「失敗したっていい。だって現世は来世の練習だから」——岩井ジョニ男の生き方

6月16日(日)11時0分 文春オンライン

「いいとも!」の前説でタモリさんに一度だけ褒められた理由——岩井ジョニ男の生き方 から続く


 自身初のフォトエッセー 『幻の哀愁おじさん』 (文藝春秋)発売記念インタビュー後編。タモリの教え、さんまの薫陶、関根勤の寵愛……大物芸人から可愛がられすくすくと育った岩井ジョニ男。彼の芸能界生き残り戦略は「無理をしない」「流れに乗る」「年齢に逆らわない」といたってシンプル。しかしそこにはジョニ男にしか掴みとれなかったであろう人生哲学があった。オイルショック一本で生きる覚悟。岩井ジョニ男とは、令和の時代が待ち望んでいた“ネオ昭和芸人”である。 ( #1 より続く)





◆◆◆


とんねるずさんやB21さんがいたショーパブで働きたい」


——ジョニ男さんは芸歴何年目なんですか。


ジョニ男 これ難しい。やり始めたのはもう相当前、30年近く前なんですよ。最初の頃組んでた相方が病気になって辞めちゃって、ひとりになって。「これはもうしょうがない」ってタモリさんのところへ行き始めて。タモリさんの付き人時代も、何カ月に1回は舞台にひとりで立ったりしていたんですよ。「ドクターストップ岩井」という名前で。


——不吉な(笑)。


ジョニ男 ドクターストップ、ほんとにストップしちゃいましてね。タモリさんの付き人をしながらひとりでネタやってるのもなんか違うかなと。本気でやるんだったらタモリさんのところを卒業しなきゃダメだと思って。正しくは(芸歴は)そこからなのかなぁ。吉本さんは初舞台から数えるって言いますが、それだともう30年近くになりますね。


——タモリさんに出会う前は何を?


ジョニ男 とりあえず駆け落ちをした勢いで、故郷の千葉から歌舞伎町に出てきて。とんねるずさんやB21さんはショーパブで働いてたと『オールナイトニッポン』か何かで聴いてたんです。でもそのショーパブの店名が分からなかった。とりあえずわからないから、街ゆくホステスさんに「そういう店ないですか?」って聞いて回ってましたよ。


——刑事みたい。



「ナイストゥミーチュー」が生まれたワケ


ジョニ男 今思えば怖いですよ。それで、その中の何人かに教えてもらったお店に面接に行ったら、そこの社長が「いやいやいや、ナイストゥミーチュー、ナイストゥミーチュー」って。僕の「ナイストゥミーチュー」はそこからきてるんです。


——あれはショーパブの社長由来なんですね!


ジョニ男 「ナイストゥミーチュー」の次は「なによ金欲しいの?ビックになりたいの、君は」とか言って。「僕お笑い芸人になりたいんですけど」「いやいやお笑い芸人よりも、君だったらもう3カ月でベンツだよ」とか言われて。


——(笑)


ジョニ男 「いやいやいいねー。ナイストゥミーチュー、ナイストゥミーチュー。はい、合格。もう今日からいく?」って。そこから水割りの作り方とタバコの火のつけ方、ダンス、横浜ジルバとかね、教えてもらって。



——そこはもしかしてショーバブではなく……


ジョニ男 ホストクラブでした(笑)。「つ〜まさ〜きた〜て〜て海へ〜〜」とかやりながら、これお笑い芸人になれるのかなって疑問に感じ始めて。酒飲まされて、すっごい辛いし。それでも10カ月ぐらい働きましたかね。ちょうどその頃よくタモリさんの本を読んでました。タモリさんがすごく気になっていたんですよ。「シュールレアリズムとか大したことない」とか言ってて。不思議な人だな、面白いなって。偶然そこのお客さんがタモリさんの家を知ってて、そこから……


——例の、「付き人にしてください」行脚が始まるわけですね(詳しくは 『幻の哀愁おじさん』 参照)。


ジョニ男 そうです。



「気を遣うほうが自分には合ってる」


——先程も、さり気なくストローの紙くずを片付けてらっしゃいましたが、そういう所作もホストクラブや付き人時代に培ったものでしょうか。


ジョニ男 そうですねぇ。どうしてもその辺りの癖は未だに抜けなくて。ゴルフに行っても、後輩のゴルフバッグをつい積んじゃうんですよ。ゴルフ場についてゴルフバッグを車から下ろすと、その後ろに来た車のも下ろさなきゃって走ってっちゃう。


——知らない車なのに(笑)


ジョニ男 向こうの人がビックリですよ。もうね、これは直らないですよね。ひとりでラーメンを食べに行ったら、全然知らない隣の人の水までついじゃうこともあるし、無意識で。


——体が勝手に反応しちゃうんですね。


ジョニ男 根本的に好きなんですよね、そういうことをするのが。「やらないで」って言われる方が辛い。だから酒を注いでもらうのが嫌なんですよ。手酌がいいんですよ。でも人には注ぎたい。酒とお水と氷のセットは自分の傍に置いておきたい。


——会社だったら出世するタイプ。


ジョニ男  いや、万年平のパターンでしょう。



——万年係長ぐらい?


