「真保裕一の最新刊から読み解く、“できる政治家”の条件」——福田達夫インタビュー

6月14日(金)11時0分 文春オンライン

 総理がらみの疑惑の渦中にある代議士の孫が誘拐された! 犯人の要求は前代未聞——「罪の自白」というものだった。


 政界を舞台にした誘拐サスペンスである真保裕一氏の最新刊 『おまえの罪を自白しろ』 の魅力を、総理大臣経験者を父と祖父に持つ若手代議士で、政界きっての読書家である福田達夫氏が読み解いてくれた。


「真保さんの小説は昔から好きで、江戸川乱歩賞の受賞作『連鎖』や『ホワイトアウト』も愛読していました。どの小説でも、知らない職業のはずなのに、圧倒的リアリティで伝わってくるんです。『連鎖』の主人公は(当時厚生省の)元・食品衛生監視員で、汚染食品の横流しの真相を究明しようとする。私は今、自民党の農林・食料戦略調査会で、農産物輸出促進対策委員長をしているのですが、改めて感じるのは、真保さんの小説に描かれた『現場感』のすごさです。食品検査官の思考がどうしてここまでわかるのか、と。



©文藝春秋


 今作の『おまえの罪を自白しろ』は政界が舞台です。この人物造形はすごい!と納得できるところと、私の政治スタイルとはまったく違うな、という双方の部分があって、とても楽しむことができましたね」


 衆議院議員の宇田清治郎は、総理がらみの疑惑を野党やメディアから糾弾されていた。そのさなか、3歳の孫娘が誘拐される。犯人の要求はなんと、「罪の自白」。タイムリミットは翌日の午後5時。動機は宇田家への怨恨か、それとも──。


 誘拐事件に巻き込まれた宇田家は、「政治家一家」。長男は埼玉県議。孫娘の母である長女の夫は、中央政界進出を狙って地元の市会議員を務めている。2人は清治郎の地盤を継ぐ強い意思を持っていた。


 一方、次男の晄司は、政治家家業から距離を置きたいと考え、会社を経営していたが失敗し、父・清治郎の秘書になったばかり。


 宇田一族は、それぞれの立場で、この危機に立ち向かおうとしていた。


「私のオヤジである福田康夫は、とてもクールな人で、一族で政治をやるという概念をまったく持っていない人でした。息子にも『政治家という職業は継ぐものではない』と言っていたくらいですから、地盤を必死に継ごうとする宇田家の対極のような一家でしたね。私も政治家になる気はありませんでしたが、小泉純一郎内閣で父が内閣官房長官をしていたときに、秘書官をしていた人が倒れて、私か弟のどちらかが代理として勤めるしかないという状況になったんです。ちょうど担当していた仕事が一区切りしていた私が秘書官をすることになりました。当初は半年間の期間限定の予定で(笑)」



 福田氏は、大学を卒業後、ジョンズホプキンス大学高等国際関係学研究所の研究員を経て、三菱商事に就職。「24時間タタカエマスカ」と言われた時代に、11年間のサラリーマン生活を経験した。


「会社員時代なら、仕事の役割やノルマなどがあって、それに向かって自分の時間をどのように使って結果を出すか、という流れがありますよね。だからオヤジに『官房長官秘書官としての僕の仕事は何なのか』と聞いたら、『全部だ』と一喝されたんです。『見て憶えろ』『必要なことが必要なんだ』とも言われて、非常に戸惑いました(笑)。本作で、次男の晄司が、父・清治郎に求められたことと似ています。私も晄司と一緒で、『政治から距離を置こう』と考えていたこともあって、彼には共感できる部分が多い。


 小学校のころに、祖父・福田赳夫が総理大臣をしていて、『政治と金』の問題に抗っていたのですが、子供から見れば、政治家の仕事のイメージは”いっしょくた”ですからね。政治とは距離を置いて商社で働いていた僕が今、こうして衆議院議員を務めているんですから、晄司同様、『人生は常に何が起こるかわからない』と思いますね」


