日本初の「自動車運転外来」MRI検査で潜在的認知症を発見

6月26日(水)11時0分 NEWSポストセブン

悲惨な事故を繰り返してはならない(EPA=時事)

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 高齢ドライバーによる暴走事故が相次ぎ、「高齢者は免許を返納すべき」という空気が広まっている。だが、代替交通手段の多い都心ならいざ知らず、地方で車は“生活必需品”だ。運転を続けるのか、やめるならいつ、何をきっかけにやめるのか。超高齢社会が抱える難問に挑む病院を取材した。


◆「認知症が進むのは嫌」


「ここは住宅地が郊外に散らばっていて、バスなどの公共交通は幹線道路にしかない。妻と2人暮らしで、車がないと病院や買い物にも行けません。免許返納できるものならしたいけど、地方では車がなければ生きていけない」


 地方都市の郊外に住む75歳の男性はそう漏らした。


 相次ぐ高齢ドライバー事故を受け、自身、あるいは老親が“ハンドルを握り続けていいのか”という悩みを抱える人は少なくない。その高齢ドライバー問題に正面から向き合おうとする施設が高知市内にある。高知駅にほど近い繁華街の一角にある愛宕病院では、日本初の「自動車運転外来」が2017年10月から開設されている。


 この外来が他と大きく異なるのは、院内で認知機能の診断から運転能力向上のリハビリまでセットで受けられる点だ。


 運転外来の開設に至った経緯について、担当医師で脳神経外科医の朴啓彰氏(高知検診クリニック脳ドックセンター長)はこう語る。


「もともとは警察からの依頼で認知機能検査をしていました。なかには判断がつかないケースがあり、3か月後、半年後に再検査するのですが、『その間に認知症が進むのは嫌だからリハビリを受けたい』という患者が出てきたのをきっかけに、外来をつくりました」


 外来には「認知機能が低下している」として高知県警から受診を課された75歳以上のドライバーに加え、認知機能低下に不安を感じたり、家族に受診を促された高齢ドライバーが訪れる。


◆同年齢でも事故リスク3倍に


 現在、運転免許の更新において、70歳以上は高齢者講習、75歳以上はさらに認知機能検査を受講する必要があるが、同院の診断ではペーパーテストだけではなく、MRIによる脳の検査も実施する。


「高齢ドライバーによる事故のなかには、一般的なテストなどでは認知症とは診断されていないが、いわゆる潜在的認知症の状態にあって、それによる一瞬の判断の遅れで大事故を引き起こしているケースがある。この潜在的認知症がMRI検査による診断で見つけられます」(前出・朴医師)


 検査を裏付けるのは朴医師が脳神経外科医として、2010年から2011年にかけて行なった調査だ。


 脳の状態と交通事故の関係性を調べるため、脳ドックセンターを受診した21歳から87歳の男女3930人に、過去10年間の交通事故歴について聞き取り調査を実施。その結果は非常に興味深いものだったという。


「MRIで撮影した脳の断面図と照らし合わせた結果、脳の白質内に存在する毛細血管が消失する『白質病変』が発生している人は、交通事故を1.67倍起こしやすく、交差点の事故に限れば3.35倍にも上がることがわかりました。『白質病変』が起きることで、脳が運転に必要な情報量を処理できなくなり、反応が遅れていると考えられます。現在、私の手元には2万人分の脳ドックデータが蓄積されていて、加齢だけでなく、喫煙や飲酒、生活習慣病などにより、同じ年齢でも症状に差が生じることも判明している」(同前)


 MRI検査に加え、作業療法士チームがドライブシミュレータによる検査と高次脳機能検査を行なう。


 ドライブシミュレータを使った検査では、画面の映像に応じてハンドルやアクセル、ブレーキを操作する。反応動作の速さやムラをはじめ、発進停止、安全確認、走行位置、速度などを判定し、AからEまでの5段階で評価が出る。


 高次脳機能検査は、「今日は何年何月何日か」「100から7を引き続けなさい」といった質問に答え、記憶力、言語力、流暢性、注意力などが100点満点で評価される。90点以上で正常となるが、どの項目に問題があるかも明確になる。


 この3つの検査結果を総合的に判断して、朴医師が運転の「適応」「不適応」を判定する。警察から受診を課された人が「不適応」と判定された場合は基本的に免許返納となるが、回復の可能性がある場合はリハビリで運転能力向上を目指す。「適応」と診断された場合は免許センターで運転免許証が交付され、希望する場合はリハビリを受けられる。任意の受診者も返納義務などがないこと以外は、同じ流れとなる。


※週刊ポスト2019年7月5日号

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