ベトナム女児殺害事件 父親が綴った「悲憤の手紙」全文掲載

6月25日(月)11時0分 NEWSポストセブン

その手を繋ぐことはもうできない

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 日本に希望を持って来日したベトナム人男性は、9歳の愛娘がわいせつ行為を受けたうえに、命を奪われた。そして裁判では、被告の驚くべき“主張”に再び心をえぐられた。絶望の淵に立つ父親が、亡き娘と犯人への思いを綴った。(取材・文/水谷竹秀=ノンフィクションライター)


◆怒り、無力感、悔恨


「息子は今も姉のリンちゃんが亡くなったことを知りません。どうしてリンちゃんが毎日学校から戻って来ないのか。どうしてご飯をあげたのに残っているのか。どうして家にいないのか。4歳の息子にどう答えていいのか分からなかった」


 黒いスーツ姿のレェ・アイン・ハオさん(35)は証言台で、両手を大きく上下に振り、声を震わせながら日本語で激しく訴えた。検察側の後部に設置された衝立の中からは、母親・グエンさん(31)のむせび泣く声が聞こえる。その対面に座る澁谷恭正(しぶややすまさ)被告(47)の目は虚ろで、ハオさんの訴えにも一切表情を崩さなかった。


 6月15日、千葉地裁201号法廷では、ベトナム人女児、レェ・ティ・ニャット・リンちゃん(享年9)が殺害された事件の第9回公判が開かれていた。


 リンちゃんは昨年3月24日朝、松戸市内の小学校への登校中に行方不明になり、2日後に約10km離れた我孫子市の排水路脇で全裸の遺体となって発見された。


 その3週間後に逮捕され、強制わいせつ致死、殺人などの罪に問われた澁谷被告は、保護者会会長として児童の見守り活動を務め、犯行後もテレビのインタビューに“心配する保護者のひとり”として答えていたため、その姿と事件の残虐性とのギャップに世間の注目が集まった。


 6月14日の被告人質問ではハオさんを糾弾するような証言をしたうえで、あらためて無罪を主張した。ハオさんが証人尋問のために出廷したのはその翌日だった。


 検察側から「被告人への処罰は?」と問われると、ハオさんは「死刑の判決を出してほしいです。お願いします」と述べ、裁判官に向かって頭を下げた。その理由についてハオさんは説明を加えたが、時間内ではすべてを伝えきれなかった。その無念の思いを手記としてしたため、私に送ってくれた。


 公判前に準備していたというその手記は、ハオさんがベトナム語で綴り、彼の知人が日本語に翻訳したものだ。こんな書き出しで始まる(以下、手記は〈 〉内)。


〈たくさんの理由で被告人を死刑にしないといけません。皆さん、リンちゃんが死ぬ直前の姿を想像してみてください。きっと「どうか放してください。私を痛めつけないで。殺さないで。お父さん、お母さん、私を助けて。誰か、私を助けて。痛い。私を放して……」と泣き叫んでいたのではないでしょうか。被告は私の娘が死ぬまでいたぶり続けました。そして、一枚の布切れさえも体に覆わせず、凍えるように寒い橋の下に遺体を放置したのです〉


 ハオさんは2007年10月にIT技術者として単身、来日した。その2か月後にベトナムで生まれたリンちゃんが母親と一緒に日本へ渡ったのは、彼女が2歳の頃だった。


〈リンちゃんが普通の生活をできるように、一生懸命に頑張りました。家族が団結し、共に人生の困難を乗り越えることができるよう、すべての努力を傾けてまいりました。ようやく1つの場所に安住し、リンちゃんが健やかに学び、育ち、そして成長してくれることを期待していました。けれども、そのような小さな夢さえも、途中で壊されてしまいました。リンちゃんを生まれ故郷に連れて帰り、私は自分の手でリンちゃんを埋葬しなければならなかったのです〉


 被告に対する怒りを顕わにする一方で、ハオさんは自身の無力感にさいなまれ、悔恨の念にかられていた。


〈リンちゃんを守ることができませんでした。このことを私はとても恥ずかしく、情けなく思っています。リンちゃんが日本を初めて訪れた時、私は「お父さんのそばにいれば何も怖がることはないからね」と言っていました。でも、私は娘を守ることができませんでした。リンちゃんが暴行され、殺されるまで、私はリンちゃんがどこにいたのかすらわかりませんでした〉


