「逮捕されたから生きている」中国から強制送還された男の告白

6月30日(日)16時0分 NEWSポストセブン

 かつて振り込め詐欺グループといえば、逮捕さえされなければ、かけ子であってもまとまった金が手に入り、それなりにおいしい思いをできるものだった。ところが、取り締まりが厳しくなり、拠点を海外へ移す国際化がすすんだことで、グループのメンバーは、まるで収容所で強制労働を課されるような環境に追い込まれている。ライターの森鷹久氏が、日本へ強制送還されて逮捕され「助かった」と語るほど厳しくなった、特殊詐欺グループの現実についてレポートする。


 * * *

「私は何にも知らんのです。2年前にフィリピンに留学に行くといって、今年の正月に会った時も変わった様子はなかった。今回息子が逮捕されたというて家にマスコミがたくさんきて…。逆に記者さんに“どうなっているんですか”と聞いているような状況なんですよ」


 タイ・パタヤから日本向けに「振り込め詐欺」の電話を行なっていたとして逮捕された15人の日本人のうち、リーダー的な立場であったとみられる男(23)の父親が筆者の問いかけに、力無く答える。男は佐賀県武雄市出身、野球留学でお隣福岡県内の高校に進学する、父親にとっても自慢の息子だった。


 高校卒業後は専門学校に進学するも中退し、福岡市内のナイトクラブでDJとして活動していたが、2年前には「フィリピンへ留学する」と話し、父親としても「あっちで勉強している」としか思っていなかった。留学にかかる費用面で家族に頼ったわけでもない。そんな中で起きた「息子の逮捕」だっただけに、まさに寝耳に水の事件であった。


「息子とは一度も話せていない。いまだに何が何だかわからない。リーダー格? まさかそんなね…」(父親)


 一方、同じく逮捕された男の親族は次のように訴える。


「知人から“海外でビジネスをしないか”と誘われ、行ってしまった。特殊詐欺をやるんだと本人がわかっていたかは知りませんが、家族に“帰りたくても帰れない”と連絡をよこしてきていたようです。知人にそそのかされたとか色々勘ぐる部分もあるのですが、全てを明らかにして罪を償ってほしい。とにかく、本人が無事に帰ってきたことに、家族はホッとしています」(親族)


 警視庁による15人の取り調べの詳細はいまだわかっていないが、以前、中国から日本国内向けに「特殊詐欺」の電話を行なっていたとして、現地当局に拘束された後に強制送還、日本の警察当局に逮捕されたX氏(20代)が、自身がかつて置かれていた実情について説明する。


「きっかけは知人への借金です。20万円とかそんなものでしたが、知人から“楽に稼げる仕事がある”と紹介されたのが、海外での仕事でした。なんとなく詐欺なんだろうなとはわかっていましたが、パスポートを取得した翌週には中国に飛びました。空港に着いたら、まず現地の日本人責任者と落ち合い、パスポートと携帯を預けます。そこから車で某都市のホテルに移動し、特殊詐欺電話のかけ子をすると説明を受けました。成果報酬型で、うまくいけば20万円は一週間もせずに返せると。帰国してもいいし、そのまま残って“稼ぐ”のもいい、自由に選べるとのことでした」(X氏) ホテルからも程近い雑居ビルに移動し、架空請求メールに騙され電話をかけてきた人々に応対するのが業務だった。相手から名前と年齢、住所を聞き出し、未納料金についての説明をマニュアルに沿って行う。20万から30万円まで、請求金額は様々だったが、金額の違いについては教えられなかった。


「部屋には自分と同じくらいの若者やおじさん、おばあさんもいました。私語が禁止されているのでそれぞれの素性はわかりません。でも、みんな必死に働いていたという印象です」(X氏)


 マニュアルに沿って受け答えをし、数件の「実績」をあげたX氏。その被害額がいったいいくらであったかは判然としないというが、最低でも50万円近い振り込み、同額程度の「プリペイドカード決済」を完了させた。「出来るだけ事務的に、市役所の窓口の人みたいな淡々とした口調で」などという現場責任者からのアドバイスも役に立ち、この仕事で食っていける、あわよくば大金を手にして帰国できる、そんな甘い考えも頭をよぎる。一週間を過ぎた頃には、借金の返済も終えたはずだった。しかし──。


「最初の一週間は、現地の責任者という人物(日本人か中国人か不明)に毎晩食事に連れて行ってもらいましたが、その翌週からは完全にホテルに軟禁状態で、責任者の姿も見えなくなった。報酬や借金の話も一切されなくなり、強面の中国人の見張りがつけられ、黙々と電話をするしかない。外出も、外部への連絡も許されない。帰国できるのか、という問いははぐらかされ、逃げると中国警察に捕まって死刑だよ、と脅される。騙されたと思うと同時に、いつまでやらなければならないのか、殺されるのではないかと不安で仕方ありませんでした」(X氏)


 中国当局に不法滞在で身柄を拘束された時には「助かった」と胸をなでおろしたというX氏。日本に強制送還された後、逮捕された。実刑判決を受け服役もしたが、逮捕されたことで「今生きていられる」と話す。


「タイの15人も、そのほとんどが高額バイトなどと騙されて海外に渡ったのでしょう。僕と同様に浅はかというしかない。ただ、命があったことだけは本当に救いです。僕が働いていた現場でも、いきなりいなくなる人がいました。どこで何をやっているのかは知りません」


 ミイラ取りがミイラに…という典型的なパターンだろう。彼らに同情の余地はないが、こうした事実を知らしめることにより、いくら追い込まれていても犯罪には加担しないという人が少しでも増えれば、と思うしかない。

NEWSポストセブン

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