名優・加藤剛を唯一のエロス映画「忍ぶ川」を見て偲ぶ

7月16日(月)17時30分 まいじつ


作品目『忍ぶ川』


東宝/1972年(DVD発売中)

監督/熊井啓

出演/加藤剛、栗原小巻、井川比佐志、山口果林、信欣三ほか


映画『砂の器』(1974年)やテレビの『大岡越前』シリーズで知られた俳優の加藤剛が、6月18日に胆嚢(たんのう)がんで死去していたことが、7月上旬に報じられた。享年80。役者としても、私生活でも、とにかく真面目でイメージを裏切らなかった人だった、ともっぱらだ。


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ボクが最初に彼を覚えたのは、子供のころ、夢中で見ていたテレビ時代劇『三匹の侍』で丹波哲郎の後釜として、平幹二郎、長門勇とともにトリオを組んで登場したときだ。その真面目過ぎるキャラが、逆に子供心に多少の違和感も覚えたっけ。事実、私生活でもゴシップとは無縁な人で、映画の中でもエロチックとは縁遠かった。唯一と言ってもいいのが、巨匠・熊井啓監督によるこの名作だろう。


東京下町の料亭『忍ぶ川』で看板娘・志乃(栗原小巻)と出会った哲郎(加藤剛)は、彼女に惹かれ、足しげく通うようになる。お互いに過去を語り、やがて将来を誓い合う仲になり、哲郎の郷里である雪深い東北へと志乃は嫁いでゆく…。



「雪国ではね、寝るとき、なんにも着ないんだよ」


やはり注目は、初夜を迎える部屋のシーン。2つ並べてある蒲団。襖を開けて入ってくる加藤が羽織を脱ぎながら『雪国ではね、寝るとき、なんにも着ないんだよ。生まれたときのまんまで寝るんだ。その方が寝巻きなんか着るよりずっと暖かいんだよ』と名台詞を口にする。『…あたしも、着ちゃ、いけません?』『ああ、いけないさ。もう雪国の人なんだから』というやり取り自体がエロい。鼻にかかったような小巻の声が艶っぽい。小巻を大胆にリードする加藤が頼もしい。全裸で加藤に身を寄せる小巻がいじらしい。嗚呼、にっぽんの女、という感じで、今見ると貴重かもしれない。遠くから聞こえる馬ゾリの鈴の音が効果的だ。当時、サユリストならぬコマキストが続出、というぐらい彼女の男性人気は凄かった。


その吉永小百合に当初この作品のオファーが来たが、濡れ場を嫌って断った、ともいわれている。ポスターにもなった小巻の乳房に加藤の胸が合わさる“絵”が評判を呼んだが、画面の中では微妙に小巻のバストは全開ならず、叙情性を出すため、すでに珍しくなっていたモノクロ画面を採用し、情感たっぷりに仕上げられている。


ちなみに、この1972年はにっかつロマンポルノの勃興期であり、アケスケで大胆なエロチシズムが謳歌される中、対照的なこの作品の“上品なエロス”は良識派の評論家から絶賛され、キネ旬ベストワンにも輝いたが、ボクは、加藤剛のぼぼ唯一のエロス作(?)として、偲びたい。ロマンポルノも、『忍ぶ川』も、どちらもイイ。


(映画評論家・秋本鉄次)


まいじつ

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