世界中で手探りが続くeスポーツビジネスで成功するために言えるたったひとつのこととは? アジア諸国のイリーガルなゲームシーン、新興国で強豪選手が育つ理由、国家とeスポーツの関係

6月18日(火)11時30分 電ファミニコゲーマー

 過日の「EVO Japan 2019」で、『鉄拳7』部門で優勝したプレイヤーが大きく話題となった。それは、彼が無名のパキスタン人だったからだ。また、彼は自国内ランキングの8位であり、国に戻れば彼よりも強い人間がまだまだいるという発言も、驚きとともにあちこちで報道がなされた。

 なぜ、彼はそんなに強かったのか。そしてそんな彼が極東で開催された大会になぜ飛び込んだのか。

 そんな疑問に端的に答えてくれる人物がいる。それは複数の言語を使いこなし、世界中のあらゆる国に独自の人脈を持ってゲームの情報を収集し、ゲームのためとあらば危険なブラックマーケットにも飛び込んでいく、ゲーム専門調査会社・メディアクリエイトの国際部主席アナリスト、佐藤翔氏だ。

 この連載「世界は今日もゲーマーだらけ」では、その佐藤氏の幅広い知識や実体験をバックに、日本とまったく異なる新興国のゲーマーたちが、いったいどんなゲーム生活を送っているのかについて毎回存分に語っていただいている。

 今回はずばり新興国のeスポーツ事情を訊ねてみたところ……モバイル用の『PUBG MOBILE』をPCで楽しむミャンマーの人々。スリランカのゲーム大会で飛び交うドローン。メキシコで『KOF』が人気を博した理由。中国展開の難しい中国企業。FPSをeスポーツと認めないアルゼンチンのeスポーツ団体……など、理由を聞けば膝を打つ、興味深い話尽くしの取材となった。

 「Evo Japan」の事例に限らず、これまで日本だけで閉じていた日常生活の中で、日に日に海外の人々の存在感と重要度が増している。私たちに身近なゲーム文化を通じて、彼らに親しみを抱くとともに、深く理解できないものか。
 この連載は、とくに日本の将来を担う若い読者の皆さんが、彼らを理解し、いずれ競争するときのために、その相手となる「新興国」に焦点を当て、そこに住む人々の「顔」を明らかにしていくものだ。

取材・文/稲田豊史


ミャンマーで量り売りされるゲーム

──今日は新興国のゲーム事情、なかでも世界的に盛り上がりつつあるeスポーツの各国事情についてお聞きしたいと思います。

佐藤氏:
 それで言うと、最近ミャンマーに行ったんです。最大都市のヤンゴンに。

佐藤翔氏

──なぜまたミャンマーに?

佐藤氏:
 ミャンマーのひとりあたりのGDPは、東南アジアでいちばん低いんですよ。日本円に換算するとマレーシアが120万円、タイが83万円のところ、15万円ほど【※】。これはカンボジアよりも下で、アフリカの貧しい国並みなんです。

※IMF世界経済展望2018のデータを元に換算。

──GDPの低さが理由なんですか?

佐藤氏:
 言葉を選ばずに言うと、「いちばんゲーム市場がダメそうな国……いちばん有望じゃなさそうな国に行ってみて、それでも何かあるんだったら、ほかの東南アジア諸国にも何かあるだろう。普遍的なものを発見できるのではないか?」という目論見がありました(笑)。結論から言うと、国の貧しさのわりに、ゲームの市場は存在しました。

──ええと、それ以前にミャンマーという国について、よく知りません……。

佐藤氏:
 なぜそんなに国が貧しいのか。それは軍事政権時代【※1】に先進国から経済封鎖を受けていたからです。人権侵害がひどく、欧米諸国からはすこぶる評判が悪かったんですね。1980年代ごろまではベトナムも経済的には似たような状況でしたが、ベトナムは1986年にドイモイ政策【※2】によって市場開放が始まっています。

※1 軍事政権時代
第二次世界大戦後にイギリス統治から抜け出し、1948年に成立したビルマ連邦だったが、中国国民党残党、中国人民解放軍、ビルマからの独立を求める民族勢力などと対抗していた軍部が力を持ち、1962年にネ・ウィン将軍が起こした軍事クーデターによってビルマ社会主義を標榜。1988年に始まる民主化運動を経て、大国の影響下で政治的動乱を繰り返し、2008年の国民投票をもって新憲法案が支持され、2010年ごろより民政に復帰するようになるまでの時代を指す。

※2 ドイモイ政策
ベトナム共産党によって1986年に標榜された「刷新」を意味するスローガンが「ドイモイ」。そのスローガンに象徴される政策。具体的には、社会主義を維持したままの価格の自由化、国際分業型の産業構造、生産性の向上など経済面での転換や、社会思想面での転換を表す。

 ほかの東南アジア諸国もそれに追従したんですが、ミャンマーは乗り遅れてしまったんですね。当然、インターネットをはじめとしたIT化も遅れ、数年前の時点でもSIMカードが数万円するなど、めちゃくちゃ高かったんです。

 ところが民主化が進み、欧米諸国が経済封鎖を解除した結果、2012年くらいから外資が入り始めました。その後の2014年にTelenor(テレノール)というノルウェーの会社と、Ooredoo(ウレドゥー)というカタールの通信キャリアが参入し、もともとあった国内キャリアといい感じで競争になり、モバイルの通信料金が一気に安くなりました。いまは1GBあたり70円程度。
 そのおかげもあってスマホが普及したんです。

──普及したのはAndroidですか?

佐藤氏:
 はい。ただ、ネット接続が安定しているとは言い難いし、回線も細い。いちおう4Gなんですが、ヤンゴン市内でも5Mbpsや10Mbps程度です。東南アジアでは速いほうですけどね。

──それだと、大量で高速なデータのやり取りを伴うスマホのゲームは厳しいですね。

佐藤氏:
 ええ。加えて、通信料が安くなったとはいえ、現地の人からするとやっぱりちょっと高いんです。あとは決済手段もネックですね。これはほかの東南アジアの新興国もそうですが、クレジットカードの普及率が1割程度しかないので、日本の我々が当たり前にできている個人のネット決済というものができない。

 データ量について言えば、広告をダウンロードしなければそのぶんデータが少なくなり、通信料を節約できるからと、現地ではモバイルのネット広告をあまり見ないんですよ。それもあって、新興国ではアドブロック【※】がデフォルトで付いているブラウザが大人気なんです。

※アドブロック
インターネット広告をブロックするソフト類。

 このように、個人で大量のデータをダウンロードするハードルが高いので、ゲームを楽しむうえではダウンロード屋さん【※】が重要になるんです。

※ダウンロード屋さん
第2回記事、【麻薬より安全…違法コピーのゲームがマフィアやテロの美味しい資金源に! 21世紀に新興国で拡大、ブラックマーケットでもゲームは大人気】参照。

──以前も話をされていましたね。東南アジアにはとても多いと。

佐藤氏:
 はい。インドネシアにもフィリピンにもあったように、ミャンマーにも当然ありました。店に入るとまず用紙を渡され、そこに欲しいものを書いて店の人に戻すと、1時間後に外付けHDDに入ったデータを渡されるんですよ。ゲームだけでなく日本のTVアニメなどもダウンロードされています。もちろん違法です。

 ミャンマーの住宅街には、地主というか大家さんというか、そこそこお金持ちでPCを所有できるような人が一定のエリアにひとりはいるんです。その人がお店の役割を果たしている。ゲームが欲しかったら、その人のところへ分けてもらいに行くんですね。

 これがフィリピンの場合だと、ショッピングモールなどにお店は集中していましたし、インドネシアだとバス停の前などの賑やかな場所にいっぱいありました。でもミャンマーの場合は家内制手工業的な感じ(笑)で、住宅街にあるんです。

──料金体系は?

