中村隼人「父は中村錦之助、祖父は中村時蔵。歌舞伎界のプリンス、芸事以外は料理に夢中」

6月17日(木)18時30分 婦人公論.jp


「舞台を支えてくださる人たちの思いに応えるためにも、もっと精進したいと思うようになりました。」(撮影:大河内禎)

父は中村錦之助、祖父は四代目中村時蔵、大叔父に俳優・萬屋錦之介。梨園に生まれ、迷いなく歌舞伎俳優の道へと進んだ中村隼人さんも、今や27歳。映像の世界へも活躍の幅を広げる《歌舞伎界のプリンス》の芸への思いは──(構成=大内弓子 撮影=大河内禎)

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背負う責任が重くなってきた


『婦人公論に長いインタビューをしていただくのは8年ぶりになります。振り返ると、当時は20歳の誕生日を迎える前で、自分はまだまだだと焦っていた時期でしたね。先輩たちに通用する芝居ができていないし、人を引きつける力も備わっていない。すべてに悔しい思いをしていた毎日でした。

じゃあ今はどうなのかと問われると、やっぱり常に悩んだり迷ったりしていて、根本は変わっていないような気がするんです。ただ、乗り越えなければいけない壁が8年前より高くなっていて、悩みのレベルも上がってきている。ちゃんと成長できてはいるのかもしれないですね。

なかでも大きく変化したのは、背負う責任が重くなってきたことです。とくに、2018年初演の新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』で、(二代目坂東)巳之助さんと一緒に座頭を勤めさせていただいたことは、一気に自分を変えてくれたと思っています(巳之助さんはナルト役、隼人さんはサスケ役)。

何しろ座頭というのは、もしもその公演が失敗に終わったら、責任を全部負わなければいけない立場。これは(四代目市川)猿之助さんに教わったのですが、一つの公演にどれだけの時間やコスト、人の力がかかっているのかを、ちゃんと把握しておかなければならないので。そういったことも意識するようになりました。

公演にかかわってくださっている人数を改めて認識して、そこで初めて、皆それぞれに家族がいて生活があって、それが僕たちにかかっているということに思いが至りました。そして、そんな人たちが全力を注いで作ってくださっている舞台に対して、自分は真摯に向き合えているだろうかと、改めて考えたんです。舞台を支えてくださる人たちの思いに応えるためにも、もっと精進したいと思うようになりました。

孤独を感じた時期も……


——新作歌舞伎『NARUTO』をはじめ、新たな挑戦に参加する機会が多い隼人さん。10代の頃から、大河ドラマに連ドラにと、映像作品にも積極的に出演してきた。最近では、バラエティ番組『ヒルナンデス!』にシーズンレギュラーとして出演。父は二代目中村錦之助、祖父は四代目中村時蔵、大叔父は俳優・萬屋錦之介という梨園のプリンスでありながら、自らをどんどん未知なる世界へ連れ出している。

伝統を守っている歌舞伎の世界にいながら新しいことをするのは時に大変で、孤独を感じた時期もありました。ただ、それは僕だけの悩みではなく、僕より先に新しいことにチャレンジしてこられた方々がいらっしゃる。

たとえば僕がよくお世話になっている猿之助さんや、(十代目松本)幸四郎さんは、同じように闘ってこられたと思うんです。このお二人とは年齢的にも近すぎず遠すぎずのいい距離感なので、いろいろと相談させていただくことも多くて、いつもアドバイスをいただいていますね。

猿之助さんからは、やはり先ほどの座頭の役割など、舞台人としての精神性みたいなところを教わり、幸四郎さんには、20代前半の頃に立ち回りを教えていただいたことをはじめ、芝居についての具体的なところを厳しくもわかりやすく教わって。僕は本当にお二人に育てていただいたと思っておりまして、あのお二人がいなかったら今の僕はないと断言できます。

とはいえ、やっぱり役者というのは孤独なもので、役に向き合う時間はひとりなんです。「孤独じゃないといい役者になれないよ」と、これも猿之助さんがおっしゃっていましたが、自分を高めるのは自分しかいない。そういう意味では、歌舞伎以外の仕事もしてきて、そこで吸収したものはたくさんあるという自負もあるんです。


「歌舞伎以外の大先輩とじっくり芝居をさせていただいたことは、僕の糧になっています。」

その最たるものが、2年前に出演したBS時代劇『大富豪同心』というドラマです。NHKの連続ドラマで主演をさせていただくというのはやはり大きなことでしたし、歌舞伎以外の大先輩とじっくり芝居をさせていただいたことは、僕の糧になっています。

演じたのは、放蕩三昧の孫の将来を心配した祖父に、同心として就職させられる卯之吉。武道も走るのも苦手で、同心にはまったく向いていないものの、その超然とした態度を周りが誤解することで、勝手に事件が解決されていくという痛快娯楽時代劇なんですが、その役が似合っていてとてもいいと、皆さんに言っていただけたんです。