ジョニ男 万年係長いいですね。いやぁー、憧れるなぁ。やっぱり上にいけばいくほどね、責任というものが色々出てきて辛いでしょう。誰かにやってもらうよりは、誰かのお世話をしたいなぁと。


——その辺りは、いわゆる「お父さん」とは違うところかもしれないです。


ジョニ男 22の時にやめたんです、亭主関白は。当時今の妻と付き合ってたんですけれども、それまではすごく威張っていました。自分の父親がそういう人間だったので男とはそういうものなのかと。でもこれ無理してるなって、なんか違うと思ったんですよね。


——相手を喜ばせる方が自分には合っていると。


ジョニ男 そうです。気を遣った方が向こうも喜ぶわけじゃないですか。うちの妻にも相当気を遣ってますよ。その方がたぶんうまくいくと思うんですよね。



——特に現代はそんな気がします。


ジョニ男 親でさえもそうかなと。親だから、血が繋がってるから何言ってもいいとなると、喧嘩で終わるじゃないですか。僕もよく喧嘩してたんですよ。でもある時に、この人たちも人間じゃないですか、なんでもかんでも言っちゃいけないなって思って。そしたら全然気が楽になりましたね。


——身近な人ほど気を遣うべきなのかもしれない。


ジョニ男 ちゃんと挨拶とか。僕は家族に「おはよう」とか「おやすみ」とか、必ず言うんですけど、うちの妻は家族に挨拶することに最初びっくりしてた。今うちはみんなそうやってやってますけどね。そっちの方が、多少の社交辞令があった方が、うまくいくような気がするんですよ。だから後輩の肩を揉みながら「最近どう?元気?」ってやらないといけないと思います。



——それは「好かれたい」とかではなく?


ジョニ男 自分にとっては後輩でも、誰かの先輩だったりするわけだから。やっぱり色んな顔があるわけですよ(笑)。


——確かに、タクシーの運転手さんに厳しい人とか嫌かもしれない。


ジョニ男 あぁ嫌ですねー。あれなんですかね、タクシーの運転手とか店員さんとかね。がっかりしますよね。


——すごい腰低い人だと思ったら、急にぞんざいになる。


ジョニ男 「そういうところがあるってことは……」ってなりますよ(笑)。


「現世は来世の練習でいいんじゃないか」


——突然ですが「売れたい」という感情はありますか。


ジョニ男 売れたいなとすごく思ってました。「20代で売れてやる! そしてスーパーカーに乗るんだ!」とか。でもだんだん年齢を重ねていったら、目が悪くなってきて、車の運転が怖い。安全運転の方がいいです。すごい高いものとか、油っこいものがだめになってきて、一番食べたいのはふきの煮物になる。



——欲望の形が変わってくるのでしょうか。


ジョニ男 そうだなぁ。年齢と共に「お金持ち=幸せ」っていうのがなんか違うんじゃないかな思えてくるというか。でもね、そういう欲求とは上手に和解できてるのに、人前で緊張することはなかなか解けないんですよ。慣れることもないし。なのである時考えたんですよ、俺「この現世は来世の練習でいいんじゃないか」って。


——来世の練習……。


ジョニ男 練習なんだから失敗したっていいじゃないかという気持ちで今生きているんですよね。これ言ったら関根さんは死ぬほど笑ってましたけど(笑)。「これをやったらこういう失敗した」ということがわかればいいんですよ、今世は。だからとにかく失敗してみるという風にシフトしました。BIG3、ダウンタウンさん、ウンナンさん、とんねるずさんとか、あの人たちの歴史を紐解いていくと、もう20代でバンバン冠番組やってるんです。これ時代のせいにするわけにはいかないんですよね。そう考えると、これは今更無理だなと(笑)。だったらあの方たちに会える喜びを素直に受け止めよう。あの方たちが笑ってくれればいい。4、50になってガチガチってなんか情けなくないですか。



——う、私(42歳)いつまでたっても取材はガチガチです。


ジョニ男 僕もそうなんですよ。でもそれって相当自分を追い込んでるし、失敗しちゃいけない、これ結果出さなきゃいけないって思っちゃってるから。それだめだなと思って。そこからは切り換えて、もう今回練習です、と。


——なんでしょう、気持ちが楽に(笑)。


ジョニ男 そう考えると、そんなに怒ることもないし、人のせいにすることもない。「お前のせいで失敗したじゃーん」が「ありがとう、失敗させてくれてありがとう」になる。


——そうですね、練習でよかった……。



「自分に似合わないことをやってもウケない」


ジョニ男 そうそう。次に同じシチュエーションが来ても、あの失敗があるから、違うことができる。また同じような失敗もするんですけど(笑)。


——あれ、目が覚めた。この取材練習じゃない本番だ。


ジョニ男 いやいや。そう考えたら色々経験できるし、何よりそっちの方が色々楽しいじゃないですか。僕ね、あまり色んなことができないなということがだんだんわかってきたんですよ。自分に似合わない、できないことはどうしてもある。面白いこと思いついても、僕が大喜利で出すとウケなかったりする。似合ってないからウケないんですよね。他の人だったらウケるのかもしれない。