佐藤氏:
 明朗会計ではまったくなく、「100本いくら」や「1GBいくら」など、だいたい量り売りですね。僕は外国人なのでふっかけられていた可能性がありますが(笑)。ただ、僕が行ったお店はお金を取っていましたが、商売ではなく、単に近所付き合いの一環としてやっているような、お金を取っていないところも、ひょっとしたらあるかもしれません。

──テレビのある家にご近所さんが集まる、日本の昭和30年代みたいなノリですね。

佐藤氏:
 ええ。ただ、「新興国は日本の何十年前の状況だ」というような言われかたをすることもありますが、やっぱり彼らも我々と同時代人なんです。同時代のゲームも遊びたいし、同時代のアニメも観たい。そのためにやれることは何でもやる。それは東南アジアのどこの国に行ってもそうでしたし、ミャンマーも例外ではありませんでした。

──「たくましさ」のひと言ですね。

『PUBG MOBILE』をPCでプレイする特殊な広がりかた

──ところで、ミャンマーではゲーム大会のようなものは開催されているんですか。

佐藤氏:
 はい。ヤンゴンのショッピングモールで『PUBG MOBILE』【※】の大会をやっていました。

※『PUBG MOBILE』
2017年にリリースされたバトルロイヤルゲーム『PLAYERUNKOWN’ BATTLEGROUNDS』のモバイル版で、日本では2018年5月にリリースされている。
100人参加のバトルロイヤルで頂点を目指すゲーム性はほぼ同一。

──ギャラリーが結構多い。盛り上がっていますね。

佐藤氏:
 4人ひと組で、たとえば「ノースサイドレンジャーズ」なんてチーム名を付けたりして、プレイヤーをドーンとカッコよく登場させています。

 新興国であるミャンマーのゲーム市場なんて、日本からすると正直微妙かもと思っていたんですが、『PUBG MOBILE』に関しては相当遊ばれているし、こういうイベントもしっかり行われていたのは、僕にとって発見でしたね。

──この大会はどこが主催しているんですか?

佐藤氏:
 中国のファーウェイです。
 それに関係しますが、『PUBG MOBILE』ってすごく特殊な広がりかたをしているんですよ。『PUBG』は韓国のKrafton傘下にあるPUBG Corp.が開発、展開しています。『PUBG MOBILE』は日本と韓国ではPUBG Corp.が、それ以外の国々には中国のテンセントが展開するという棲み分けができているように見えるじゃないですか【※】。ところがヤンゴンのネットカフェでおもしろいものを見つけたんですよ。

ヤンゴンのネットカフェのモニター。中央に注目

 写真には、『カウンターストライク: グローバルオフェンシブ』(以下、『CS: GO』)『フォートナイト』など、このネットカフェでプレイできるゲームが並んでいますが、そこになぜか『PUBG MOBILE』があるんです。

※ 中国国内で『PUBG MOBILE』を配信していたテンセントは、2019年5月に同作の配信を停止すると発表し、ユーザー間で失望の声が挙がっている。

──モバイルでプレイするはずの『PUBG MOBILE』が、PCでプレイできる?

佐藤氏:
 これは『PUBG MOBILE』PC版なんですよ。

──ええと……Androidのエミュレータ上で走らせているんですか?

佐藤氏:
 そうです。この形式を新興国ではたくさん見かけるようになりました。

──なぜモバイルのケームをわざわざPCでやるんでしょう?

佐藤氏:
 『PUBG』って、たいていはSteamでやるじゃないですか。ですがSteamで買うとお金がかかる。その点『PUBG MOBILE』は無料プレイですからですね。どうもテンセントが出しているPC用エミュレーターがあるらしく、本家『PUBG』を食うくらいの勢いで広がっています。

 このことから見えてくるのは、新興国においてクロスプラットフォーム展開はマストだということです。
 たとえ開発元でクロスプラットフォームに対応させていなくても、ニーズがあれば新興国では、ユーザーがエミュレーターを使って勝手にやってしまう(笑)。
 その証拠に『PUBG』とは逆のケースで、Steamの有名なゲームを無理やり改造してモバイルで遊べるようにしたものも、ゴロゴロ転がっているんですよ。

──おおお……。『PUBG MOBILE』は東南アジア全般で人気なんですか?

佐藤氏:
 そうですね。インドでも社会現象として報じられるほど人気です。どれくらい人気かというと、インドのモディ首相と市民との対話集会の席で、市民から「ウチの子どもはゲームをやりすぎて困るんです」という話が出たとき、モディ首相が「彼は『PUBG』ゲーマーかね?」と返したほど(笑)。
 それまでインドにはゲームのイメージが全然なかったんですが、『PUBG MOBILE』で一気にゲームが浸透しました。

(画像はBusiness Today ‘Ye PUBG wala hai kya’, asks PM Modi to a worried mother during Pariksha Par Charcha 2.0より)

 大都市で4G通信が広がり、決済は2017年のデノミで一気にオンラインペイメントが普及し、そしてそこにテンセントが本来中国の『PUBG MOBILE』のために使うはずだったマーケティングリソースを投入してきた。
 通信、決済、販促の3つのインフラが大きく改善されたわけです。「国際ゲーム市況的には、インドが俄然おもしろくなってきたな」というのが僕の去年後半の実感ですね。

スリランカのゲームイベントは超大規模なファミコン大会

──インドが来ますか。

佐藤氏:
 そうですね。インドのお隣り、スリランカにも行ってきましたよ。「スリランカ サイバーゲームス」という結構大きなイベントがあったんです。会場は、スリランカコンベンションセンターという、そこそこ大きなところ。そこにはスリランカ国内からだけでなく、インドからも参加者が来ていました。

 なかなか人が集まっていますよね。ちなみに参加費は無料です。たぶん、無料じゃないと人が集まらないので。

──タイトルとしては『コール オブ デューティ』、『Dota2』、『CS: GO』、『リーグ・オブ・レジェンド』(以下、『LoL』)、『オーバーウォッチ』、『レインボーシックス シージ』、『鉄拳』、『インジャスティス』、『FIFA』、『クラッシュ・ロワイヤル』、『フォートナイト』、そして『PUBG MOBILE』……錚々たる顔ぶれですね。

佐藤氏:
 ほかの国々と変わりなくPCメーカーがスポンサーをしています。写真は予選の模様ですが、かなり盛り上がっているでしょう? これがインドチーム対バングラデシュチームですね。

インドチーム対バングラデシュチーム

 スリランカって相当小さな国なのに、外国からも選手がいっぱい集まってきます。ただし、そもそも彼らがゲームのパブリッシャーにちゃんと許可を取って大会を開催しているかというと……かなり怪しいんですけどね(笑)。

──昔、近所のおもちゃ店で勝手に開かれていたファミコン大会が、超大規模化したみたいなものでしょうか。

佐藤氏:
 そうですね。スリランカなんて正規市場が小さすぎてゲームパブリッシャーの目がまったく届いていないので、いつの間にか大きくなっちゃったんでしょう。単純に渡航費を考えても、インドやバングラディシュの人を呼ぶだけで結構な興行規模のはずです。……ああそうだ、当日はドローンを使って中継していましたよ。

──へー!

佐藤氏:
 ファントムやドビーという中国製のドローンを飛ばして観客を撮ったり、選手のすぐ横に接近させてプレイの様子を撮ったりしていました。

──大会の運営側が飛ばしていたんですか?

