【インタビュー】鈴木敏夫が明かす、スタジオジブリが短編を制作する理由

2019年7月17日(水)18時0分 シネマカフェ

鈴木敏夫プロデューサー

写真を拡大

1992年から2016年まで、スタジオジブリが手掛けたプロモーションフィルムやミュージッククリップ、企業 CM、WEBアニメーションほか数多くの貴重な映像が収録された短編作品集『ジブリがいっぱい SPECIAL ショートショート 1992-2016』が7月17日(水)よりリリースされる。作品を描くのは、宮崎駿をはじめ、百瀬義行、稲村武志、田辺修らスタジオジブリを支える監督・アニメーターたちだ。

いまの日本アニメーション界を牽引し、多彩な作品を世に送り出す彼らの技やこだわりが“ギュッ”と凝縮された短編の数々は、長編作品とはまた違った見どころが満載! ジブリの短編はいかにして誕生したのか? 制作の裏側をスタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫が語った。

スタジオジブリが短編を制作する理由とは? 制作時のポイントは“好きなように作る”
1985年に株式会社スタジオジブリが誕生して以降、『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』とアニメーション映画制作を主としてきたスタジオジブリ。初めて短編作品を手掛けたのは、1992年、日本テレビ開局40年記念スポットとして放映された短編作品「そらいろのたね」だ。その後、CHAGE&ASKAの楽曲「On Your Mark」のプロモーションフィルムや「金曜ロードショー」のオープニング映像を経て、『千と千尋の神隠し』が公開された2001年頃から、スタジオジブリでは幅広く企業CM映像なども制作するようになる。その流れにはどういった心境の変化があったのか?


「映画を作るときは、現場のスタッフもさることながら、企業の方やその他いろんな方のご協力を得ているんです。ある時、そういう方たちから『CMを作ってくれないか』と頼まれまして。断りにくいですよね(笑)。とは言いつつも、断ってきたんですよ。でも次第に断り切れないという状況が出てきた…というのが一つ。あと、ジブリにもいろんなアニメーターがいて、腕があって優秀ではあるんだけど、社員でありながらなかなか仕事をやってくれない人たちがいるんですよ。その方たちに“ジブリにいる言い訳”を作る絶好の機会かな、と。つまり、『CM制作で稼いでいるから会社に貢献している』と周りに言い訳できるじゃないですか」。

「もう一つ考えたのは、若い人たちの勉強の機会として捉えよう、と。それでCMをやろうか、という動きになったのが実情ですね。日頃、やってみたいと思っていてもできなかった企画をやることができて面白かったし、CM(ショートショート)は意味があったかなと思っています」。

アニメーションとしての面白さを追求しつつも、企業CMであれば企業側の要望とのバランスを取る必要がありそうだが、「それは簡単ですよ」と鈴木さんは答えた。


「最初から制作の条件に入れるんです、“好きなように作る”って。『注文に応じるのが苦手なので』って丁寧に謝るんですよ(笑)。企画会議なんて絶対やらないんですよね。まずは好きなようにやらせてもらってダメだったらやめましょうって。態度でかいですよね(笑)。だからこちらで出したアイディアで色々ボツになったものとかありますよ。僕らとしては良いと思ったものが、ご理解いただけないこともありました(笑)」。

短編制作ならではの“実験精神”が新たな映像表現の追求を可能にする
これまでプロデューサーとして長編を手がけてきた鈴木さん。いざ短編のプロデュースをやってみてわかったことがあるという。

「作品を作るとき、まずキャラクターを作らないといけないでしょ。状況設定によって大道具や小道具も決めないといけない。音楽も作る、声も入れる…15秒の作品でも2時間の作品でも、やらなきゃいけないことは一緒なんですよ。“これ効率悪いな!”と思ったことがあるんですよね(笑)。“短いから早くできるだろ”なんて嘘ですよ。やらなきゃいけないこと同じなんだもの(笑)」。

だからこそ短編制作をやる理由は、アニメーターの“やってみたい”を実現するための実験的要素が強いという。


「ジブリでやっちゃいけないことって公序良俗に反するってことでしょ。でも作品って公序良俗に反したほうが面白いんですよね。そこが難しいですよね。多くの人に観てもらわないといけない。そうすると収まるところに収まる」。

「僕らの作品ってお金も時間もかかる。そうすると回収が大変でしょ。とがった作品を作るのは非常に難しいんですよね。そういうところでいうと、短編は“実験精神”でちょっととがったことに挑戦することができる。そういう違いはあるんじゃないですかね」。

実際、百瀬ヨシユキ(義行)と中田ヤスタカのコラボレート・アニメーションとして制作された、capsuleの楽曲「ポータブル空港」のミュージッククリップでは“実験精神”が大いに活かされたようだ。

