浅田美代子 樹木希林さんから伝えられた2つの教え

6月9日(日)7時0分 NEWSポストセブン

6月7日に主演映画『エリカ38』が公開される

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、タレント・女優の浅田美代子が、テレビドラマでデビューし、演出の久世光彦と共演者の樹木希林にいつも“金魚のフンみたい”にくっついていた時期について語った言葉をお届けする。


 * * *

 浅田美代子は一九七三年、久世光彦演出のテレビドラマ『時間ですよ』(TBS)でデビュー、舞台となる銭湯のお手伝いさん役を演じた。この時、共演者に樹木希林がいた。


「突然スカウトされたんですよね。あまり学校も好きじゃなかったから、こっちの方がいいかな、くらいの軽い気持ちでした。


『時間ですよ』で久世さんと希林さんとお会いして、気づいたらいつも金魚のフンみたいにくっついていましたね。


 最初は久世さんから三十回くらいNGを出されました。初めて『松の湯』に着いて看板を見て『松の湯──』というだけなんですが、『違う!』と。『地図を見ながらやっと来れた安堵感と、ここで働く不安感。その全部が混じっている『松の湯──』なんだ!』って言われて。


 こっちからすると『エーっ!わかんない! どうすればいいの!』でした。それで何度やっても『違う!』『それも違う!』。最後、訳わかんないから『どうでもいいや』っていう感じでやったのがオーケーになりました。


 その前、役に決まった時、演技指導をするからと久世さんに呼び出されたんですよ。セリフを言わされるのかと思っていたら『お手伝いさんなんだから、雑巾がけがちゃんとできるように』って、やたら雑巾がけばかりやらされました。セリフなんか全然やらなくて。


 それから、お風呂屋さんなので目の前に裸の人がいっぱいで、恥ずかしくて目を背けていたら、『店員なんだから、背けちゃダメなのよ』と希林さんに注意されたのを覚えています」


 翌年は同じく久世演出のTBSドラマ『寺内貫太郎一家』に出演。ここでも寺内家のお手伝いさん役を演じ、樹木希林と共演している。


「この二本が私の基本です。希林さんは『あの時代に芝居の間とか、そういうのは全て勉強しているはずなんだから』って言われましたね。まだまだですが。


 希林さんに言われたのは、たとえば『ト書を気にするな』とか。台本のト書に『泣く美代子』と書いてあったとして、それを気にしちゃうと『泣く芝居』をするからダメだって。泣かなくてもいいんだって言うんです。


 ようするに、涙なんて出なくていい。気持ちさえあれば、絶対に伝わるから──ということなんですよね。泣こう、涙を出そうというのが頭に入っていると、芝居が嘘になってしまう。


 それから、台本の自分のセリフの箇所に役名の『美代子』と書いてあるんですが、そこにピンクのマーカーをつけていたんですよね。それに対して希林さんが『こういうことしちゃダメよ』と。『え、なんで?』と聞いたら『それじゃ、そこだけ浮き出ちゃうから、自分のセリフしか見えないでしょ』って。それから台本の自分のセリフにマークしないようにしたんですよね。


 後になって、『日曜劇場』でショーケン(萩原健一)と夫婦役をやった時、私の台本を見て『全然勉強してねえんだな〜』ってショーケンに言われて。『違います。希林さんにそう言われたから、それをずっと守っているんです』と言い返しました」


■撮影:藤岡雅樹


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中


※週刊ポスト2019年6月14日号

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