佐藤氏:
 いえ、メディアです。

──許されるんですね。おもしろい画が撮れそうです。

佐藤氏:
 ただ、ドローンって上を飛んでいると、正直、風が気になりますよね。選手のプレイに支障をきたさないか、衝突や落下する危険があるんじゃないかと、いろいろ気になりました(笑)。

 それでも多彩な角度から画を押さえられるのはイベントとして大きいですよ。
 eスポーツの中継って、プレイ画面以外にも、モニターを見ているプレイ中の選手の顔や様子も撮らなきゃいけないから、選手の視界を遮ぎらず、かついいアングル探しが微妙に難しいんですよね。その点、ドローンはカメラアングルの自由度が高いので活躍するんです。

──なるほど。eスポーツの中継とドローンの相性って、おもしろいテーマですね。

佐藤氏:
 とはいえ、音響や中継のレベルは非常に低かったんですけど(笑)。

──それも経験が溜まれば、おのずとこなれてくるでしょうね。

eスポーツと音楽ライブはよく似ている

佐藤氏:
 イベントまわりに関しては、東南アジアでもうひとつ発見がありました。eスポーツと音楽のライブを組み合わせた大会をよく見受けるようになったんです。というのも、eスポーツって基本的に室内のものですから、ライトアップしたり音楽を流したりする設備がライブと似ているんです。「だから同じところでやっちゃおう」という発想ですね。

──なるほど。フェスのように何組かのアーティストが出演したりするんですか?

佐藤氏:
 そうです。なかでも韓国はK-POPという強いコンテンツがあるので、彼らもこの組み合わせが結構イケるんじゃないかと踏んでいるみたいですね。

──韓国国内でやっているんですか?

佐藤氏:
 いえ、香港やシンガポールで催されています。主催や後援が韓国企業なんですね。

──日本ではあまり聞きませんよね。

佐藤氏:
 日本ではeスポーツのイベントが、音楽イベントと会場の取り合いになると聞きますよ。

──たしかに日本、なかでも東京は都市の大きさの割にイベントの会場が少ないと言われていますよね。すごく大きいハコか、すごく小さいハコしかない。

佐藤氏:
 ですからeスポーツぐらいの規模のイベントって、今後日本ではハコ探しにいちばん難儀するんじゃないでしょうか。

新興国のeスポーツは“ある意味で”有望

──日本で言われているeスポーツと海外のeスポーツって、存在感がかなり違うと思っています。ところが同じ海外でも、アメリカや韓国といったeスポーツ先進国と、東南アジアや中近東の新興国では、また状況が違いますよね。

佐藤氏:
 大前提として、新興国ではゲームで何の工夫もなしに正規の利益を上げようとすると地獄を見ます(笑)。
 海賊版がめちゃくちゃ多いですし、普通のゲームは先ほど申し上げた家内制手工業のダウンロード屋さんで買うわけですから。

──(笑)。

佐藤氏:
 いちおう数字を挙げておきましょう。ニコ・パートナーズという調査機関のデータによると、2018年度の東南アジアにおけるオンラインゲーム市場は台湾を含めて44億ドル(約4840億円)です。
 うちPCが2200億円で、モバイルが2640億円。2022年には8250億円になるんじゃないかという試算がされています。

 一方、Googleが2018年に出したデータでは、台湾を除いて東南アジアのオンラインゲーム市場が4180億円。彼らの考えかたはけっこう楽観的で、2025年には1兆円を超えると言っている。

 そもそも新興国のゲームの市場規模を弾き出すのは、すごく難しいことなんです。

──なぜでしょう?

佐藤氏:
 そこでお金がどういうふうに使われているのか、わからないからです。

 本当にパッケージゲームを買っているのか。PCのオンラインゲームではプリペイドカードをちゃんと買っているのか。モバイルのゲームではクレジットカードでちゃんとアイテム課金をしているのか。そもそも彼らがどこまで本当のことを言っているのか誰にもわからないんですよ。ダウンロード屋にお金を払ってしまっていたら、市場の数字としては見えてきませんし。

 ただ、eスポーツを主語にすると、新興国は「ある意味で」有望です。

──地獄から一転。なぜでしょう?

佐藤氏:
 eスポーツが盛り上がっているかどうかは、競技人口や観客数で測られる部分が大きいですよね。つまり1円も払っていないユーザーであっても何百万人いれば、「競技人口がすごい! 観客が多い!」と言い換えられる。

 これはゲームのパブリッシャーにとって、アメリカの投資家などを説得する材料にできるから、とてもおいしいんですよ。……ただ繰り返しますが、東南アジアの中だけで、eスポーツ単体で収益を得ようというのは、パブリッシャーやイベント運営会社の観点から見ればはっきり言って夢のまた夢です。

それしかないから強くなる

──すごい話ですね……。ほかにも新興国で流行っているeスポーツのゲームに、何か傾向はありますか?

佐藤氏:
 そうですね、モバイルのゲームユーザーが遊んでいる姿を見たり、PCのネットカフェを覗いたりしてとくにわかるのが、ゲームを対戦ツールとして使っている比重が大きいことです。それはPvP【※】の性質がどうとかいう以前の話で、「オレは強いぞ」というのを相手に誇示できるからという単純なもの。

※PvP
プレイヤー対プレイヤーで戦う、対戦ゲーム形式やルール。コンピューターが操る敵と戦うのはPvEとなる。

──そんな理由なんですね。対戦ゲームと言えば、2019年1月に福岡で行われた格闘ゲームの祭典「Evo Japan」で、パキスタン人のArslan Ash選手が優勝して話題になりました。
 彼は「僕の国には、もっと強い人が7人いる。とくに上位6人は別格だ」と発言し、界隈が大いに沸き立ちました【※】。アメリカでも韓国でもない、日本人には馴染みの薄いパキスタンという新興国に「そんな強いやつがいるのか!」と。

※朝日新聞は現地まで赴き、取材をしている。「格ゲー業界騒然!パキスタン人が異様に強い理由、現地で確かめてみた」

佐藤氏:
 パキスタンは南アジアに区分されますが、そこに隣接している中央アジアのプレイヤーは国際大会で結構活躍するんですよ。

 たとえば、2018年にドイツで行われたIntel Extreme Mastersの優勝チームにはカザフスタン人がふたりいました。
 このあいだ行った中央アジア・キルギスのネットカフェでも『ウイニングイレブン』が遊ばれていましたね。キルギスはものすごく貧しい国ですが、ネットカフェは、多いところなら一街区にひとずつぐらいなどやたらある。
 ちなみにこの写真はカザフスタンのバス停で見つけて撮ったもの。

カザフスタン、アルマトイのバス停にあった賭け広告

 「eスポーツのベッティングが、いまなら手数料タダ」というような、賭けごとに関する広告です。

──ベッティングは違法じゃないんですか?

佐藤氏:
 ええ、こんなに堂々と広告を出すくらいですからね。

──なるほど。アジアの新興国ではゲームと言ったら対戦型。しかもどの街でも見かけるようなネットカフェで、日がな一日そればかり遊んでいるのだとしたら、世界レベルの強豪プレーヤーが出てきてもおかしくないですね。

中央アジアによくあるeスポーツカフェ

佐藤氏:
 それで思い起こされるのが、SNKの『ザ・キング・オブ・ファイターズ』(以下、『KOF』)ですね。『KOF』ってメキシコでめちゃくちゃ人気が出たんですが、そのおかげでメキシコからすごいプレイヤーが現れ、隣りのアメリカに波及してアメリカの『KOF』シーンをすごく盛り立てたという話を聞いたことがあります。

──なぜメキシコで人気が出たんですか?

佐藤氏:
 メキシコには、前に話したフィリピンの「ピソネット」【※】に似た、コンシューマーゲーム機で遊ばせる店があるんです。そこにSNKの古いタイトルがたくさん入っていたのがひとつ。もうひとつは、「マルチゲーミングマシン」という超怪しいエミュレータマシンが置いてあって、そこに『KOF』が入っていたから。

メキシコのマルチゲーミングマシン。画面装飾が任天堂、コンパネがナムコ、筐体にSNKのキャラクターと、もうメチャクチャ。

 そういう施設が貧民街にもあり、誰でも遊べる環境があったんですよ。誰でも遊べるから競技人口がすごく多い。
 なおかつ遊ぶゲームの選択肢が限られているから「ゲームと言えば『KOF』」という状況だったんです。

※ピソネット
ペソ(約2.2円)で利用できるPCやゲームコンソール、アーケード端末のこと。ルーターを介してインターネットに繋がっていることが多いため、オンラインゲームのほかにも、SNSやYouTubeを利用することも可能。
経済的に困窮している人々や子どもたちに広く利用されている。第2回の記事に登場。

──「ピソネット」のようなコンシューマーゲーム機を利用したカフェって、世界中の新興国にあるんですか?

