米津玄師と三浦大知の新曲から感じた“誰もが歌える”が売れる条件じゃない——近田春夫の考えるヒット

7月4日(木)17時0分 文春オンライン

『片隅』(三浦大知)/『海の幽霊』(米津玄師




絵=安斎肇


 今週は、三浦大知と米津玄師の最新作である。二曲を聴いているうち、そこには何か通底するものがあるようにも感じられた。まぁ、楽曲から受ける曖昧な印象レベルの話ではあるのだが、なんと申せばよいのか、やはり作曲者たちの腕の見せ所にも“トレンド”はあるのだなァと……。


 別の視点から大袈裟に語るのならば、商業音楽に於ける受け手側の嗜好の推移/変遷といったテーマにもなろうか。


 流行歌というぐらいだ。時代時代で傾向や特色はある。最近の私は、音楽と社会/生活の関係に一種“意味合いの移行”を肌で感じてならない。


 それはたとえばサブスクリプションの登場/普及といった文脈と繋がっていたりする……? とかなんとか、その手のもっともらしい議論は得意ではないので、ここで意見を述べることは差し控えたいが、jpop曲のチャートなどをボンヤリ眺めるにつけ、かつてほどには口ずさみ易さがイコール人気を支える大きな“柱”ではなくなってきていると思える場面が加速度的に増していることに、間違いはないような気がしてしまう。



片隅/三浦大知(AVEX)元Folderヴォーカル三浦大知25枚目のシングル。木村拓哉工藤静香の娘、Koki,が楽曲提供と話題に。


 いや、ホント。自分が物心ついてから令和になるちょっと前ぐらいまでは、優れた/売れる作曲家といったら“誰もがすぐに覚えて歌うことが出来るメロディーを書けるひと”というのが“通り相場”だった。皆そこのところのスキルで競い合ったのだ。そしてそれがあったればこそ、カラオケ文化もあれだけの隆盛を極めたともいえるが、どうも以前に比べると人々は「歌いたい!」というより、むしろ「聴きたい!」と。日本社会全体が音楽に求めるものの優先順位が変わり出してきている風にも映る今日この頃、今週取り上げた二曲にせよ、素人がレパートリーとしてモノにするのには、結構な技術的努力を必要とするシロモノだろう。こうした、それこそどう考えてもカラオケ向けとは思えぬようなjpop新譜が、大層な人気を博しているのだ。



海の幽霊/米津玄師(sony)配信限定。アニメ映画『海獣の子供』主題歌。米津は五十嵐大介の原作コミックのファンであるとのこと。


 という状況のなか、さて冒頭の話題に戻れば、どちらの曲調からも強く感じられるのは、リスニング時のイマジネーションを盛り立てるのには、「旋律と和声の関係が織り成すもの」こそ、おおいに重要な役割を果たすのだ、といったアピールのようなものであった。そしてそれはまた一方では、勢いや雰囲気任せの鼻歌ではちとまかないきれぬ、アマチュアにはハードルの高い、相当程度の知識を必要とする作/編曲術でもある。


 知りたいのが『片隅』の方で、アレンジ前、作者のKoki,はメロディーにどのようなコードをあてがっていたのか? である。本人がすでに和声をこの完成形の通りの形に固定していたのなら、その年齢などを考えたとき、彼女はなかなか末恐ろしい存在だといわざるを得ない。この先が本当に楽しみである。


 ところで、木村拓哉をキムタクと呼ぶのなら米津玄師はヨネケン。更にひっくり返して、これからは「玄米くん」って呼ぶの、よくね(笑)?




ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト〜世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。




(近田 春夫/週刊文春 2019年7月4日号)

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