——なるほど。


ジョニ男 そうやっていくと、自分にウケるものがだんだん限られてくるんですよね。飯尾さんなんかも「ちょっとジョニ男さんの真似してダジャレ言ったけど、全然ウケなかったです」って言いますし(笑)。そうなるともうやること1つみたいな感じになってきて。昔よりも色んなことやらなくてもよくなってきたなと思って。だから「やりたいこと」より「できること」。オイルショック1本で。


——磨いて磨いて。


ジョニ男 それはもうさんまさんとか関根さんとか飯尾さんとか、もちろんタモリさんとか、皆さんのおかげ。すごい人たちのおかげで自分にしかないものがわかったというか。



——ジョニ男さんのそういった魅力がそがれることなく、ここまで来れたのはどうしてだと思いますか?


ジョニ男 いやほんと先輩とか後輩のおかげですね。やさしくしてくれた(笑)。浅井企画という事務所と。ゴルフ場行くと関根さんよりも年上に見られて、会計が僕に回ってきますけど。


——あのちょび髭の人が最年長に違いない(笑)。


ジョニ男 それだけは勘弁していただきたい。だって僕、ゴルフ場まで軽自動車で行ってるんですよ。その人間がなぜ関根さんのお会計を払わないといけないのか! 軽自動車わざわざ遠くに停めてるのに!


——なぜ遠くに?


ジョニ男 ゴルフ場の景観がそがれるんじゃないかなと思って。豪華なゴルフ場で、軽自動車が真ん中に停まってたら問題あるじゃないですか。だから遠くに停めて、歩いてくるんですよ。


——気遣いがすごい。



「金払ってるんだからいいだろう」という態度のおじさんは最低


ジョニ男 いや、雰囲気を壊したくないんです。それは寿司屋に行っても……若者がカウンターのある寿司屋にいるのはちょっと……とかあるじゃないですか。スワロフスキーっていうの? ああいうのでデコレーションされた携帯を寿司屋のカウンターにポンと置いたりされると、ちょっと待ってくれよと。まだ回る寿司屋の方がいいぞと思いますよね。俺だって最近だぞ。


——“ジョニ男’sルール”がある。


ジョニ男 ありますね。人には言えないですけど、強要できないから。あ、後輩には言うな。アイコスだからって、断らずに吸うなよとか。


——細かい! だけど正しい!


ジョニ男 おじさんでもあります。「金払ってるんだからいいだろう」という態度のおじさん、もう最低ですよね。ああいう大人だけはなりたくないなと思いますよ。年とってくるとだんだんひどくなる。



——「金払わないし、威張る」みたいな人もいますし。


ジョニ男 ええ! それはダメだ。せめて面白かったらね、それが。「もうまたですかぁ?」って。うちの事務所の剛州さんという人がそうです。ウドさんにずっとお金を払わせて、ウドさんの家に居候して、後輩にもずっとおごってもらい続けているけど、「またですかぁ」を言える人だから。そういう人はやっぱいい……いや良くないか、剛州さん。


——キャラクターですかね、許される許されないは。


ジョニ男 そう、キャラで、なんか放っておけないという。


「売れて偉そうになってしまう自分が怖い」


——剛州さんはちょっとレベルが高いですが、でもジョニ男さんのように、無理せず自然な大人になりたいと思う若者は多いと思います。


ジョニ男 僕なんか負け犬の遠吠えですが。結構早めに自分のことがわかって、がっかりもしましたけど。


——がっかりした?


ジョニ男 ケンカが強いとか、スポーツができるとか、あと勉強ができるとか、そういうのが何ひとつもないから。人間はたぶん防衛本能みたいなものから、お笑いを編み出したんじゃないでしょうか。あいつ何もできなけど、面白いからいいじゃん、みたいなね。自分の人生を見ていてそう思うんです。



——あいつあんまり食料取ってこないけど、まいっか面白いから、みたいな。


ジョニ男 そうそうそうそう。縄文時代とか外が暗いから、あいついると夜が楽しいなって。


——土器作るのは下手くそだけど。


ジョニ男 手先がね、不器用だから(笑)。今の時代もいつの時代もそういう人はいて、生き残っていくにはそれしかなかったんじゃないかな。


——今はそういう人の方が時代のメインになってきてる気がします。偉そうにしないとか、周りを盛り上げようとするとか。


ジョニ男 そういう人でも権力を持つと人間が変わっちゃうじゃないですか。それが嫌なのかもしれないですね、僕は。だから売れるということを1個諦めた。売れて偉そうになってしまう自分も怖いし。絶対ならないけどね、もう。


——売れて偉そうになるのは、ダサいですね。


ジョニ男 それだったらならない方がいい。永遠係長でいいわけですよ。


——あ、この本も売れすぎちゃうとちょっと困る……。


ジョニ男 そ、それは! いやぁ売れて欲しい。それはもう、協力してくれた方への恩返しです!


写真=榎本麻美/文藝春秋




(西澤 千央)

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