佐藤氏:
 はい、どこにでもあります。
 僕は東アジア、西アジア、中央アジア、南アジアとアジアはひととおり見てきましたが、形式は違えども、本当に全部の地域にありました。ちなみに北アジア、つまりロシアのシベリアにもありましたよ(笑)。
 私がこれまでに行った中で、もっともひとり当たりのGDPが低い国はエチオピアでしたが、そこにもしっかり家庭用ゲームカフェはありました。

エチオピア、アジスアベバのゲームカフェ

 また、先日はケニアにあるアフリカ最大のスラム、Kibera Slumの中の家に泊めていただき、近くでゲームを探し回ったんですが、こういうスラムにもしっかりプレイステーション(以下、PS)4のゲームカフェは何軒かありましたね。

ケニア・ナイロビのkibera Slumの一角にて。よく見ると、入り口上の看板に「Play Station 3」、壁のスレート板にPSマークと「4」の文字。中に入ると……

──えっ。これがゲーム施設なんですね。

こんな感じ。

PS2版『ウイイレ2018』

──新興国のなかで、ほかにおもしろい国はありましたか?

佐藤氏:
 インドネシアのゲームカフェの写真を見てください。

 これです。みんないろいろな機種でサッカーゲームを遊んでいるんですけど、中にはPS2も混じっている。PS3が2006年に出ているし、PS4も2014年に発売されているから、さすがにいまPS2の新作ゲームはないはずです。
 だったらPS2で遊んでいる彼らがプレーしているのは何かというと、これが“PS2版”の『ウイニングイレブン』の2018年版なんです(笑)。

──え?

佐藤氏:
 つまりですね、PS2版の『ウイイレ』のデータを勝手に2018年用に書き換えているんです。
 だから選手データも最新(笑)。ゲームシステムはPS2版のままで、データだけ無理やり改造している。もちろんローカライズなんてされていないので英語ですが。これが、ご丁寧に毎年のように作られているんです。

──すごいですね……。

PESは『ウイイレ』の欧州での呼び名。メッシやC・ロナウドなどそれっぽいが、正規品はまったく違うジャケット。

佐藤氏:
 僕もプレイしているところを覗いてみたんですが、インドネシアチームの選手能力値が全部MAXになっていました。最強です。ズルい(笑)。

──(笑)。お金はまともに払ってないかもしれないし、違法も多いけれど、新興国の対戦ゲームの競技人口自体は結構多いということですね。

佐藤氏:
 ええ。サッカーほど多くはないかもしれませんが、対戦ゲームだと『鉄拳』や『ストリートファイター』もネットカフェの広告としてちゃんと出てきます。欧米の調査機関などが発表しているデータを見るかぎりでは、グローバルなeスポーツの競技人口や観客数の上位タイトルにはFPSやMOBA【※】が挙がってきて、格闘ゲームは一段低い位置にありますが……。

※MOBA
Multi Online Battle Arenaの略。その出自よりDota系とも。
複数のプレイヤーがフィールド上で2チームに分かれ、互いの陣を攻め合うオンラインアクションゲームのジャンルを指す。プレイ中の行動によって、プレイしているキャラクターのレベルが上がっていくRPG的な要素もあるのが特徴。『LoL』はその代表的タイトル。

──格闘ゲームは少数の「好き者」が熱狂的にやっているイメージですか。

佐藤氏:
 格闘ゲームのコミュニティは、一国一国の規模で言えば小さく見えるかもしれませんが、先進国だけではなく新興国にも、つまり世界中にあるんですよ。

 僕が直接見に行った限りでも、東西南北中央アジアどころか、アメリカ・欧州・アジアからオーストラリア、アフリカまで、五大陸全部にコミュニティはありました。
 ナイジェリアやケニア、コートジボワールにだって格闘ゲームやサッカーゲームの国際eスポーツイベントがあるんですよ?
 むしろサブサハラアフリカ(サハラ砂漠より南の地域)になると通信インフラがあまりに悪いので、eスポーツの競技種目は『LoL』『Dota 2』『Overwatch』などではなく、家庭用ゲーム版のサッカータイトルや格闘ゲームしかなかったくらいです。

 ちなみにケニアとナイジェリアの格闘ゲーム界では、『ストリートファイター』、『鉄拳』と並んで、『モータルコンバット』の人気が高かったりしますが、こうしたゲームメーカーが拾い切れていない非公式なイベントや選手を含めて考えると、家庭用のサッカーや格闘ゲームは意外に大きなジャンルかもしれません。

 少なくとも、販売本数や、アメリカ・西ヨーロッパの調査機関がまとめているデータ、それからアメリカでの大会規模やエントリー数といった表面的に見える数値よりも、はるかに大きいと思われます。

──おもしろいですね。最近のeスポーツの報道でよくある論調が、「日本では1990年代以降の流れで格闘ゲーマーが多いけれど、世界の主流はRTS【※】やFPSだから日本はガラパゴスである。よって日本は世界のeスポーツの波に乗りにくいんじゃないか」というものです。

※RTS
Real Time Strategyの略。リアルタイムでフィールド上を進行する敵に対して、自軍ユニットに指示を出し、迎撃するタイプのアクション+シミュレーション度の高いゲームジャンル。

佐藤氏:
 とはいえ格闘ゲームをカジュアルに遊んでいるかどうかはわかりません。相当なガチ勢かもしれませんし。

──ただ、そのガチ勢が世界中にいるなら、集まったら相当な数になりそうですね。

湾岸諸国のeスポーツは家庭用とモバイルが中心

──そうだ、以前の記事で中東の話をされていましたが、eスポーツ事情はどんな感じですか?

佐藤氏:
 お金持ちのスポンサーがたくさんいるから、GCC(湾岸協力会議)【※】加盟諸国ではeスポーツがかなり盛んです。2017年にサウジアラビアがeスポーツ協会を設立したんですが、2018年のFIFA eWorld Cup Grand Finalでサウジアラビアの人が優勝するなど輝かしい成績を残したので、けっこう注目を集めているんですよ。

※湾岸協力会議加盟国
UAE(アラブ首長国連邦)、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビアの6ヵ国。そのうちサウジアラビアのeスポーツ協会はsafeisという。

 加えて言うと、これはGCC諸国独自の現象だと思うんですが、この地域でeスポーツといえば家庭用とモバイルなんです。ほかの国はだいたいPCですよね?

──なぜでしょうか?

佐藤氏:
 単純にマーケットが小さいからだと思います。UAE(アラブ首長国連邦)で開かれているPLG(Power League Gaming。ドバイに本拠を持つ興行団体とその興行)のイベントには、いちおうPCも家庭用も全部用意されており、家庭用にはGCCの人がみんな参加しますが、主催者にインタビューを取ったところ、PCのほうはレバノン勢やヨルダン勢など、要するに石油がない国のプレイヤーの存在感のほうが大きいんです。

 たとえば『Dota2』はレバノンとヨルダンにものすごく強い人がいる。モバイルに関しても、『PUBG MOBILE』のイベントはUAEで開催されていたり。

──東南アジアの新興国も含め、モバイルがこれだけ普及し、湾岸諸国でもモバイルが人気となると、世界的に「来る」可能性があるeスポーツのプラットフォームは、モバイル系なのかなとも思ったりします。

佐藤氏:
 ただ、モバイルってどうしても通信速度の問題が付いて回りますよね。PCは基本的に有線でつなげば安定しますけど、モバイルはそうはいかない。僕は5Gになってもこの状況はあまり変わらないんじゃないかなと思っています。

 たとえばMOBA系のゲームをモバイルでやろうとすると、ちょっとでも接続状況の悪い場所だと突然ログアウトしてしまう。何度も繰り返しているうち、いつの間にか脱走兵扱いになっていた……って、よく聞く話ですよね。

