増加する高齢者犯罪は介護疲れが動機の場合も多い

7月16日(土)16時0分 NEWSポストセブン

 警察庁の発表によると、高齢者の犯罪者数は近年増加の一途を辿り、高齢者人口の増加の勢いを上回っているとされている。また高齢者による殺人事件で介護疲れを動機に上げる人も多い。介護問題に詳しい健康社会学者の河合薫さんが、介護疲れの原因について説明する。


「ストレスにはシトシト降り続ける雨のような慢性的ストレスと、ゲリラ豪雨のような突発的ストレスの2種類があり、どちらも傘をさして心を守る必要があります。ところが人間は適応能力があるので、シトシト雨にダメージを受けながらも慣れる。日常的な介護はシトシト雨です。心が疲弊しても気がつかない。


 そこに何らかの問題が起こりゲリラ豪雨がくると一気に心の許容限度を超えて、“もういっか”という気持ちになる。踏ん張っていた気持ちが切れて、殺人にいたるケースもあるのです」


 またワークライフバランスの崩壊が、介護者の逃げ場を絶つこともある。


「生活を充実させて仕事をがんばることも大事ですが、生活が介護でつらくなってしまっても、仕事があればそこでやりがいや生きがいを見つけられるし、職場が介護の息抜きにもなります。介護と仕事を両立できるように、会社もすべきです。家にしか居場所がない状況は避けるべきです」(河合さん)


 介護に疲れた娘と高齢の父が、痴呆症とパーキンソン病を患う母を連れて入水自殺を図った、「利根川心中事件」もそうした悲劇の一つだった。


 事件が起きた埼玉県深谷市では、自治会、民生委員など地域住民たちが連携して『地域支え合いマップ』を作成し、見守りをしていた。マップは“65才以上の単身者”“75才以上の高齢者のみの世帯”など色分けされて優先順位がつけられていたが、今回のように、子供と同居している3人家族の場合、“見守り”からこぼれてしまうことがわかった。深谷市役所の担当者が言う。


「特にまじめで責任感が強いようなかたは、困ったときにSOSを出すのが難しい。“まだ大丈夫”、“まだお世話になりたくない”というかたが結構いらっしゃいます」(福祉政策部)


 また生活保護についても問題は山積みだ。不正受給が指摘される一方で、本当に困っている人が手を伸ばせない状況がある。



 利根川心中事件においても、受給のための面談が自殺を早める一因となった。公的扶助論が専門の中部学院大学教授の柴田純一さんが言う。


「生活保護の面接では、決定に必要な調書作成のために、生活に行き詰まった経緯を詳細に伺います。成育歴や職歴、家族歴など、“何のために?”と思うことまで聞く場合があり、申請者の精神的負担は大きい。担当者はそれが受給資格につながることを説明し、何より“こんなみじめな思いをするなんて”と申請者が傷つかないように寄り添う姿勢が求められます」


 市の担当者によれば娘と両親は面談時、手元に8万円の現金があった。申請して手続きは進んでいたが、明日食べるものがないという火急の事態ではなかったため、今回の申請にはひとり心を痛めていたのかもしれない。


 生活保護受給は恥ではない。人間が人間らしく生きていくために、国から保障されている権利なのだ。大声で「SOS」を出すことで、今そこにある悲劇から逃れることができるなら、ぜひそうしてほしい。


 一方で、「老後破産」という新たな問題が最近深刻化している。介護サービスを利用する金銭的余裕すらなく介護を続けていれば、いつ生活が回らなくなってもおかしくない。


「高所得者は介護保険適用外の高額のサービスを受けることができるので、介護離職する可能性は低いです。でも低所得者は介護と仕事を両立するしかありません。何とか持ちこたえていた家庭が、ある日突然破綻しても不思議ではありません」(河合さん)


 こうした問題の背景には、日本と海外の社会保障制度の違いがある。河合さんが言う。


「北欧は、税金が高い代わりに政府が面倒を見てくれる政府型で、米国は民間のサポートを受ける民間型。日本は家族が介護を担う家族型です。一度は北欧型に移行して社会保障政策を充実させようとしましたが、うまくいかず、安倍政権は三世代同居政策を推進しています。ですが、この政策は結局のところ介護を家族に押し付けることになる。人に相談できずに孤立してしまうケースが増えるかもしれません」


 近頃、介護現場の待遇改善が叫ばれている。しかし今、私たちが考えるべきは、政府が推し進めようとしている家族型への回帰でいいのか、ということ。


 そして繰り返すが、まずはひとりひとりが、置かれている状況を鑑みて、必要な助けを知り、求めること。二度とこの悲劇を繰り返さないために…。


※女性セブン2016年7月28日号

NEWSポストセブン

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