ジェーン・スー&中野信子が語る「ナマコ的な生き方」とは?

7月15日(月)16時0分 NEWSポストセブン

対談集『女に生まれてモヤってる!』を出したジェーン・スーさんと中野信子さん

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「読んでラクになった!」「モヤモヤが共有できて、猛烈に感動した」など話題を集めているコラムニストのジェーン・スーさんと脳科学者の中野信子さんの対談集『女に生まれてモヤってる!』。同書の中から一部を紹介。今回は、周りからバカだと思われても、自分でゴールを設定したら楽になった、という2人の体験談をお届けします。


 * * *

スー:「働きたくない」っていう人いるでしょ、男女問わず。なぜ働きたくないのか、いろんな理由があるよね。今の仕事が嫌なのか、生活の中で仕事のプライオリティ(優先順位)を上げたくないのか、労働と呼ばれるすべての行為が嫌なのか。どちらにせよ、どうすれば効率よく生きていけるか、それぞれ工夫の仕方が違うはずだと思うんだよね。


中野:私も働きたくないよ。


スー:あなた実はそうよね。世間からは仕事好きと思われているかもしれないけど、このお方はね、誰よりも効率よく働くんですよ。


中野:普段はゾンビみたいな人間だから(笑)。最小の努力で、吊し上げに合わないように、働いているように見せかけている的な。


スー:そういうとこ、天才だよね。どうしたらミニマム労働で自分を満たせるか、かなり考えてる。テレビだって、自己顕示欲から出ているわけじゃないでしょう。まるで水面から鼻だけちょっと出してるワニだね。身の危険を感じたら、シュッと水に潜る。


中野:よく見抜きましたね(笑)。みんな水の外に出たがるんだけど、出ちゃったらそんなのひからびて死んじゃうかもしれないじゃないですか? 超低空飛行ですから、私。


スー:働きたくない気持ちを丁寧に分解して工夫した結果、このスタイルが編み出されたの?


中野:もちろん、私なりに工夫はしていて「これを残せばゴール」みたいな戒めのラインが自分の中にきちんとあるのよ。そこはなるべく破らないようにはしつつ、最小限の労力でこなしていきたい。いうなればナマコですね。ナマコってめちゃくちゃ代謝が低いのね。で、最小限しか動かないから、敵に襲われるリスクも低い。素晴らしい生態じゃないですか。「私、これだわ」って思ったよ。


スー:ナマコ信子。韻踏んでる。「中野信子は優秀だからそれができるんだ」って声は出ると思うけど、このモデルはどのサイズでも再現できる。女性こそナマコ的な働き方が向いてるのかも。だって男性に比べて体力がない人が多いし、妊娠・出産が可能ということは、生き物として脆弱な時期が一定期間あるってことだから。無駄に代謝しない働き方、戦略的には全然ありだと思います。


中野:ナマコやカメとか、海の生き物は結構そう。種を問わず、基本的に運動量が多いと短命になる。人間も同じで、多忙だと短命になる傾向があるという見解があります。だから経験を積んで自分の許容範囲が見えてきたら、その範囲内でやれる方法を考えていけばいい。メンタルを維持するために、たまにはちょっとの刺激があってもいいけど。


スー:中野さんはいつからそういうナマコな生き方を選択したの? 


中野:以前は私も息を詰めて競争する生き方をしていたのよ。それをやめたのは、ポスドクが終わるとき。ニューロスピンにポスドクとして在籍していたのだけど、2年が過ぎた段階で「もうこれでやりたいことやったわ」と思えたのでスッパリやめました。それまではずっとここをゴールと定めたら思い切り息を詰めてやり遂げる、っていう生活をしていた。でもあとの人生はもうボーナスゲームみたいなものだから、ゾンビになって好きなことだけやろうと思ったの。実はその時点でパリでの次の仕事も決まってはいた。