──聞きますね(笑)。

佐藤氏:
 FPSはそのあたりを技術的にうまくやりくりする仕組みがあるし、だからこそ『PUBG MOBILE』はそれなりに上手くいっているんだと思います。ですからeスポーツのジャンルは確実に広がってくるけれど、PCのゲームを何でもかんでもモバイルに持ち込むのは、まだまだ難しいのではないでしょうか。

 グローバルで見たときに、モバイルeスポーツはまだまだこれから。ただ、いろいろな国を周って『eスポーツ五大陸白書』【※】を作成した立場からすると、モバイルeスポーツが相対的にいちばん盛んだと思ったのは東南アジアでした。これは言い切れますね。

 そもそも、西ヨーロッパのような先進国や韓国では、eスポーツにおけるPCゲームの立ち位置が大き過ぎるんです。そういう地域でPCゲームのeスポーツに長年親しんできたプレイヤーや観客が、同じジャンルのモバイルゲームによるeスポーツを見ると、先ほど挙げた回線の安定具合の問題もさることながら、ゲームそのものがシンプル過ぎるので、「見ごたえがなく子どもっぽい」と考えられがちなんです。そうしたこともあって、モバイルeスポーツというものが、対戦カードゲームのような一部の例外を除くとなかなか伸びないわけです。

 一方、東南アジアはスマートフォンでゲームを遊ぶユーザーの比率が非常に高い。そして、東南アジアにおける若年人口の比率は先進国よりもずっと高いから、昔からPCのeスポーツに慣れ親しんできたユーザーよりも、スマートフォンでゲームを遊び始めて競技に興味を持った若いユーザーの存在感が相対的に大きい。そのようにスマートフォンでゲームを遊び始めた人々は、モバイルゲームのeスポーツに対する「偏見」がありません。

 スポンサーという点から考えると、東南アジアでゲーミングPCが売られていないわけではないのですが、ブロードバンド比率が低く、地方では停電も多いため、ゲーミングPC市場の拡大は緩やかです。一方、スマートフォンメーカーは東南アジアで商品を売りたいから、モバイルeスポーツのイベントに積極的にスポンサードする。これらがモバイルeスポーツが東南アジアで先んじて伸びている大きな理由ですね。

※eスポーツ五大陸白書
佐藤氏も執筆に参加したメディアクリエイト刊の大型データ本。取材先22ヵ国のeスポーツ事情を詳説している。

中国企業が東南アジアに進出

──モバイルeスポーツが東南アジアで元気である背景として、ほかにも理由があるとすれば何でしょう?

佐藤氏:
 中国のゲーム会社の存在は大きいと思います。とくに2017年後半以降に顕著になったように思いますが、彼らにとって自国の市場開拓は簡単ではなくなってきているので、グローバルに、とくに近隣の東南アジアに進出する傾向があるんですね。

──中国企業なのに中国展開が難しいんですか?

佐藤氏:
 ひとつは自国の特定プラットフォーマー、つまりテンセントやネットイースの力がありすぎるからです。彼らに利益のパイをたくさん取られてしまうので、うまみが少ない。世界的には開発会社とプラットフォーマーの取り分って7:3くらいの比率だと思いますが、中国ではもっとぶん取られる。5:5や4:6など、売上が高くなると、さらに利率が上がることがあるようです。

──なるほど。中国の市場は大きいけれど、だからと言って「儲かるのか」というと、そうじゃないと。

佐藤氏:
 それに加えて2018年から共産党政府がいろいろと締め付け【※1】をしていますよね。「三線都市」【※2】への浸透など、中国ゲーム市場の拡大余地自体はまだあるにはあるんですが、共産党の規制については中国人にとっても先が読めないので、ビジネスリスクが高くなってきているんです。

※1 締め付け
こちらの記事などにあるように、中国では政府の息の掛かったゲームの監督省庁によるゲーム発売の許認可が厳しくなっている。件の記事は凍結時のものだが、2019年4月に審査は再開。現在は数ある条件を潜り抜けたタイトルだけが発売に進んでいる。

※2 三線都市
比較的発達した中小都市を指す。この場合の「線」は「レベル」的な意味合いで、明確な定義はなく、記載されているものによって該当都市がまちまちとなる。通常一線都市としては、上海、北京、深圳、広州の名が挙がる。

──結果として、東南アジアに目が向くと。

佐藤氏:
 以前、中国企業が中東に真剣に目を付けているというお話もさせていただきました。

 たとえば、サウジアラビアなどGCC諸国でロングセラーとなっている『Revenge of sultans(リベンジ・オブ・スルタンズ)』というゲームのリリース元は、じつは福建省にある中国系の企業だったりします。
 このように、実際は中国企業が開発しているけど、中身は現地の市場に合わせて完全にローカライズしているようなゲームが世界中にたくさんあるんです。『Clash of Kings』を出しているElex、テンセントの『王者栄耀』のコピーゲームとして知られる『Mobile Legends』をリリースしている上海のMoonton や、『Lords Mobile』をリリースしているIGGなどがそうですね。

 さらに最新事情としては、そこにプラットフォーマーの大元であるテンセントとネットイースまで乗り出してきました。2018年の彼らの海外売上高が、それまでの5倍になったという話もあります。一気に本気を出してきたんですね。

──ネットイースは日本でも『荒野行動』【※】が当たりましたね。

※荒野行動
ネットイースによるモバイル用オンラインバトルロイヤルゲーム。大人気を博していたが、ゲーム性が先行していた『PLAYERUNKOWN’ BATTLEGROUNDS』に酷似しており、PUBG Corp.から2018年4月に提訴されていたものの、2019年5月末になって和解が成立している。
なお、ネットイースは『Knives Out』、『Rules of Survival』、『Survivor Royale』という類似の3タイトルをリリースしているが、日本の『荒野行動』は『Knives Out』に該当する。

佐藤氏:
 モバイルでは、日本も大きな市場と見られていますからね。極論を言うと、「世界中あらゆる国・地域でゲームを出すけれど、中国でだけはゲームを出さない」なんてやりかたを採って成功している中国企業などもあります。彼らにとっては中国以外ならどこでもいいんです(笑)。
 中国国内で猛威を奮っていたプラットフォーマーでさえも、中国市場の先行きが不透明になってきたので、「中国の外に出るぞ」というパワーが尋常なものじゃなくなってきた。それが2018年からの流れですね。

 PCゲームだけだった昔から、東南アジアって中国と韓国の“裏庭”なんですよ。中国と韓国が5000億円に満たないような東南アジアの小さな市場の取り合いをしているんです。そんなふうに中韓が激しい取り合いをしているなかに、日本企業がちょっと入ってきている程度。

 とは言え、先ほど申し上げたように、無料プレイヤーや観客も含めれば、東南アジアのeスポーツ人口はとても多い。お金を使っていようがいまいが、遊んでさえいれば競技人口としてカウントされますからね。

 アメリカや日本でひとりユーザーを獲得するより、東南アジアでひとり獲得するほうがコストはずっと安い。つまり低コストでグローバルな盛り上がりが作れる。
 それがeスポーツビジネス型のゲームを展開しているゲーム会社にとっての東南アジアの旨味です。「ダウンロード数が1億人に達しました!」と投資家にすぐ言えちゃうわけです。そのうち8000万人くらいが東南アジアの非正規ユーザーなのかもしれませんが。

──(笑)。

佐藤氏:
 だから収益を上げるということではなく、eスポーツのエコシステムを構築する手段という意味で、新興国はバカにできないんですよ。以前、東南アジアの『荒野行動』の大会賞金が、なぜかアメリカよりも高かったことがありました。

 また、韓国の『LoL』の一部リーグであるLCK所属チームへのスポンサーを行っている企業で、韓国市場ではなくベトナム市場へのアプローチを目的としていることを明言している企業さえもあります。ベトナムにも韓国LCKのファンは多いですから。
 彼らはそれだけ東南アジアを重視しているということです。


