「設計図は言葉だ」安藤忠雄のスケッチから建築家の「闘いの記録」を読む

6月15日(土)11時0分 文春オンライン

 ああこれは、静かなる「闘いの記録」だ。


 一覧してそう感じた。東京・湯島にある文化庁国立近現代建築資料館「安藤忠雄 初期建築原図展−個の自立と対話」の会場でのこと。





この図面を挟んで、建築家と依頼主が真剣勝負したにちがいない


 言わずと知れた世界的な建築家・安藤忠雄は、1969年に自身の建築事務所を開いた。以来、国内外で建築の実践を積み重ね、現在も世界各地で続々と大規模な建築プロジェクトが進展中である。


 今展は、1990年代初頭までの初期国内建築における設計図面やスケッチを、惜しげなく披露しようというもの。そもそも会場の文化庁国立近現代建築資料館というのは、質量とも高いレベルを誇る日本建築の基礎資料をまとめて保存・公開する目的で設立された場。その趣旨に沿って、建築関係者が見てもじゅうぶん益するものとして、展示が構成されている。



「住吉の長屋」「小篠邸」「水の教会」「光の教会」などなど、初期の安藤建築には、いまも広く知られる名作が数多くある。それらの建築時に実用された図面の数々を目にすると、まずは歴史の重みと現物であることの貴重さがひしひしと伝わってくる。当時は設計図作成がまだ手描きの時代なので、なおさら生々しさが強い。


 近くに寄って細部を眺める。無数に引かれた直線と曲線、このすべてに意味があり、つくり手の意思も込められているのかと圧倒される。当たり前のことではあろうけれど、設計とはあらゆる細部まで考えを尽くしながらじりじりと進むものなのだ、そうでなければ建築は立ち上がらないのだと気づかされる。




 安藤事務所に仕事を頼んだ人たちは、これら図面を見せられたとき、思わず背筋を伸ばしたんじゃなかろうか。つくる側の人間が気迫をたたえて事に当たっているのがわかるから、居住者・クライアントも自身の責任と自覚を新たにせざるを得ない。


 1枚の図面を挟んで、建築家と依頼主が真剣勝負する時間が、かつてあったことだろう。会場で図面に没頭していると、そんな様子を容易に想像できる。



夢を描く図面は「設計者の言葉だ」


 あらゆる角度からの平面図や模型などとともに、完成時のありようを描いたスケッチも多々展示されていて、こちらはひたすら美しい。青や緑で淡く色付けされて、その建築プロジェクトが成ったあかつきにはどんな「場」が現れるのかを、端的に示している。



 やがて訪れる「夢」を明確なかたちにして掲げ、それを成すための現実的な方策をとことん突き詰めていく。そうか建築にかぎらず、何かをつくり上げるときに必要なプロセスが、これ以上なくわかりやすくここに開陳されているのだ。


 展覧会開催に合わせて安藤忠雄本人は、


「図面は設計者の言葉だ」


 との言葉を寄せている。ひと通り展示を観たあとには、このひとことに誰しも深くうなずけるはずだ。





(山内 宏泰)

文春オンライン

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