 それを捨てて日本に帰っちゃったから、周りの人からバカだバカだってさんざん言われましたね。でも私にとってその仕事はフランスにしがみつくだけの手段にも思えたし、旦那に会って一緒にいたいなという気持ちのほうが強くなったこともあって、今はそれを我慢するフェーズなのかな? と考えた結果、好きなほうを優先しました。今思えばあれが人生の大きなターニングポイントでしたね。外から見たら愚かな選択だと言われるんだろうけど、「別にそれが何?」っていう感じですね。


スー:ゴールは自分で設定していいんだよね。ゴールがわからないことが一番つらいもん。自分で決めないと、ゴール=他者からの期待、だと思っちゃうし。私の場合、人が決めたゴールって終わりが見えなくて怖いんだよな。次から次へと新しいのが出てくるから。


中野:私もずっと社会が決めたゴールみたいなものに一生懸命になっていたんだなと思う。でもある程度クリアしてしまって、もうこれ以上クリアするものがないなっていうときがきた。

34、35歳のとき。ただ、平均寿命からすると、人生がまだ50年くらい余っている。じゃあどうしようかって考えて、それまでの息を詰めて走り続けるような生活はもうやめようと思ったんだよね。


 今やっているテレビの仕事が面白いのは、自分の知っている範囲内では絶対に会えない人に会えることなんです。そうすると、違うゲームが楽しめる。自分が持っている考えをどういう形にしてモディファイ(修正)したら伝わるかなとか、こういう風にすると私は満足するがみんながついてこないのか、とわかったりするのも面白い。そこから社会の仕組みもよく見えるような気がした。本を書くことも同じよね。コアなファンがついてくる本と、みんなに売れる本っていうのは違うんだなといった発見がある。今は海の中から人間の社会を観察しているみたいな感じがして、すごく心地いいですね。


スー:世間の中野信子像が固定しないようにしてるでしょ。最近じゃ本の帯に載っている写真も一冊ごとにイメージが違う。中野信子の顔はわかる。脳科学者だってこともわかる。だけど、つかみどころはない。


中野:私の著作を読んだり、出演したテレビを観たりしている人たちからは、「どういう人間なのかよくわからない」ってよく言われるね。それでいいんです。実像をわかられるのは好きじゃないし。昔は忌み名という考え方があったでしょう。本名、自分の存在を知られないようにするのがセキュリティ的に有利だという意識があったんですよね。だから引っ越しもしょっちゅうする。葛飾北斎は「画狂老人卍」とか名前を頻繁に変えたし、引っ越しも多かった。勝手に大先輩と思っています。「本当の自分」を本気で知ってもらいたいですか?


スー:それはメディアに出るようになってから?


中野:その前からずっと。自分の存在というか、本心のところはあまり知られたくないという気持ちが強いんだよね。強く意見を述べて誤解されるのは嫌だし、どうせ理解されっこないんだから、という気持ちがある。親に対してもそうですね。彼らが自分を理解することは有り得ないので、会うときは親向けの自分を作ります。ちなみに、メディアに出るときはかぶりものをしたり、エキセントリックな発言をわざわざしたりしていたのもその流れかなあ。マネジメント的には非常に売りにくいと思いますけど(笑)、親向けの顔、友達向けの顔、メディア向けの顔をすべて合致させる必要なんてないのではないかしら。


スー:場面場面でアタッチメントをつけ替える考え方には全面的に賛同します。


中野:コア、シャフトがあれば別にいいし、そのシャフトは人に見せる必要ってないですよね。見せることによるメリットは何もない。少女漫画の影響なのか「自分を理解してもらわないと結婚できない」と思い込んでいる女性が多い気がしますが、逆に相手から「本当の自分」のような重いものを見せられて受け入れられるかな? 私は嫌だなあ。家にそんな重たい存在はいてほしくない。自分ってそもそもモザイクであり、幻想ですから。


撮影/藤岡雅樹


 

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