新興国のすごいプレイヤーたち

──少しお話を整理しましょうか。東南アジアや中央アジアといった新興国では対戦型のゲームが盛り上がっている。
 そしてeスポーツのエコシステムを構築する手段という意味で新興国の比重は高い。そういうことですね。

佐藤氏:
 はい、ここで無視できないのが新興国の物価や所得の低さです。同じ賞金150万円でも、日本人にとっての150万円と、平均年収15万円の国の人にとっての150万円は意味が変わってきます。貧しい国ではプレイヤーのハングリー精神がすさまじいですからね。

──普通に生活がかかっている。新興国でeスポーツの覇者になるのは文字どおり「ドリーム」ですよね。

佐藤氏:
 最近は、新興国や経済発展が比較的遅れた地域からすごい選手が出てくるケースが、ちょこちょこ見受けられます。

 もうひとつ考慮すべき要素としては、「渡航距離が長すぎる」とか「渡航費が高すぎる」、あるいは「ビザの申請が下りない」といった理由で、すごい選手であっても海外の大会に出場できないケースが挙げられます。
 「Evo」などを見ているとわかりますが、参加者はアメリカの近隣の国の人か、ある程度所得の高い国の人が多い。ですから中央アジアや西アジア、なんならアフリカにだってすごいプレイヤーはいるのに、遠いし、手続きが大変だし、渡航費もかかるので、開催国まで来られないんです。

──「Evo Japan」で優勝したパキスタン人選手も大変だったみたいですね。

佐藤氏:
 彼が所属しているvSlash eSportsのTwitterに、「彼がどう苦労して福岡に来たか」というのが書かれており、これが本当に物語のようでおもしろかったんです。

 日本のビザを取るところからすごく苦労したようですね。いちおう「Evo Japan」に助けてもらって空港に行こうとしたけど、ビザの問題で出国できなかった。
 それでマレーシア経由で韓国に行こうとしたけど止められたから、頑張って今度は成田から行くことにした。そして成田に着き、成田から羽田経由で福岡に行こうとしたけど、成田から羽田までバスに乗らなきゃいけない。でもバスに乗るにはお金が必要。ところがパキスタンの通貨を日本円に両替できる場所がない!

──韓国や中国くらいの距離からならともかく、パキスタンですからね。

佐藤氏:
 そういう意味では、先ほど申し上げたGCC諸国でeスポーツが盛り上がっているおかげで、パキスタンやトルコも含めた近辺の有望な選手が発掘されています。パキスタンからアメリカや日本に行くより、GCC諸国に行くほうが渡航費は断然安いですから。

 同じ理由で、西ヨーロッパの大会には東ヨーロッパや北アフリカの人が参加しやすい。そしてロシアの大会には旧ソビエト諸国の人々が参加しやすい。
 ロシアのちょっといい話として、地元のネットカフェですごく活躍していたウラル地方の選手がモスクワに出てきてトッププレイヤーになった──みたいな武勇伝がけっこうあるんですよ。

──グローバル社会で成り上がっていく感じですね。

佐藤氏:
 eスポーツの大会が世界のいろいろな地域で開かれるにつれ、その周辺の新興国が盛り上がってくるというのは、事実として言えると思います。

──「日本では知られざる新興国の選手が強い」というような話って、対戦格闘以外のジャンルにもあるんでしょうか?

佐藤氏:
 FPS系のジャンルでは、カザフスタンやキルギスといった中央アジアに注目したほうがいいと思います。あと、『Dota2』は旧ソ連圏に強いプレイヤーが多いんですが、同じロシア語圏であるカザフスタンやキルギスのプレイヤーはロシア語で情報を交換しているし、ロシア語でプレイ動画を観て勉強している。
 だから「ロシアが強いゲームは、カザフスタンやキルギスも強い」という寸法です。ロシア語圏でのeスポーツトーナメント結果を調べてみると、カザフスタンの人が結構勝っていますよ。

──カザフスタンのプレイヤーですか。国に馴染みもないし、想像もつかないですね……。

佐藤氏:
 『CS: GO』世界におけるトップクラスのチームはブラジルにもありますからね。こんなふうに新興国のすごいプレイヤーがどんどん出てきています。

 ちなみに、『Vainglory』(ベイングローリー)というMOBAタイトルがあって、そこまで人気があるとは言いがたいんですけど、これの第1回のチャンピオンシップで優勝したのは、イラクの戦争が激しかった時代に戦乱を逃れて北米へ渡ったイラク人の若者なんですよ。
 PCは持っていないけどタブレットがあったから、一生懸命やり込んだんだと。

(画像はThe ESPORTS OBSERVER IraqiZorro: The Story of One Esports Professional Potentially Facing a Permanent Ban From the United Statesより)

──いい話!

佐藤氏:
 「アメリカ在住だけど、じつは新興国出身」という選手は結構いるんですよ。
 そういうケースを見ると、やっぱり新興国の人のハングリー精神が、eスポーツにすごいプレイヤーを生み出す土壌になっているのは間違いありません。彼らは多言語社会に生きているので、たとえばある場所では英語で情報交換し、ある場所ではスペイン語で情報交換し、ということができる。これは当然有利に働きます。英語圏のプレイヤーの情報も、スペイン語圏のプレイヤーの情報も、両方ゲットできるので。

中国は内陸部に有力選手がいる!?

──先ほど中国企業の海外進出のお話が出ましたが、eスポーツ先進国である中国の最新事情も知りたいところです。

佐藤氏:
 中国の強いチームは大都市が集中する沿岸部に多いのですが、じつは中国の『LOL』一部リーグであるLPLに参加しているプレイヤーの出身地でいちばん多いのが湖南省なんです。
 湖南省以外でも、湖北省の選手も多いですし、新疆ウイグルの選手もいるらしいですね。湖北省は、三国志ファンの方なら赤壁のあるところと言えばわかりますかね(笑)。
 湖南省はその南に隣接していて、春秋戦国時代には楚という国がありました。毛沢東の出身地でもあります。

──土地勘がないのであまりイメージが湧きませんが……。とにかく沿岸部の上海や香港や深ではないんですね。

佐藤氏:
 それから、World Cyber Games(WCG)という世界的なeスポーツイベントのスタッフが分派して開催しているWorld Cyber Arenaというイベントがあります。『Dota2』のThe International出場チームが戦っているようなレベルの高い大会なんですが、その開催地が中国のニンシヤホイ族自治区なんですよ。

──ええと……ニンシヤホイ?

佐藤氏:
 地図で確認してみましょうか。ここです。ここは寧夏回族自治区(ねいかかいぞくじちく)とも呼ばれているんですが、「回族」すなわちチャイニーズムスリム(イスラム教徒)ですね。今年は隣の陝西(せんせい)省で『王者栄耀』の決勝が行われたり、WCGの大会が開かれる予定だったりとか、とにかく中国西部が盛り上がっています。

──なぜこんな交通の便の悪い内陸で開催するんでしょうか。

佐藤氏:
 プレイヤーの発掘がまずあります。そして地方政府の中央へのアピールも重要です。あとは先ほどの話と同じで、上海などに比べて内陸の人の所得は低いから、賞金に対するモチベーションがすごく高いんですよ。

──なるほど。

佐藤氏:
 中国は内陸の省に行っても省都に行けばネットカフェがありますから、いちおうどこでもゲームはできるんです。そこで頑張って練習し、上海あたりの大都市に上京してスタープレイヤーになる。

──文字どおり上京物語ですね。そういった都市部に限らない世界的・全地域的な盛り上がりが、eスポーツの新しいビジネスモデルにまで繋がるとよいのですが。

“独裁系の国”はeスポーツを推進する

佐藤氏:
 ところで、電ファミさんでも記事にされていたeスポーツアーニングスというサイト。これは世界各国のプレイヤーの累積獲得賞金金額ランキングが見られるすごく便利なサイトですよね。ただ、中国などの国内イベントに弱いのが弱点ですが……。

