働く女性が管理職になりたがらない本当の理由——新書時評

6月25日(月)11時0分 文春オンライン




 安倍政権のスローガン「一億総活躍社会」。それを実現する方法が「働き方改革」だという。裁量労働制の拡大には国会で激しい論戦があったが、今後、急ピッチで減少する労働人口を補う役割を女性に期待する流れは既定路線だ。


 とはいえ期待される側の本音はどうなのか。博報堂キャリジョ研『働く女の腹の底』(光文社新書)に調査報告と分析がある。それによればキャリア志向は強まっており、結婚後も働き続けたいと希望する女性が大多数を占める。となると女性労働人口は増えそうだが、更に調査を進めるとキャリア女性(=キャリジョ)の多くが「仕事でがんばるにはプライベートが大事」と答える。男性の働き方はオンとオフを切り分ける「ケーキカット」型で忙しくなればプライベートを切り捨てていた。対して女性は「ブレスレットのチャーム」型。仕事もプライベートも共にキラキラ輝いていて欲しいのだ。


 たとえば日本では女性管理職の少なさがしばしば問題視される。状況を改めるべく二〇一六年には「女性活躍推進法」が施行された。だが、ふと気づく。NHKの朝の連続テレビ小説で女性管理職が描かれることは少ない、と。働く女性が登場する作品で、主人公たちは上下左右に気を使う中間管理職になるよりも自分の夢を実現しようとする。女性は朝ドラの主人公に自分の姿を投影すると考える矢部万紀子『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)の見立てに従えば、しがらみに縛られる管理職に女性は惹かれていないらしい。


 キャリジョ研の調査でも裏付けられているこうした傾向は、彼女たちの処世術でもある。村山洋史『「つながりと健康格差』(ポプラ新書)の副題は「なぜ夫と別れても妻は変わらず健康なのか」。男性のネットワークは会社関係に限られるために退職後に消失するが、女性は友人とのつながりや地域での知り合いが多く、離婚しようが転職・退職しようが人間関係が揺らがない。著者は豊かな社会関係資本こそ健康を支える条件と考えており、女性の元気の理由を柔軟で多彩な人間関係に見る。


 管理職になった女性が男性並みのネットワーク貧者に退化するような働き方改革に意味はない。男性的価値観で構想された一億総活躍社会は男性中心社会の弱さを継承する。そうではなく、ドラマやソーシャルメディアの中にキラキラした輝きを探しながら多様に繋がりつつ生きる女性の強さとしなやかさ。それをいかに活用できるか、女性たちのリアルな姿を描いた新書から学ぶべきだろう。






(武田 徹)

文春オンライン

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