日本ハム・上沢直之、苦しんだ末にたどりついた目標は「笑顔」

7月17日(火)11時0分 文春オンライン

 この頃、私が思うのは「笑う」姿が見られることの喜びと、この笑顔を作ることが出来るまでの努力と時間の流れの尊さ。


 今シーズンの開幕直前。ファイターズファンはそれぞれに開幕投手が誰になるのか自分なりの予想をしていました。というのは、有力と言われていた有原投手がキャンプ中にケガをしたこともあり、チームからは特別な発表がなかったからです。


 私はというと、早い段階から上沢投手で間違いないと思っていました。理由は簡単。今季、ファイターズは北海道のチームになって15年目。その記念の年に背番号が「63」から「15」に変更になったのが上沢投手。これを縁付けなくてどうしましょう。例えこの事を抜きにしたとしても、上沢投手のキャンプからの今年のコンディションの上げ方は素晴らしく、しっかりと合わせて来ていると感じていたのです。


 私は予想しました、そうか、これはきっとそう。3月15日15時に発表なんですね、栗山監督。だって今までそうですから。3年前には背番号にちなんでキャンプ中の11時11分に大谷選手の開幕投手を発表しましたし、去年も背番号にちなんで(3月)16日に有原投手と発表しましたもんね!


 ……してたじゃないですか……監督……。


 結局、その日は何も起きることはなく、私の予想は見事外れ、今年のファイターズの開幕投手は新外国人投手のロドリゲス投手だったことは皆さんご存知の通りです。ですが、ここまでの上沢投手の活躍も皆さんご存知の通り。勝ち星は巡り合わせがものを言うこともある、開幕カードで投げなかったからこその巡り合わせかもしれません、前半戦だけで自己最多タイの8勝目をあげていて、目標の二桁勝利はすぐそこです。



前半戦だけで自己最多タイの8勝目をマークしている上沢直之 ©文藝春秋


試合中にも感情豊かになったきっかけ


 とても表情豊かな選手です。取材やインタビューの場もそうですが、試合中のマウンドでもポーカーフェイスとは真逆のところにいるのが上沢投手。思ったように球がいけば笑顔も出るし、うまくいかない時にはシマッタという顔もする、打たれた時は思いきり悔しがり、喜びのガッツポーズに至っては今やいくつものパターンがあります。


 この上沢投手の姿にもうすっかり慣れた私たちですが、こんな風に試合中にも感情豊かになったのは間違いなく、昨シーズンからです。この姿に行き着くまでに彼には一度、野球の面ではまったくと言っていいほど笑うことの出来ない大きく沈んだシーズンがありました。


 2011年のドラフト6位、専大松戸高校から入団。高卒同期には、松本剛選手、近藤健介選手、現ジャイアンツの石川慎吾選手がいます。最初の2年はチームがファームでじっくりと育成。満を持して3年目で1軍先発デビューするといきなり8勝をマーク。このままブレークかと期待されましたが、翌年から右ひじの痛みに悩み、オフに人生初の手術を決断します。


 ほぼリハビリにあてた2016年シーズンは……そうです、ファイターズが10年ぶりに日本一になったあの年。野球そのものが出来ない毎日は、つらいし、苦しい。術後の肘の痛みがなくなってきてやっと投げられるようになっても、調子が上がらない。もう治っているはずなのに、自分の思うように投げられないのはどうしてなのか。練習も嫌になる。朝が来てまず思うのは「ああ、また野球が始まる」。自分の所属するチームが日本一になったこともニュースで知り、自分がいなくても優勝したのなら自分の居場所はもうないんじゃないかとまで思いつめる。上沢投手にとって野球人生の中で一番苦しい時が、ファイターズファンが沸いたあの年だったのです。



苦しいときに気付いた「楽しむこと、笑うこと」


 この話を聞いた時の彼も感情は隠しませんでした。すっと声のトーンは低くなり真顔で時には途切れがちに話すのを見ていたら、本当につらい日々だったんだろうと想像の範疇を超えてしまって、聞いている私が次の言葉を失いました。そしてそんな彼が落ちるところまで落ちて気づいたことはとてもシンプルなことだったそうです。


「楽しむこと、笑うこと」


 嫌々やっているものに結果は伴わない、努力のその先には笑える場所がある。何より野球を楽しめなくなっているのが一番良くなかったんじゃないか。朝起きて、「よし! 今日も頑張ろう」と思うことだけで何かが変わっていく。この意識の変化が試合中の表情やガッツポーズに自然と表れてチームメイトに伝わることもたくさんあったんだと思います。シーズン前に今年の自分を漢字一文字にしてくださいとお願いした時も、迷わずに「笑」と書いてくれました。



緊張でがっちがちのオールスター登板


 その上沢投手がオールスターに出場しました。プロ野球選手でも限られた人しか上がれない夢の舞台・オールスターゲーム。上沢投手は高卒7年目で監督推薦で初出場です。私はこの日はオフで自宅でラジオとテレビの二刀流。上沢投手がコールされた瞬間は泣いてしまうかもなと自分を想像していました。あんなに苦労した選手がこんなにキラキラしたところに登場するんです。普段から涙もろい私が泣かないわけ……さぁ、その時は来ました、ラジオからのコールを聞き、すぐさまテレビ画面を見た瞬間に……私の顔は止まりました。


 当の上沢投手が緊張で、がっちがちなのです。もう心配で心配でこちらは泣いてる暇などないのです。上沢投手は4番手として6回7回の2回を26球でみごと0点に封じました。投げるごとに左腕で顔の汗を抑え、ベンチに戻ってくる時もいつもの笑顔はなく、投げ終わりでチームから発表されたコメントも案の定、「緊張しました。今シーズン一番緊張したマウンドでした」のフレーズから始まっていました。お祭りムードの中でとてもとても印象に残る登場シーンでした。


 早くいつものマウンドに戻ってきていつも通りの姿をみせてほしい。厳しい後半戦が待っています。上沢投手は、自身が入団してからチームは2度優勝していますが、ビールかけも優勝旅行もどちらも経験していません。言ってみれば彼はまだ優勝していません。自分が戦力の輪の中にいて優勝に突き進む上沢投手にとって初めてのシーズンなのです。オールスターでは泣くことはなかったけど、この先の優勝した瞬間に上沢投手がどんな笑顔なのかを想像すると、いとも簡単に私は泣けてくるのです。


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(斉藤 こずゑ)

文春オンライン

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