米国育ちの24歳・加藤豪将、メジャー目指す躍進の陰に松井秀喜氏のアドバイス

6月16日(日)11時0分 文春オンライン

 過去6年間でシーズン6本塁打が最高だった。それが今季は開幕からの22試合で7本塁打を放った。米大リーグ、ニューヨーク・ヤンキース傘下の3Aスクラントンでプレーする加藤豪将(ごうすけ)内野手(24)はプロ7年目を迎え、これまでにない手ごたえを得た。初の大リーグ昇格を目指し、奮闘を続ける。



今季のオープン戦には招待選手として参加した ©getty


松井氏の言葉がきっかけ


 カリフォルニア州の高校から2013年のドラフト2巡目(全体66番目)で名門ヤンキースに指名された。上限の40巡目までを使い切るドラフトでの2巡目指名だから、いかに高評価だったかが分かる。昨季まで目立った成績を残すことはできなかったが、マイナー最高位の3Aで初めてプレーした今季、開幕から好成績を残して注目を浴びる。


「パワーがあるのは分かっていた。ただそれをどうやって使うのかが分からなかった。今はそれが少しずつ分かってきました」と加藤は話す。


 きっかけは2Aトレントンでプレーした昨季にあった。ゼネラルマネジャー特別アドバイザーとしてマイナーを巡回する松井秀喜氏の言葉だ。昨季ほぼ3A専属だった松井氏が2Aに足を運んだ回数は少なかったが、加藤はその機会を逃さなかった。自分の打撃の映像を松井氏に見せ指導を仰いだ。指摘されたのは「ボールとの距離を取る」ということだった。



「オフシーズンの練習があったから」


 松井氏は「当てるのはうまいが、力が伝わっていなかった。『打つ瞬間にもう少し手を体から離してもいい』とは話した」と説明する。テークバックのいわゆるトップの位置が深くなるような改善を指導したようだ。


 加藤は「打撃の感覚は本当に言葉で伝えにくいもの。松井さんはあまりいろいろ言わないのですが、その感覚を『こういう感じ』と言うとそれだけで分かる。やっぱりすごいです」と振り返る。


「シーズン中に変えようと思ったが、毎日試合があり難しかった」こともあり、その実践はオフシーズンの宿題となった。キャンプ地のフロリダ州タンパで約3週間、マイナー選手の「打撃キャンプ」に参加。松井氏の指導を取り入れ、打撃コーチらと新たな形を追究した。「シーズンが始まっていい結果が出たのは、オフシーズンの練習があったから」と実感している。



メジャー契約「40人枠」の厚い壁


 一方でマイナーならではの厳しさは今季も変わらない。米球界ではメジャー契約(40人枠)と他の選手の扱いの違いは歴然としている。「米国屈指の労働組合」と言われる大リーグ選手会は、あくまで40人枠内の選手の権利を守るための組織。同じマイナーのチームでプレーしていても、40人枠に入っているメジャー契約の10数人とマイナー契約の選手では立場が異なる。


 日本の1、2軍の入れ替えとは違い、マイナー契約の選手を昇格させるには、メジャー契約の選手を1人解雇して枠を空ける必要がある。それだけ飛び抜けた成績を残さなければ昇格の道は開けないし、マイナー契約のうちはチーム事情に翻弄されることがいくらでもある。



 加藤は5月17日、2Aに降格した。その時点での打率は3割5厘。前夜の試合では得点につながる二塁打を放っていた。5月21日に再昇格した後は、リハビリ出場の大リーガーに押し出されて出場できないこともあった。「そういうこともあると分かっていた。自分にコントロールできることだけコントロールするということです」とプレーに集中する。


 6月8日には再び2Aに送られた。1、2年目は焦りがあったというが「今はプレーだけでなく、野球のビジネスサイドも分かってきている」と話す。とにかく活躍を重ね、まずはメジャー契約を勝ち取るしかない。


「勉強は好き」と理路整然


 何事も論理的に考え、解決しようとする姿勢が言葉からうかがえる。


 米国育ち。日本で教育を受けたことはなく、日本語の補習校に通うこともなかった。日本語で理路整然と話すのは少年時代に家で重ねた勉強の成果だという。「小さいころは野球とサッカーを両方やっていて(補習校の授業がある)土日は埋まってしまっていた。『スポーツをやめるか、家で勉強するか』と母に言われて勉強をした。勉強は嫌いじゃない、というか好きです。野球だって毎日勉強をしているような感じ」



 高校時代は、カブスのコール・ハメルズ投手ら現役大リーガー3人を出しているカリフォルニア州サンディエゴ市のランチョバーナード高でプレーした。アマ球界で名将として知られたサム・ブレーロック監督は、個々の選手の練習スケジュールやメニューをプロ並みに管理する一方、試合になると「Just play」と選手に考えさせる方針だった。このチーム運営が加藤の性格に合い、大きく成長した。カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)への進学が決まっていたが、ヤンキースからの高評価でプロ入りした。



「数字があれば納得することができる」


 理詰めで野球に取り組みたい加藤にとって、2015年に大リーグで導入されたデータシステム「スタットキャスト」のマイナーへの普及は大きかった。スタットキャストは高性能カメラとレーダーを使った情報サービスで、例えば打球角度や打球の初速などこれまで感覚で語られてきたことを、数字で確認することができる。


「バッティングは運に左右される。ヒットが出ていなくても、球は強く打てているという数字があれば納得することができる」と話し、オフシーズンの打撃改造でも数字を参考にした。「インフォメーションがあるなら、できるだけ使うのはいいことだと思う」とシステムを活用しながら「データアナリストの話だけだと、ちょっと難しい。同じことを言っていても、打撃コーチの『通訳』があるともっとやりやすくなる」とデータとの距離の取り方も巧みだ。



 今季は3Aで内野の全4ポジションを守っており、昨季は2Aで外野も守った。松井氏は「初めての3Aでいいものを見せた。どこでも守れるから使い勝手はいい。あとはとにかく打つこと」と打撃でのさらなる進歩を期待する。


「リーグのレベルに関係なく結果を出すだけ」



 5月は月間打率.203と苦しみ、6月を迎えた。加藤は「バッティングは波があるので、絶対にまた打てる時が来る。それを信じてやっている。こういうことには慣れている。大事なのは準備をして試合に臨むこと」と語る。


 2015年に極度の不振に陥り、1Aから最下部のルーキーリーグに送られたことがあった。「苦しんだ時があるから、今がある。その経験がなかったら、松井さんの指導を受けても、きっかけにできなかったかもしれない。すべての経験があって今があるという感じです」と信じるのだという。


 マイナー契約にもフリーエージェント(FA)があり、今季をマイナーで終えると、シーズン後自動的にFAとなる。現時点で来季の所属は予測できない。そしてそれはチャンスでもある。


「本当に結果を出すだけ。けが人がメジャーに戻ったら(玉突き降格で)2Aに落ちる可能性だってある。でもリーグのレベルに関係なく結果を出すだけです。そうすればヤンキースでなくても、どこかで40人枠に入るということは分かっている」


 ヤンキースタジアムから北西に約200キロ、ペンシルベニア州の小さな町にある球場で意気込みを口にした。大リーグを目指し、18歳の時から戦い続けてきた。険しい道ではあるが、決して届かない距離ではない。



(神田 洋)

文春オンライン

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