「当時、お付き合いのあったYAMAHAさんの所属だった中田くんのプロモーションビデオをジブリで作れないだろうかという話が来たんですよ。ちょうどその頃、手書きだったアニメーションにCGというのが始まったんですよ。百瀬さんという方は早くから、CGで作ったアニメ作品に関わっている人なんですよね。中田くんの音楽を考えると、ジブリでCGを実験するいい機会かなと思ったんです。それで引き受けた記憶がありますね」。

「結果としてジブリと肌合いが違う作品が出来上がるというのは、最初から覚悟していました。そこでやったことが未来を切り開けばいいな、と考えていたんです。そういうところで思考実験をやっていますね。なかなかそういう練習ってできないんですよ」。

さらに鈴木さんは短編制作において自身の想いをこう語った。「そもそもアニメーションの究極って何か? というと、四角や三角のものを動かすとか、そういうシンプルなこと。モノに命を吹き込んで動く楽しさって、ものすごく単純なものになってくるんですよね。分かりやすいモノを動かして楽しかったら素敵でしょ。多分子どもが一番喜ぶと思うんです。だから本当は、ショートショートでそういうことをやりたい。凝りすぎたものを作ってもしょうがないんじゃないかって、僕はどこかで思っているんですよね」。

鈴木敏夫とアニメーターたちの関係——「アニメーターは“役者”」
本作には、宮崎駿をはじめ、近藤喜文、百瀬義行、稲村武志、田辺修、橋本晋治、大塚伸治、近藤勝也、宮崎吾朗とトップクリエイターが集結している。鈴木敏夫プロデューサーが思う「優秀なアニメーターの条件」とは?

「アニメーターって、実写の世界で言うと“役者さん”なんですよね。ごはん食べるとか歩くとかいろんな動きが的確というか。例えば近藤喜文という人は、リアルな芝居が上手なんです。『となりのトトロ』には4歳の女の子が出てくるじゃないですか。実際にその年齢の子どもって、歩くときに真っすぐ立って歩く子はいない。前のめりか、後ろのめりで歩くんです。宮崎駿は漫画のアニメーションが基本だから、あまりそういう描写をやってこなかったんですよ。ところが近藤喜文はそれができるアニメーターだった」と明かす。「要するに“芝居ができる”人。日ごろいろんな人の行動を観察して、観察したものを作品の中に活かす。そういうことができる人が優秀だと思いますね」。


確かに、“アニメーションの動き=芝居が魅力的なキャラクター”にはどこか惹きつけられる。そんなキャラクターの数々は、鈴木さんのイラストが元になっていることが多い。本作品集収録作品の中では、日清製粉グループ企業CMの猫キャラクター「コニャラ」や、スタジオジブリにプロデューサー見習いとして参加するドワンゴの川上量生をモデルにしたキャラクターの顔、伊藤園WEBアニメーション「となりのおにぎり君」に登場するキャラクターたちも鈴木さん自身が描いた。

「僕の絵はいたずら書きで、それを立派にしてくれるのがアニメーターなんです。やっぱりキャラクターを描くよりも芝居(動き)を重視しているんですよ。そこに基点を置くから、キャラクターは誰かが描いてくれた方が良いという人が多いんですよね。上手な人ほどそうです」。

鈴木さんの味のある“いたずら書き”が、芝居上手なアニメーターたちの手によってより魅力的なキャラクターに仕上げられ、登場人物たちの動きから目が離せなくなるようなチャーミングさと、ワクワク感を兼ね備えた短編ができ上がっているようだ。「もともとは新人研修に役に立つかなと思ったんだけど、短いものは世間の目が厳しい。やっぱり上手な人に頼まなければならなくなる。若い人に作ってもらったこともあったんですけど、やっぱり見栄えがしないんですよね。結果として腕扱きのアニメーターが制作を担当しました」。


様々な制約がある長編制作と違い、短編では短ければ短いほど、とことん制作できる環境が用意できるという。“優秀なアニメーターたちが、とことんまで突き詰めて表現した短編”…それが一挙に堪能できる本作は、真に贅沢な作りだと言えるだろう。

「凄腕のアニメーターが“とことんやる”仕事」っぷりを、本作から感じてほしい。

発売情報:「ジブリがいっぱいSPECIALショートショート 1992-2016」
2019年7月17日(水) 発売 ブルーレイ:4,700円+税、DVD:3,800円+税
(C)2019 Studio Ghibli

シネマカフェ

「スタジオジブリ」をもっと詳しく

「スタジオジブリ」のニュース

「スタジオジブリ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