◆「殺すぞ」の脅迫電話


 公判で証言したように、ハオさんは息子のトゥ君に、リンちゃんが亡くなったことを知らせていない。


〈トゥ君がお姉ちゃんの写真を手に持ち、お姉ちゃんといつも観ていたテレビ番組を観ています。パンを食べながら息子は、お姉ちゃんの写真に向かって「お姉ちゃんパン食べて」、「お姉ちゃんテレビ観て」と言っているのです。私はその様子をビデオに収め、ユーチューブにアップしています。ある時、トゥ君は「リンお姉ちゃんは殺されたの?」と聞いてきたのです〉


 事件発生以来、ハオさんは公判を待つだけの状況に耐えきれず、極刑を求める署名活動をインターネット上で開始した。今年1月下旬には千葉県柏市で、2月には東京の上野公園、千葉駅でそれぞれ街頭に立って道行く人々に呼び掛けた。


〈皆さんの署名をお願いするために上野公園を訪れました。休みの日にリンちゃんを何度も遊びに連れて行った場所です。みんなが子供を連れて遊んでいる姿を見ると、心が締め付けられる思いでした。リンちゃんの手をとって、公園に遊びに連れていきたい。こんな小さな夢でさえ、今の私にとっては自力で空の上を飛ぶことよりも難しいのです〉


 松戸市にあるハオさんの自宅は2階建ての古民家だが、防犯カメラが至る所に設置されている。事件後、息子や妻が同じような目に遭わないようにするため、16台も取り付けたのだ。戦々恐々の日々を送る中、ハオさんのもとには人種差別的な脅迫電話やメールが送りつけられもした。


〈インターネット上には、娘を殺した犯人の肩をもち、かばうような書き込みがされ、私たち家族を脅迫するようなメッセージを送ってくる人もいました。中には、私に直接電話をかけ、「殺すぞ!」とベトナム語で脅す人もいました。私や私の家族はとてもつらく、恐ろしい日々を過ごしています。私の家族の命や安全を脅かすような文章がネット上に書かれるという、あまりにも危険な状況の中でも、私はそれに立ち向かってきました。駅前の街頭に立ち、極刑を求める署名を皆さんにお願いしました〉


 これまでに集まった署名は日本、ベトナム、そしてその他の国々から約116万人に上った。


〈リンちゃんを殺害した犯人の行動は、世界一の文明と安全を築き上げてきた日本のブランドをぶち壊しました。多くの日本人が、犯人と同じ国籍を有していることを恥ずかしいと言っています。それは日本人、日本国民にとっても大きな屈辱ではないかと思います。天も地もこれを許すことはありません。いかなる神様も許しません。人間として生きる資格、人格を持たない犯人に、世界中の人々が死刑を求めています〉


◆「冷たい血が流れる鬼」


 澁谷被告は6月14日の被告人質問で、事件への見解を問われ、こう言い放った。


「通学路で起きたことは親の責任。一緒に登校すればよかったのに、(リンちゃんを)1人で行かせて事件にあった。守ってほしかった」


 澁谷被告が所有するキャンピングカーからは、金属製のSM用手足錠、バイブレーターなどアダルトグッズが10点以上も押収され、その一部からリンちゃんのDNA型が検出されている。リンちゃんの遺体からは澁谷被告の唾液とDNA型も検出された。それらの証拠をもとに、検察は6月18日の論告で死刑を求刑した。


〈今日までリンちゃんや私たち家族に対する謝罪の言葉は一つもありません。それは人間のなせる行動ではありません。人を殺めても反省する気持ちを知らない犯人は、凍るように冷たい血が流れている鬼であるとしか言えません。人間でない以上、人間の世界に存在することは許されません〉


 ハオさんがこれほど強い言葉を使う背景には、公判中、澁谷被告の口から真実がついぞ語られなかったことへの無念の思いがある。


〈リンちゃんは、とても残酷な姿で発見されましたが、どうしてそのような目に遭い、殺されたのか分かりませんでした。私の娘の体に何がされたのか。被告人の親族にもこのことはきちんと伝えておきたいです。しかし、リンちゃんを殺した犯人が誰だか分かった以上、その犯人は死刑に処せられるべきであり、命をもってリンちゃんに償うべきです。


 被告にも子供や親族がいることでしょう。ですが、被告はリンちゃんに残虐かつ非道で、おぞましい暴行と殺害をした以上、死刑を宣告され、命によって罪を贖うことは当然のことだと知るべきです。私がこう申し上げるのは、私が悪人だからではありません。被告が死刑になるのは、被告が自ら起こしたこと、行なった罪悪に対する報いだからです。死刑に処せられることで、私はすべての憎しみや恨みを終わりにさせたいのです〉


 一審判決は7月6日午後に言い渡される。


※週刊ポスト2018年7月6日号



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