──上位のほうは全部『Dota2』ですね。

佐藤氏:
 はい。2020年はひょっとすると『フォートナイト』に変わるかもしれませんが。ちょっと選手の国籍に注目してみてください。

(画像はDota 2 Prize Pools & Top Players – Esports Profile :: Esports Earningsより)

 トップこそドイツ人ですが、2位はヨルダン人、4位はブルガリア人、7位はパキスタン人、8位はレバノン人です。(2019年5月29日現在)

──新興国が目立ちますね。

佐藤氏:
 ええ。ただ、通信速度の面で彼らはやはり不利なんです。オンラインゲームのサーバーは新興国にはほとんどありませんから。
 あるロシア語の記事で読んだんですが、カザフスタンの人が遊ぶオンラインゲームのサーバーは、たいていヨーロッパにある。近くにあってもモスクワか中国。すると遠いからレスポンスが遅いんですよ。仕方がないからモスクワに出稼ぎに行き、モスクワのチームに入ることになる。

 とはいえ『Dota2』の場合、基本無料で遊べることも、新興国に有力なプレイヤーがガンガン出てきている理由のひとつです。

──普通のスポーツでは、国がお金をかけて選手を育成するなど、その国自体にスポーツの習慣がないと選手が育たないから、新興国にはあまりチャンスがない。でもeスポーツだと新興国にもチャンスがあるんですね。

佐藤氏:
 新興国がスポーツ大会でメダルを狙うのは、特定のスポーツが伝統的に強い国でもなければ、なかなか厳しい。
 だけどeスポーツでメダルを獲れるなら、たとえば「『FIFA』で優勝できる強豪がいる」という感じで国の知名度、大袈裟に言えば威信に繋がるという側面はありますね。国自体がよく知られていないカザフスタンやキルギスのプレイヤーが強いとなったら、日本からしたって、国の知名度そのものが上がるでしょう。

──たしかに、今回伺って初めて地図で場所を確認した国があります。

佐藤氏:
 そういう意味では、それ自体の良し悪しはさておき、政府が強権的にeスポーツを推進し、国威発揚したがる国から良い選手が出てくることはありそうですね。

──中国の体操選手のように。

佐藤氏:
 eスポーツで外せないのは、国の関わりかたなんですよ。よく「eスポーツはスポーツか否か」という議論が持ち上がりますよね。これは、「eスポーツはスポーツであったほうがありがたい国か、そうでない国か」という話にも繋がってくるんです。

──どういうことですか?

佐藤氏:
 上の命令で物事がどんどん決まるような国、あまり良い言いかたではありませんが“独裁系の国”って、スポーツにすごい助成金を出していたり、会場を借りるときもスポーツ大会なら割り引いてくれたりするんですよ。そういう国では、eスポーツが「スポーツ扱い」になると、プレイヤーやコミュニティはいろいろなメリットを享受できるということです。

 だからロシアやトルコなど、どちらかというと政府の権力が強い国では、「eスポーツはスポーツである」という流れがプレイヤーやチームのオーナーにも意外と喜ばれているんだなと思います。

──威信を示せるという意味では国にとってメリットが、活動しやすいという意味ではプレイヤーやコミュニティにメリットがあるんですね。逆に、スポーツとしてのeスポーツを歓迎しない国というのは?

佐藤氏:
 政府機関どうしの調整が難しい国や地域、たとえば中南米の諸国ですね。

 スポーツに関連する法律がやたらあるので、もしeスポーツをスポーツ扱いにすると、これまでゲームに関する規制だけに従っていればよかったものが、そちらにも従う必要が生じるんです。
 たとえば、どこかの会場を借りてeスポーツの大会を開催しようとした場合、役所に申請するわけですが、ゲームについての申請をまず出し、次にスポーツについても出して……と手間が2倍になるんですね。

──なるほど、賞金を設定する際の規制なども二重にクリアする必要がありそうだ。面倒ですね。

アルゼンチンの迷走

佐藤氏:
 面倒と言えば、アルゼンチンは別の意味で面倒なことになっています。いま審議中の法案の条文内にeスポーツの定義があるんですけど、こんな感じです「リアルタイムストラテジー(RTS)、CCG(CollectibleCard Game)、つまりトレカ。そしてスポーツ系のゲーム」……以上です。

──え、それだけですか?

佐藤氏:
 そう、『CS: GO』のようなFPSと、それから『LoL』や『Dota 2』のようなMOBAはどこに行ったのか? 格闘ゲームは? ……と思いきや、次の条項で「FPSはeスポーツとみなさない」と明記されています。

──もし法案が通過すると、アルゼンチンにおいて「FPSはeスポーツではない」ことになるんですか。そんなバカな。

佐藤氏:
 法案は2018年の9月くらいから審査を開始していて、結果が出るまでだいたい1年くらいかかると言われています。ですからまだ最終結論は出ていませんが。【※】

※取材は2019年4月。2019年6月上旬現在は、eスポーツタイトルを定める規定やFPSを排除する規定などは廃され、この法案中で特定ジャンルのゲームを区別するような規定はなくなる方向で審議が進んでいる模様。

──しかし、なぜまた「FPSはeスポーツではない」ってわざわざ言い切っちゃったんでしょう。

佐藤氏:
 FPSはゲーム内において武器で人を殺しまくる、つまり「暴力的だから」です。

 最初その条文はなかったらしいんですが、どこかの議員さんが現地のeスポーツ団体と打ち合わせたときに、「この条文を入れろ」と彼らに要請した結果、法案にも入れちゃったらしいんですよ。ですから別のeスポーツ団体が抗議声明を出していますよ。

──別のeスポーツ団体?

佐藤氏:
 はい、抗議しているeスポーツ団体は、法案を提出したeスポーツ団体とは別の団体なんです。後者はeスポーツにあまり関係ない……というか、「eスポーツが人気だからとりあえず作ってみた」的な組織のようです。でなければ、こんなおかしな法案は提出されませんよ。自主規制する意図だとは思うんですけどね。

──業界の自主規制団体ですか。日本でいうとCERO(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)や映倫(映画倫理機構)みたいなものですね。

佐藤氏:
 そういう存在になりたいんじゃないですかね。
 彼ら、「意見はオープンに受け入れるよ」と言っているんですけど、「ぜんぜん聞いてないじゃないか!」とアルゼンチン国内のeスポーツ関係者からブーイングが飛んでいます。この法案自体、1条1条ツッコミどころが満載なんですよ(笑)。だから現地のゲーミング系のチームが連名で議員への意見書を出していますね。

eスポーツでモジモジしているのは日本だけじゃない

──eスポーツって、日本でもモジモジしている印象があるんですが、海外もそうなんですね(笑)。

佐藤氏:
 韓国・釜山に本部がある、国際eスポーツ連盟(IeSF)という組織があります。これはeスポーツの国際競技連盟を自称している組織のひとつなんですが、IeSFの規定では、ひとつの国からはひとつのeスポーツ団体しか加盟できないとしています。
 先ほどのアルゼンチンでは、法案を提出した団体が先に加盟したので、それがアルゼンチンのeスポーツを代表する団体だと主張する根拠になっているようなんです。

──早いもの勝ちなんですね。

佐藤氏:
 ええ。これに似た話がほかの国には結構あるんですよ。ビジネスの匂いを嗅ぎ取った人たちが先に団体を作って権威のありそうなところに加盟しちゃう。国際組織も加盟国の数が欲しいからどんどんそういう団体を入れてしまう。そして後で揉める。

──しかし、eスポーツってなんでこんなにきな臭くなっちゃうんでしょう。

佐藤氏:
 eスポーツには関わる人や団体がすごく多いからです。

 ゲームを発売・開発するパブリッシャーやデベロッパー、プレイヤーやチーム、取材・報道・中継・放映などを行うメディア、業界団体、ハードウェアメーカー、そしてゲーミングPCメーカーのようなスポンサー。

