新幹線殺傷事件、乗客を命懸けで守ったmen for othersの精神

6月15日(金)7時0分 NEWSポストセブン

事件直後、「のぞみ」は通常は通過する小田原駅に緊急停車

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 新横浜─小田原間を走行中の東海道新幹線「のぞみ265号」で発生した殺傷事件。小島一朗容疑者(22才)は、「なた」を振るって乗客に襲いかかり、男性1人が死亡、女性2人が怪我をおった。亡くなった男性の名前は、梅田耕太郎さん(享年38)。横浜での出張を終えて、「のぞみ265号」に乗り、妻の待つ兵庫県尼崎市のマンションへと帰る途中の惨劇だった。


 梅田さんは乗客に襲いかかる容疑者を後ろから羽交い締めにして押さえ込み、その間に多くの乗客が逃げたという。しかし、最終的に梅田さんは、凶刃に倒れてしまった──。


 三浦綾子の『塩狩峠』(1966年)は実際に起きた鉄道事故に基づいて書かれた小説だ。塩狩峠(北海道上川郡)を越えたところで汽車が暴走。満員の乗客の命を救うため、鉄道職員の主人公・永野信夫が自らの体を線路に投じて、列車の下敷きになることで車輪を止める。永野も、作者の三浦自身も熱心なクリスチャン。「自己犠牲の愛」を描いた不朽の名作として知られる。


 今回の事件で命を落とした梅田さんも、神奈川・鎌倉にあるキリスト教系の名門中高一貫校「栄光学園」で学んだという。同級生が語る。


「中1からバレーボール部に所属して、ずっとレギュラー。高校に入ると身長が185cmほどになり、ポジションはセンターでした。レシーブは苦手だったけど、試合では彼のブロックに何度チームが救われたことか。下級生の面倒見係で、チームのムードメーカー。最終学年では副キャプテンをやってました。ボール拾いも審判も、人が嫌がることを進んでやる頼もしいチームメート。梅田みたいにいい奴がなんで…。本当に悔しいです」


 文武両道を絵に描いたような青年時代だった。


「文化系の囲碁将棋同好会もかけ持ちしてました。梅田くんの熱心な活動もあって、彼の代から同好会は、囲碁将棋部に格上げされたんです。


 音楽も好きで、仲間5人でロックバンドも組んでました。彼はベース担当。文化祭でやったり、高2のときは横浜・鶴見のライブハウスでもライブをやって。当時流行っていたZIGGYや氷室京介をコピーしてました。自分がでしゃばって目立とうというタイプじゃなくて、芯がしっかりしていて、どっしりと男気がある人でした。


 ニュースで名前を聞いたとき、別人であってほしいと思ったけど、そんなことをとっさにできるのは、梅田くんしかいないから…。たしか彼の実家はクリスチャンだったはずです。学校で合言葉のように使っていた『men for others(他者のために)』というキリスト教の教えが根付いていたんでしょう」(学校関係者)



◆「勇敢な行動で会社としても誇り」


「栄光学園」は東大合格実績(2018年)が全国5位(77人)という超進学校でもある。梅田さんは、学年の中でも学業優秀で、1998年4月、難なく現役で東京大学に進学した。


「工学部で電気工学の研究をしつつ、テニスサークルに所属していたそうです。卒業後は大学院に進みました。大学院3年目には、日本学術振興会特別研究員に選ばれています。これは一流の研究者の登竜門で、日本中の優秀な若手研究者が応募する中で5人に1人ぐらいしか採択されません。研究員になれば、月額20万円の研究奨励金と、年間150万円以内の研究費がでます。頭脳も明晰だし、真面目。間違いなく将来の日本を背負う研究者でしたよ」(東大時代を知る関係者)


 梅田さんは2006年4月、大手メーカー「京セラ」に就職し、主に太陽電池関連事業の研究に携わり、その後、外資系メーカーに転職。現在は、化学分野では世界最大手BASFの日本法人「BASFジャパン」に籍を置き、樹脂事業の新規用途開発や営業マネジャーなどを担当していたという。


 同社の社長は、「痛恨の極みで強い憤りを感じる」とした上で「亡くなった梅田さんは被害にあわれた女性を助けようとしたと伺っており、大変勇敢な行動で会社としても誇りに思う」とコメントした。


 普段は大阪支社に勤務していた梅田さんは月に3、4回関東へ出張。事件当日も出張を終え新幹線で帰途についていた。


「大手外資メーカーで働く奥さんと2人暮らしでした。6年ぐらい前、兵庫県尼崎市の新築マンションを購入して暮らしていました。マンションの管理組合の理事も務めていましたね」(梅田さんの知人)


 梅田さんは近所の子供たちにも優しく、マンションの住人たちは一様に「許せません」と声を震わせた。


 小島容疑者は警察の取り調べに対し、「(梅田さんに)犯行を邪魔されたので逆上してやった」と供述しているという。梅田さんの人生と勇気を前に、容疑者の来歴など語る価値はまったくない。


 家族がいて、多くの友人を持ち、将来を嘱望され、そして誰よりも愛された、勇敢な1人の男がいた。心から冥福を祈りたい。


※女性セブン2018年6月28日号

NEWSポストセブン

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