 この小説の独自性は、犯人が「孫娘を救いたければ、『政治家としての罪』を自白しろ!」という脅迫手法だ。


 この辺りは、当選3回を重ねた現役の衆議院議員としてはどう読んだのだろうか。


「『政治家としての罪』ですか……。宇田一族の政治手法は、ずいぶん『昭和的』だなぁと思いました(笑)。実は、オヤジや私にもない部分なんですよね。


 宇田一族の手法が昭和的と申し上げたのは、かつての政治の世界は、与野党ともに『できます競争』をしていたと思うんです。国政の仕事の範疇ではないことについて、または、本当は実現できないことであっても、選挙のために有権者に『できます』と言い続けた政治が、かつては存在していた気がします。


 幸い、私は今、有権者に嘘をつかずに選挙を戦えています。そうではない、『権力の階段を上るためなら手を汚すことも厭わない』という政治家が真保さんならでの筆致で、リアリティをもって描かれているのを読んで、『こういう世界もあるのかなぁ』と感じながら楽しませていただきました。



 私なりに興味深かったのは、首相官邸や、議員会館が舞台になっていたこともあり、自分の中でリプレイしながら読むことができたことですね。この局面で移動するなら、『裏動線』を使ってこうだな、とか(笑)」


 宇田一族、総理官邸、警察組織——。三者の思惑が入り乱れる中、タイムリミットが迫る。この時限的な要素による緊迫感も、今作の魅力だと福田氏は語る。


「商社時代の経験もあり、仕事柄、なんでも構造的に見てしまうのですが、幼女の誘拐から決着までのわずか数日間という中に、いろんな人の物語を詰め込める、小説的技巧に驚きました。


 さらには真保さんの小説だから、大どんでん返しがあるはずで、このまま一直線にいくわけはないなぁと予想しながら読んでいました。つまりは、アガサ・クリスティ的に何かが出てくるんじゃないか、と。クリスティっぽいっていうのは、要するに一人一人を掘り下げていくうちに『隠された人間性』が出てくる、と。読み終えた後は、登場人物たちそれぞれの人生が織り込まれた、まさに人生模様だと感じました」



 盟友の小泉進次郎氏とともに、「人生100年時代の国家戦略」を提言し、次世代のリーダーとも言われる福田氏。多くの政治家が登場するこの小説において、福田氏が「政治家としての実力」を評価できる人物はいたのだろうか。


「終盤に登場する、ある『新しい政治家』は、永田町でのし上がっていく優秀さを感じましたね。


 政治の世界は、『商品』と言えるような現物がない。だからこそ、独自のビジョンを持てるかどうかが大事なんです。そして自身が描いた絵に対して、どれだけ多くの人の共感を得て、実現に向けて邁進できるか。彼は、その絵を描く力もあると思いました。


 政治の役割の一つに、1億2700万人の意見を一番レベルの高いところで一致させること、という部分があります。右に行きたい、左に行きたいという人たちが議論していても永遠に交わることはありません。その状況で結論を出すとすれば、合理性を超えたところ、つまりは『説得』するのではなくて、『納得』をさせなくてはいけない。


 僕が可能性を感じた『ある人物』は、今の政界で言うと、たとえば、大島理森衆議院議長のような、『あの先生が言うんだったら、振り上げたこぶしをおろすしかねぇなぁ』と、周囲を納得させる深みを持つ人物になると思いました。


 そのあたりの人物造形のリアリティもさすがでしたし、フィクションとして楽しめる部分もあって、とても贅沢なサスペンス小説だと感じました」



福田達夫(ふくだたつお)

1967年生まれ。慶應義塾大学卒業後、米国ジョンズホプキンス大学高等国際関係学研究所を経て、三菱商事へ。退社後、福田康夫内閣で総理大臣政務秘書官を務めた後、2012年12月、衆議院総選挙で初当選。現在、3期目。防衛大臣政務官(兼)内閣府大臣政務官等を歴任。




真保裕一氏コメント


「『この世の中に、過去に罪を犯してこなかった人がいるんだろうか』と考えながら、この小説を書いていました。『自分がこんなふうに脅迫されたらきついなぁ』と思います」。著者が、これ以上の誘拐モノは書けない、と断言する傑作小説が誕生した。




(「文春オンライン」編集部/オール讀物)

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