 このように6つや7つのステークホルダーがいるわけですが、それぞれの意向が一致しているかどうかというと、だいぶ怪しい。
 プレイヤーと、そのプレイヤーが所属するチームですら見解や方針が一致していないことも多いでしょう。アメリカでは、プレイヤーどうしで組織する団体がチームに抗議したケースもあります。野球で言うところの、選手会と球団の対立みたいなものですね。

──格闘技の興行もよく揉めますが、そこにはパブリッシャーがないわけで。eスポーツは、それより関わっている団体が多いわけですね。

佐藤氏:
 しかもeスポーツの場合、そのパブリッシャーがいちばん重要な部分を担っていますからね。

──パブリッシャーやデベロッパーが競技のシステムやルールなどを作っているから、それらを変更する場合、「誰がどんな基準に照らし合わせて公平性を保つか」って大変そうですよね。システムの変更のしかたによっては、特定のプレイヤーやキャラクターが有利・不利になる可能性がある。その決定権も全部握っていますし。

佐藤氏:
 各ステークホルダーの意向を汲みながら全部調整するのは相当大変ですよね。

 その点で、良いか悪いかはともかくとして、上が強権を振るう国は簡単なんですよ。トップダウンの指示に「NO」はありませんから。中国だったら、政府がお達しを出せばOK(笑)。ただ、逆に言えば偉い人が「eスポーツはいかん!」と言い出したら、一瞬で業界が吹っ飛ぶかもしれない、ということでもありますので、良し悪しということではないでしょうか。

──日本ではそうはいきません。

各国ともeスポーツは手探り状態

佐藤氏:
 ただ、別にひとつの国の中でそれだけのステークホルダーをすべて調達しなくてもいいんじゃないかと思うんですけどね。スポンサーは台湾、プレイヤーはフィリピン人、ゲーム開発は日本などでもいいのでは。

──なるほど、もはや日本だけでeスポーツをどうこうしようという発想から脱却したほうがいいのかもしれませんね。発想の転換が求められている。

佐藤氏:
 アメリカやヨーロッパ、中国ですらeスポーツは手探りです。たとえば、「中国の教育機関がeスポーツに進出。教科書も作った」というニュースがあったので、その教科書を手に入れたんですよ。

──おおー。

佐藤氏:
 その中で僕が気になった教科は、「eスポーツ心理学」です。

──おもしろそうですね。

佐藤氏:
 でしょ? 「対戦ゲームの駆け引き」などが書かれていると思うじゃないですか。
 ところが中身を読むと、単にeスポーツをプレイしているときの心理状態は……というような話だけなんですよ。
 本当に普通の心理学。中国なんて『LoL』のめちゃくちゃ強いプレイヤーがいるんだから、その駆け引きの話が書いてあったらおもしろいんですが、残念ながらそんなものはありません(笑)。

 結局、彼らも手探りなんです。だから日本としては、eスポーツの教科書が出てきたからといって、「中国に先を越された」なんて思わなくても大丈夫。

 アメリカの世界的なタイトルのeスポーツイベントであっても、チケットの事前予約にアメリカの携帯電話番号が必要だったり、ファンの熱意があるのをいいことに、いい加減なサービスをしているところもあります。

 欧州ではドイツ連邦政府のeスポーツに対する姿勢は党派にかかわらず意見が分かれている状況ですし、ドイツのオリンピック委員会はバーチャルスポーツとeゲーミングを分けろなんて言い始めている。フランスで設立されたeスポーツの学校も大炎上しました(笑)。

 だから、皆さん「エコシステムが大事」とはいうけれど、まだ世界のどの国でもeスポーツの勝ちパターンが確立していないんです。

南部の都市ナントに作られたフランス初のeスポーツアカデミーは、設備などがまるで整っておらず、窓のない部屋に学生をすし詰めにしていたなど「学生への待遇も酷い」と学生の告発があり炎上。学校側も反論したが、結局閉校となった模様。
(画像はAGAINST ALL AUTHORITY Enquête : The eSport Academyより)

─それは意外です。日本だけがガラパゴス的にeスポーツのスキーム化が遅れているのかと。

佐藤氏:
 欧州やアメリカの大きなゲームパブリッシャーやイベント運営会社を見ても、eスポーツ事業は入場者数や売上、視聴者数こそ増えているものの、単独ではっきり大きな利益が上がっているとは思えません。

 スマホアプリでは、制作会社がダウンロード数を前面に押し出して投資家を説得していましたが、それがeスポーツでは「ダウンロード数」を「競技人口」と呼び変えて投資家を捕まえる、というやりかたとして確立しているだけのようにも見えます。
 すべてのステークホルダーが納得して、「継続的にうまくいく条件だ!」というのはまだ誰もわかっていなくて、アメリカもヨーロッパも中国も韓国もまだまだ手探りの状況なのではないでしょうか。

 ただひとつ言えるのは、eスポーツの未来は「先進国」を見ているだけではわからないということです。

 ざっくりとした話をすれば、これまでゲームというものは、日本とアメリカと西ヨーロッパ、あとオーストラリアなどの国々にいる、10億人前後が住む“先進国”を相手にするビジネスでした。最近、約14億人の中国が市場として大きくなったので、彼らのやりかたが投資や開発からローカライズ、そしてユーザーへの提供方法の考えかたにまで、大きな影響を与えるようになってきているのが現実です。

 しかし、それでもまだたったの24億人です。実際には、これまでお話ししてきたとおり、残りの50億人が住む国々でも、ホワイトにせよグレーにせよブラックにせよ、何らかの形でゲームが遊ばれているんですね。
 eスポーツにはプレイヤーや観客の盛り上がりが不可欠である以上、この残りの人々の嗜好や遊びかた、観戦のしかたをよく理解し、選手や観客などとして仕組みの中に取り込むことができれば、eスポーツが発展する可能性はとても大きいと思いますよ。

──世界のゲーム人口は我々が考えている以上に多く、eスポーツにはまだまだ限りない伸びしろがあるということですね。今日は長時間にわたり、ありがとうございました。(了)


100年後の『いだてん』たるeスポーツ

 ミャンマーの家内制手工業ダウンロード店に始まり、今回は、20を超える国のeスポーツ事情に精通し、書籍を刊行した佐藤氏に、新興国を中心に語っていただいた。

 なかでも印象的だったのが、新興国の「たくましさ」だ。

 通信料が高いからダウンロード屋が繁盛する。
 Steamの課金を嫌って『PUBG MOBILE』をPCでプレイする。
 同じゲームばかりやり続けてめちゃくちゃ強くなる。
 最新ハードがないなら古いハードでデータを改竄してまで最新版で遊ぶ。
 賞金をモチベーションに貧困地域から成り上がる。
 多言語を駆使して情報を収集する。

 ──挙げればキリがない。なかには明らかな違法行為も含まれているが、じつにダイナミック、じつにおもしろいという感想以外にない。

 取材を終えて、放映中のNHK大河ドラマ『いだてん 東京オリムピック噺』のことが頭に浮かんだ。100年以上前、日本人に「スポーツ」を根付かせた者たちの話である。当時の日本で「スポーツ」は低く見られており、大の大人が時間と金をかけて「かけっこ」をするなどくだらないと言われていた。周囲からは奇異の目で見られ、練習方法も手探り。しかし彼らは周囲の反対を押し切って日本人を国際大会に送り込み、のちの東京オリンピック実現のための大いなる礎となった。

 現在のeスポーツは、まさに『いだてん』的状況下にある。eスポーツがスポーツかどうかすら見解が割れている。練習方法も運営方法もレギュレーションも手探り。何も確立されておらず、誰にも正解がわからない。ゲーム大会なんてくだらないと笑う者も多い。しかし、知られざる国の知られざるプレイヤーの活躍によって、eスポーツは確実に熱を帯びてきている。

 日本で低く見られていた「スポーツ」が、自国でのオリンピック開催という地位に上り詰めるまで約50年かかった。「eスポーツ」は何年かけて、どの程度まで行けるのだろうか?

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