高齢者の「多剤服用」が深刻、厚労省発表の画期的報告書

7月7日(日)7時0分 NEWSポストセブン

厚労省新ガイドラインの「要注意薬リスト」代表的な薬剤

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《在宅療養患者では、平均処方薬剤種類数は6.5種類であり、60%が6種類以上であった》──厚生労働省は6月中旬、そんな衝撃的な実態をまとめた報告書を発表。「多剤服用」に警鐘を鳴らすとともに、「高齢者の服用には注意が必要な薬剤」のリストもバージョンアップされた。


 薬局から持ち帰る薬袋がどんどん大きくなっていくと嘆くのは、埼玉県に住む65才の主婦、村山さん。


「いつの間にか、1日に10種類以上の薬をのむことになっていて…。最初は市の健診でひっかかった高血圧とコレステロールの薬だったのですが、そこから骨粗しょう症の薬、さらに、薬の副作用を抑える胃腸薬に加え、夜眠れなくなった時は睡眠導入剤ものむ。正直、どれがなんの薬なのか混乱するうえ、かぜをひいたりすると、さらにその薬が加わる。もはや効いているのかすら、よくわかりません」


 今、村山さんのような人は決して珍しくない。多くの薬をのみ合わせた結果、害が発生する「多剤服用」が社会問題になり、国を挙げての対策が始まっている。


 2018年5月、厚労省は「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」というガイドラインをまとめた。医療機関に向けて、不要な薬の処方を減らす必要性や、その具体的なプロセスを説いたもので、安易な薬剤の使用に警鐘を鳴らしている。


 特に、注目されたのは《高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点》という添付資料だ。高齢者によく処方される薬剤について、実際に起こりがちなリスクや、併用によって起きる事例をまとめるなど、かなり力が入ったものになっている。


 同指針をまとめたワーキンググループ構成員である、たかせクリニック理事長で医師の高瀬義昌さんはこう話す。


「指針は、高齢者に広く使われている薬についての注意すべき点を指摘し、見解をまとめたものです。過去には老年医学会をはじめとする各学会が高齢者に対する薬剤の使用についてガイドラインを示すなどの動きはありましたが、今回は厚労省が主導して作ったものであり、画期的といえるでしょう」


 総論編の公表から1年を経た今年6月14日、続編である「各論編(療養環境別)」(以下、新ガイドライン)が公表された。総論編の倍近い紙幅を割いたこの新ガイドラインは、「外来患者」や「入院患者」、「医師が常勤する介護施設の入所者」など、高齢者の療養環境ごとに薬剤治療を見直す手段を、より具体的に記載したものとなっている。


 新ガイドラインには、高齢者によく使われる薬の注意点が追加で記載されており、厚労省が指摘する「高齢者が注意すべき薬剤」も増えたことになる。


◆あちこちのクリニックで薬が出る


 そもそも、なぜ国がそうした指針をまとめるに至ったのか。それは、特に高齢者に薬のトラブルが多発したからにほかならない。


 年を取るごとに人は複数の病気を抱えるようになり、薬が増えていくもの。しかし、それらをのみ合わせていくことで、新たな副作用を招いてしまうことがある。


 2012年、東京大学病院老年病科における研究によれば、6種類以上の薬を処方されている患者は、それ以下の薬しかのんでいない人に比べて副作用が起きる率が急上昇し、およそ10〜15%も副作用が出やすい傾向にあることが判明した。同様にアメリカでも、研修医向けの書籍に「4種類以上の薬をのんでいる患者は危険」という記述があるなど、その危険性は世界中で知られているのだ。にもかかわらず、日本ではそれがまかり通っている。


 新ガイドラインでは2014年に大手チェーンの585薬局で調剤を受けた65才以上の患者約18万人(平均76.1才)を対象とした調査結果を掲載。5種類以上の薬を処方されている人の割合は65〜74才で27.2%、75〜84才で36%、85才以上になるとなんと47.3%と半数近くにも及ぶことが報告された。


 さらに、別の調査(2019年)でも、特別養護老人ホーム入所者の処方薬は平均4.9種類で、6種類以上処方されている人の割合が41%だった。在宅療養患者の場合、平均処方薬は6.5種類、60%の人が6種類以上の処方を受けていたという。


 多剤服用がよくないとわかっているのに、薬を減らせていない。そんな現実の背後にあるものは何なのか。薬局・池袋セルフメディケーション代表で薬剤師の長澤育弘さんが分析する。


「高血圧や高コレステロールなどで、『ここからは病気』とされる基準値が、徐々に厳しくなっているんです。つまり検査結果が同じでも、これまで健康とされていた人が“病人”と判定されるようになり、どんどん薬が出るようになっているのです」


 現在は紹介状なしで大病院にかかると、5000円以上の「選定療養費」がかかるが、長澤さんは、それも多剤服用の一因になっているのではないかと言う。


「今、国の方針で病院よりもクリニックにかかることが推奨されています。高齢者は複数の病気をもっていることが多く、いくつものクリニックをかけ持ち受診することになる。医師は独立性が高いこともあり、患者が他院でどんな薬を処方されているのかが共有しづらい。たとえば脳神経科で頭痛の治療を受けている人が腰痛で整形外科にかかるなんていうことはザラにあり、その場合、鎮痛剤や胃薬が両方から出ることもよくあるケースです」


※女性セブン2019年7月18日号

NEWSポストセブン

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