「今何してるんですか?」「フリーターです」  ホークスの寡黙な大エース・摂津正さんに会ってきた

6月16日(日)11時0分 文春オンライン

 ドラフト5位での入団ながら、プロ1年目の2009年からバリバリ投げて新人王を獲得。2年連続最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲り、先発に転向してからは5年連続2桁勝利。2012年から5年連続開幕投手、沢村栄治賞まで獲り、投手として輝かしい功績を残した攝津正さんが2018年限りでユニホームを脱いだ。


 現役時代は口数が多い方ではなく、派手なパフォーマンスもない寡黙な印象を与え続けた男だが、ホークスファンからはとても愛されていた。



現役時代、寡黙な印象を与え続けていた攝津正 ©文藝春秋


攝津さん、普段は何をしてるんですか?


 そんな攝津さんが野球界を離れて、普段何をしているのかご本人に会いに行って聞いてきた。


「こんにちは〜! よろしくお願いします!」


 満面の笑みで著者を迎えてくれた攝津さん。現役時代とはあまりにもかけ離れた笑顔に「えっ! そんなに明るいキャラなんですか?」と口に出してしまった(笑)。


「まぁプレッシャーから解き放たれてこうなったと言いますか、はっはっは」


 話を聞き出すのに時間が掛かると想定していた著者の覚悟は一瞬で消えた。


 単刀直入に「攝津さん、普段は何をしてるんですか?」と聞くと「フリーターですよ(笑)」と即答。現役時代は一問一答の印象だった攝津さんだが、次の質問をしたわけでもないのに次々に話してくれた。


「娘の保育園のお迎えに行ったり、誘われればゴルフに行ったりもしますし、たまに野球の解説が入るんでその時はヤフオクドームに行きますねぇ」


 とにかく、どんどん話す。攝津さんの趣味が魚釣りというのはホークスファンの間でも浸透しているのでそのことも聞いてみた。


「釣りはしていますよ、でも週に1回ぐらいですかねぇ。毎日はさすがに行かないです。でもこのあいだ長崎であった釣りの大会に行ってきましたよ。200g釣果が足りなくて全国大会逃したんですよねぇ、あれは悔しかったですね」


——釣りに行くのはどなたと?


「1人ですよ(笑)。自分で道具積んで車を運転して長崎の港に集合して、それから知らない人と2人一組で競技していくんですよ」


——え、ちょっと意外です。人見知りとかしないんですか? 


「釣りしてる時はそんなに話したりしませんしね。だけど向こうは名前と顔見てあっ! 攝津だ! みたいになってますけど(笑)。最後は壁に順位が貼りだされて、攝津正って書かれてる所にカメラを向けて写真を撮ってる人が結構いたんで、知ってくれてるんだなぁって見てましたね」



 現役時代は釣り具を積む為にハイエースを購入し、天井部も釣竿だらけだった。しかし、その愛車と違う車で来ていたのでそのことを聞いてみた。


「あぁ、あれですね。現役時代って選手専用の駐車場に入るんですけど、その時のガードマンから業者と間違えられて3回ぐらい止められたんですよ。だからもう辞めました(笑)」


 まあ、なかなか釣り具まみれのハイエースで出勤してくる野球選手はいないだろうから仕方ない気もする(笑)。


ラジオのレギュラーという挑戦


 そして、引退後の攝津さんの生活の中で一番意外だったのが、4月からラジオでレギュラー番組を持っている事だ。その名もRKBラジオ『摂津正のつりごはん』(※毎週日曜日 朝6:10〜)。



 テレビならまだしも、ラジオは常に声が出ていないと“事故”になるメディアだ。それを寡黙な大エースの攝津さんが引き受けたのだ。


「『ラジオのレギュラー番組をやりませんか?』って言われて、えっ? 俺がラジオ? って思いましたし、周りからも『お前がラジオは無理やろ! 大丈夫か? 辞めとけ』って、よってたかってメッチャ言われました(笑)」と明るく話しながら「でも、今までやったことない事は挑戦してみようと思って引き受けたんです」と微笑んでいた。



 現場でも意外に御茶目なそぶりをする一面もあり、ラジオ番組は同学年の三好ジェームスアナウンサー(37)とテンポよく展開され、釣りをしたことが無い人にも釣りの楽しさと魚料理の素晴らしさが伝わるバラエティー番組になっている。著者もラジオの仕事を長くやっているが構成も内容も良くできていて攝津さんの事を仮に知らない人が聴いたとしても面白い番組になっている。そして“攝津投手ってこんなに喋るんだぁ”と思わされるに違いない。


 すっかりラジオパーソナリティとなった攝津さんは番組の中で生まれた「レッ釣りゴー!」というフレーズを元気に発し、リスナーからのメッセージを読みながら曲紹介までこなす。




攝津さんが持つ喋り手としてのセンス


 番組リスナーからのメッセージはradikoアプリの影響もあって全国から届いている。それを攝津さんが紹介しながら答えていくのだが、先日の放送の中で『夫婦仲良くする秘訣を教えてください』という内容のメッセージが来た。


「俺も教えてほしいわ!」とおどけながらも「極力刺激し合わない事が大事ですね(笑)」と答えた。


 こういうたぐいの番組は野球人だった頃の功績でおんぶに抱っこになりがちだが、攝津さんの場合はラジオパーソナリティーとして非常に大事な「ほどよい私生活の切り売り」というのが無意識にできてしまうセンスがある。話の流れの中でスムーズに夫婦でゴルフに行ったエピソードも紹介していた。


 野球人・攝津正ではない真っ直ぐな喋り手としての心意気が伝わるのも番組の聴きどころと言えよう。sakana@rkbr.jpに攝津さんへのメッセージを送れば本人に読んでもらえて番組特性ステッカーがサイン入りでもらえる可能性があるそうだ。



 番組ではラジオなのに釣りロケも敢行される。その臨場感を伝えていくのも魅力の番組だが、何より関心させられたのが、攝津さんが釣りの専門用語を噛みくだいて話していることだ。著者も含めて釣りをしない人も多く聴いている事を彼は意識して喋っている。攝津さんが持つ探究心とセンスによって『ラジオで釣り番組』という無謀感をスッキリ解消してくれているのだ。これはラジオを始めて2か月ほどで簡単に身に付くものではない。


 最後に、この番組を家族は聴いているのかと伺ったところ、「妻が毎週聴いてくれてます。ラジオだけど風景が見えるよ、なかなか良いよって言われました(笑)」と嬉しそうに話してくれた。



 あんなにも寡黙な大エースがこんなにも明るく笑顔で喋るという意外性。


 現代の野球解説は当たり前に専門用語で“差し込まれた”とか“おっつけた”などの言葉が使われるが、きっと野球に興味のないおばちゃんにも分かりやすい時代に合った解説をする力が攝津さんにはあると著者は感じている。


 そして、いつの日かユニホームを着た攝津正さんの姿を心から見たいと思う。


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(加藤 淳也)

文春オンライン

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