教授にならないかという話が来たんです。『天命ってこういうことなんだな』と思いました。空っぽにしたから天が進むべき道を教えてくれたんだな、と。もしそれまで通りの活動をしていたら、断わらざるを得なかったでしょう」


●たにむら・しんじ/1948年生まれ、大阪府出身。1972年3月に堀内孝雄と2人のアリスとして「走っておいで恋人よ」でレコードデビューし、5月に矢沢透を加えて3人で活動開始。1975年の「今はもうだれも」を皮切りに「冬の稲妻」「チャンピオン」などヒットを連発して一時代を築く。一方、楽曲提供やソロ活動も行ない、1980年に名曲「昴」が大ヒット。1981年のアリスの活動停止後は、ソロでシングル、アルバムをコンスタントに発表し、国内外でコンサート活動を行なう。今年4月にCD3枚組のオールタイムベスト盤『STANDARD〜呼吸(いき)〜』を発売、5/13にスタートした全国ツアー「谷村新司 45th CONCERT TOUR 2017 STANDARD」を実施中。


撮影■藤岡雅樹、取材・文■角山祥道


※週刊ポスト2017年6月16日号

NEWSポストセブン

「谷村新司」をもっと詳しく

「谷村新司」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