爆笑か、失笑か……西武・熊代聖人、試合前の“訓示”に対する試行錯誤

6月18日(火)11時0分 文春オンライン

「みなさん、いや、お前ら、いいか〜……」


 このフレーズに、ピンときた方も少なくないかもしれない。昨シーズンから始まった、ホームゲーム時に行われる、熊代聖人選手による恒例の“訓示”の出だしの常套句である。


 この“訓示”の秀逸さについては、昨年9月にこの 文春野球 でも紹介させていただいた。


 その盛り上げが、チームの10年ぶりリーグ優勝に一役買ったとして、オフシーズンにはテレビ各局の人気番組にも出演し、実際に披露。すっかり全国区となった。


 優勝の験担ぎとして、今シーズンも引き続き、ホームゲームのセカンド・アップ後に必ず行われている。果たして、昨年からの変化はあるのだろうか。周囲からの評判はいかがなものか。ずっと気になっていた。



“訓示”でチームを盛り上げている熊代聖人 ©時事通信社


“影のシナリオライター”不在で悪戦苦闘の日々


「銀さんって、やっぱりすごいなぁと思わされています」


 熊代選手本人に直撃すると、真っ先に返ってきたのは、昨季までのチームメイト炭谷銀仁朗選手(FA権を行使し、今季巨人へ移籍)への追憶の言葉だった。というのも、連日笑いに包まれていた昨年の訓示、その内容の多くは、炭谷選手の助言をヒントにしていたからだ。その、“影のシナリオライター”がいなくなり、今年は「本当にネタがないんです」。悪戦苦闘が続いているのだという。ましてや、あれだけ話題になり、注目を集めたことで、チームメイトたちが求めるハードルも相当上がっている。「最近、みんな全然笑ってくれないんですよ」。人知れずヘコんでいることも多いそうだ。


 そんなある日、巻き返しを図るべく千載一遇のチャンスが巡ってきた。6月11日からの3連戦、対戦相手が巨人だった。「絶対に、銀さんに聞いてきます!」。アドバイスとネタを提供してもらおうと、意気揚々と名脚本家の元へ向かったが、結果は「あかんかったです」。撃沈に終わった。せめて、そのショックをネタにしようと、早速その日の訓示でエピソードとして披露することにした。


「みんな、いやお前ら、聞いてくれ。去年まで“ゴーストライター”といわれていた炭谷銀仁朗に、ちょっと(訓示の)アドバイスを聞きに行ってんねんけど、笑いながら『ないってー』って言ってたわ。『ない』ってなんやねん!」


「…………」


 残念ながら、期待した笑いは起こらなかった。


 こんな風に失笑に終わろうとも、次の日も、また次の日も、熊代選手は毎日変わることなく輪の中心に立ち続けている。実は、そこには「やりきる、という強いメンタルを見せつけていきたい」という強い信念が隠されている。


毎日同じテンションでみんなの前に立ち続けるということ


 内容がウケた、ウケなかったももちろんあるが、それ以上に、一人の人間である。いくら元気印が専売特許といえども、日々生きていれば、心身ともしんどい日があるのも当然だ。時には、「今日は一人でひっそりしていたいなぁ、と思う日も、正直あります」。それでも、そんな様子は微塵も出さず、常に同じテンションで訓示を告げている。「それは、みんなのおかげでもあるんですよね。僕だけではなく、逆に、聞く側にも、『聞きたくない』という日があると思います。でも、みんなが『やるんでしょ』みたいな雰囲気を作ってくれているので、『行かなあかんな』と思えます」。


 また、もう1つ支えとなっているのが、尊敬してやまない先輩の存在だという。「栗山(巧)さんが、よく『良い時にしろ、悪い時にしろ、いつも一定の同じ状態で極力いられるように』と言っているんです。実際、栗山さんは、練習でも毎日アーリーワーク(早出練習)の前からしっかりと体を動かしていたり、姿勢で見せてチームを引っ張ってくださったり、常に変わらないので本当に尊敬します。僕も、野球ももちろんそうですし、それ以外でも、グラウンドに出たら、毎日同じ気持ち、テンションで極力いられるようにと思っています。その1つが訓示ですね」。


 こうした『毎日同じテンションでみんなの前に立ち続けている』姿を、「本当にすごいと思う」(岡田雅利選手)、「自分じゃ絶対にできない」(駒月仁人選手)など、密かに他の選手たちも賞賛している。その意味では、言葉以上に、姿勢こそが最高の“訓示”となっていると言っていいだろう。



熊代選手にとって、“訓示”とは?


「でも、やるからには笑わせたい。笑わせて、雰囲気を良くしたいんですよね」と、ムードメーカー。シートノック後にチームで行われる円陣、通称“声出し”の中で、外崎修汰選手が具志堅用高氏の話題を取り上げるなど、『偉人編』が流行った時期があったという。それにも、早速便乗した。


「なんかみんな最近、偉人にハマってるらしいから、俺も偉人を1人紹介するわ。それは、真弓夫人。俺の嫁や。今まで結婚生活7年、いろ〜んなことを言われてきた。その中で、1つ紹介する。どういう経緯があったかはちょっと忘れたけど、喧嘩っぽくなってて、その最後に、『私がおらんかったら、何もできんくせに』と言われた。まさにその通りや。みんなもそういうことを言われないように、今日も頑張っていこう!」。大爆笑だった。


 また、直近では、6月14日vsヤクルト戦。


熊代「最近、(スタンドで)見てるファンから『熊代、大丈夫?』みたいに思われているらしいから、俺が適当に『熊代』と言うから、それを合図に、お前らちょっと笑ってくれ! いくぞ、『熊代!』」


選手たち「ハハハハハ〜(笑)」


熊代「そうそう、それそれ! 今日も行くぞ!!」


 ネタ切れのため、苦肉の策として捻り出した、「周りの人に面白そうに見せる」ための“強制爆笑”だったが、ことのほか好評だった。笑ったことで、チーム全員のテンションが上がり、試合は初回から5安打3得点、4回には一挙8得点を挙げる大勝となった。シートノック時、誰かが呟いたのを、熊代選手は確かに聞いたという。「やっぱり、笑うってことは、大事なんだな」。それを聞いて、気付かされた。「“訓示”にとらわれてるからダメなんだなと。もっと柔軟に、貪欲に、いろんなことをやって、最終的にチームがまとまるようにしたい」。


 某人気ドキュメンタリー番組のごとく、改めて聞いてみた。「熊代選手にとって、“訓示”とは?」。


「自分自身にもそうですし、チームにとってもそうなってほしいと思うのですが、1つの『モチベーション』ですかね。それがあるから頑張れる。もちろん、プロ野球選手としては、野球でのモチベーションが一番です。それプラス、みんなも聞きたくない日がある中で、聞いてくれる。それに対して、僕も言いたくない日もあるけど、絶対にテンションを上げておかないと言えないこと。それでみんなが本当に爆笑してくれたら、僕ももちろん、みんなもテンションが上がるでしょうし、それがチームの雰囲気、さらには多少なりともパフォーマンスまでも左右すると思ったら、やっぱり『モチベーション』なんだと思います」


 1つのことをやり続ける姿勢と、「4回に1回ぐらい笑いが起こる」(外崎選手)話術がもたらす効果は、決して小さくはない。すっかりチームのルーティーン化された“熊代劇場”。今では、ホームゲームの毎試合、リアルタイムでメットライフドームのオーロラビジョンにその様子が映し出されている。爆笑か? 失笑か? 球場に足を運んだ際は、ぜひ、その模様も一緒に楽しむことをオススメしたい。


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(上岡 真里江)

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