歌舞伎と違って映像は一期一会の世界。共演した方とはもう二度と会わないかもしれない。そんな方々が言ってくださることには嘘がないと思いますから、自信になりました。

このたびそのドラマのパート2の放送が始まります。今回は、卯之吉だけでなく、将軍の弟・幸千代との2役を演じて、卯之吉が幸千代の替え玉になったり、さらに周りを振り回すことになります。僕もどんなふうに映っているのか楽しみなのですが、将軍を(二代目尾上)松也さんが、そして幕府の老中を幸四郎さんが演じてくださっているんです。

松也さんもいろいろなことに挑戦なさっている方ですし、そういった憧れの先輩方が、自分が主演を務める作品に出てくださるのは本当にうれしいことで。幸千代役のときは僕が幸四郎兄さんを「無礼者!」と怒鳴るシーンもあるのですが、カットがかかった途端、幸四郎さんが、「隼人、わかってるだろうな」と凄んで僕をイジって現場を笑わせてくださったりして。おかげで僕も肩の力が抜けましたし、ドラマでも助けていただきました。

感情の起伏が表現しやすくなった


——共演者のひとり、卯之吉を想う美鈴役の新川優愛さんによると、「撮影現場での隼人さんこそ終始笑顔で現場を和らげていた」という。さらには、隼人さんと話していると誰もが笑顔になり誰もが彼を好きになっていったとか。多くの人に愛される人柄が、ドラマ作りにどんな影響をもたらしたのか。

『大富豪同心』のパート1が終わったときに、パート2をやりたいという声がキャストからもスタッフからもたくさんあったんです。プロデューサーさんも、「出演した役者さんたちがこんなにパート2をやりたいと言ってくれる作品っていうのも珍しいよ」とおっしゃっていたので、本当にありがたかったですね。

きっと自分が頑張っていなかったら、《次》はなかっただろうと思うので、やはり、いただいた仕事をちゃんとやることが大事なんだな、と改めて感じました。

だから、今はあまり先のことは考えていません。よく、歌舞伎で憧れている役や今後やりたい役を聞かれるんですが、そこにたどり着くには、まず今いただいているものに対していかに真剣に向き合うか、いかにお客様に響くものを作るかを大切にしなければならないと思っているんです。

お客様にちゃんと届けるのは、実はいちばん大変なことですし、僕は器用なタイプではないので、とにかく精いっぱい稽古して、精魂込めてやっていくしかないと思っています。

ただ、これも褒めていただいてうれしかったことなんですけど、『大富豪同心』のパート1のあと、スーパー歌舞伎II『新版 オグリ』でご一緒した浅野和之さんに、「芝居が緻密になった」と言っていただいたんです。「どの表情もその役になっていた」と。浅野さんとはスーパー歌舞伎II『ワンピース』でもご一緒していましたから、その方がそうおっしゃってくださったのはうれしかったですね。

歌舞伎の芝居はわりと、繊細じゃないところで表現することが多いと思っているので、そういうところに着目していただけるものなのかと、意識するようになりました。

確かに、映像でお芝居をしたことで、感情の起伏が表現しやすくなったとは感じます。歌舞伎では、「ほかの人が話しているときは書割になっていろ」と教えられるんです。だから先輩方は、黙ってじっとして、お腹の中でぐるぐると感情を回しながらその役になっていく。

それは本当に難しいことなんですけど、映像の仕事で、相手の台詞を聞いているときの芝居が大事なんだと教わったことで、歌舞伎でも無言のときの感情がわかるようになった気がします。同じ歌舞伎の台本を読んでいても、前とは違う読み方ができるようになってきたなと思います。

メラメラと負けじ魂が燃える


褒めていただいたと言えばもう一つ、『大富豪同心2』でお茶のシーンがあって、所作がさすがだと言っていただきました。茶道や書道、日本画、それから歌舞伎俳優としては当然ですが、三味線や小唄もずっと勉強しています。

『大富豪同心』も、ほかにもっと映像で主役に適した方がいらっしゃるなかで僕にお話をいただいたのは、そういった芸事ができるからこそだったと思うので、自分にしかできないところを活かし、伸ばして頑張ろうと思っていましたね。

芸事以外でハマっているのは料理です。自分の好きなものを作って食べるというのが息抜きにもなるし、楽しいんです。最近は、ドラマで共演している池内博之さんに教えてもらって、トルティーヤを作りました。とうもろこし粉か強力粉で作って冷凍しておいて、食べたいときに焼いてトマトや玉ねぎを挟んで食べる。ヘルシーでおいしいんですよ。

自分で作ったものはけっこうおいしいです。いい舌を持っているんじゃないかと勝手に思っています。(笑)

ドラマで主演したり、座頭を勤めるようになったことについては、祖母がとても喜んでくれています。祖父の四代目時蔵は34歳で亡くなってしまって、祖母もつらい思いをしたことが多かったみたいなので、祖父のぶんまで僕が活躍することで祖母の思いを晴らしてあげたいなとも思うんです。

でもたまに、「まだまだあんたは足元にも及ばない」と言われるんですよ。祖父は、カッコよくて美しくて評判の歌舞伎役者でしたから。そう言われるとやっぱりメラメラと負けじ魂が燃えるんですよね(笑)。祖父に少しでも近づけるように、これからも頑張るしかありません。

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