「連勝できたのは僥倖としか言いようがない」藤井聡太17歳の豊富すぎるボキャブラリー

7月19日(金)9時30分 文春オンライン

 2016年10月に史上最年少の14歳2ヵ月でプロデビューした将棋棋士の藤井聡太七段が7月19日、四段昇段してから3回目の誕生日を迎える。学生服で対局していたデビューしたてのころが懐かしい。


 当時から、盤上で見せる妙技だけでなく、豊富な語彙で大人たちをうならせてきた。それらをいくつか紹介しよう。


「望外の結果」による連勝


 藤井が登場する前まで、新四段のデビューからの連勝記録は10だった。それを藤井が更新したのが、2017年4月4日に行われた第67期王将戦一次予選、対小林裕士七段戦だ。実力者の小林の攻めにあって苦戦していたが、逆転勝ち。



最年少デビューから連勝を重ね、決して話題先行ではないことを結果で示した ©文藝春秋


 デビューから11連勝の新記録を達成。また、局後のインタビューで「自分の実力からすれば望外の結果」と述べ、各紙が取り上げた。「望んでいた以上である」という意味の「望外」という言葉は、当時話題になり、将棋ファン以外にも藤井が注目されるようになった。そうした意味で、藤井語録の中で最初にインパクトを与えた言葉といえるだろう。


 実はこの言葉自体は、将棋界では「望外の戦果を挙げた」などとよく使われている。


 藤井自身も、この直前や前年の詰将棋解答選手権チャンピオン戦で優勝したときに「全問正解ではなかったので、優勝は望外な結果でした」などとコメントしている。


第13回詰将棋解答選手権チャンピオン戦

https://blog.goo.ne.jp/shogi-problem/e/b9b07f5c191bf50414a4d031d2997237


第14回詰将棋解答選手権チャンピオン戦

https://blog.goo.ne.jp/shogi-problem/e/a7461a4fa51017548a37dae76e51c28d


絶体絶命の状況から「僥倖」の大逆転


 藤井の連勝が29まで続いたのはご存じの通り。それらの対局の中でもっとも危なかったのは、20連勝目がかかった2017年6月2日の第43期棋王戦予選、対澤田真吾六段戦だろう。


 藤井にとって初めて千日手(引き分け)となり、迎えた指し直し局では、終盤で受けのない絶体絶命の状況に追い詰められた。そこから藤井が王手攻撃。桂の王手の捨て駒で迫り、澤田に取るか逃げるかの2択を迫る。ここで持ち時間のない澤田がミス。受けがないはずの藤井の玉が助かってしまった。大逆転で藤井が勝って連勝記録を伸ばした。


 そのときに「連勝できたのは僥倖としか言いようがない」とコメントした。「僥倖」は「思いがけない幸運」という意味。日常的に使うことは少ない言葉だ。



 ちなみに「僥倖」も将棋界では時折使われてきた。中原誠十六世名人が史上3人目の三冠となった際の「続く第七局でも勝てて、名人位を獲得できたのは僥倖であり、天運に恵まれた為と思っている」という発言を相崎修司氏が「 豊島将之名人が史上9人目の快挙! 将棋界『三冠王』の歴史を言葉でふりかえる 」にて紹介している。



 また、将棋界で知られているのは、1936年の木村義雄八段と萩原淳八段による対局(肩書はいずれも当時のもの)。第1期名人を争うリーグの大きな対局だった。


 必勝だった木村が、萩原のかけた王手の受け方を誤り、詰まないはずの玉を詰まされてしまった。それに気づいた木村は血相を変えて「君は詰まぬと知っていながら僥倖を頼んで指したんだな」と声を上げたといわれている。


 藤井の系譜をたどっていくと、藤井→杉本昌隆八段→板谷進九段→板谷四郎九段→木村義雄十四世名人となる。藤井は木村十四世名人の玄孫弟子というわけだ。将棋界での由緒ある言葉を、大きな一番のインタビューで使ったのも何かの縁かもしれない。


「来年は先手がほしい」とジョークも


 藤井は毎局、対局が終わったあとにインタビューを受けているためか、受け答えにユーモアを交えることも増えてきた。


 一般的に将棋は、先に指す先手番がやや有利といわれている。実際、公式戦の成績を見ても、先手勝率のほうが少し高い。今年の1月から2月に行われた第12回朝日杯将棋オープン戦の本戦トーナメントで藤井は、4局とも後手番になってしまった。それにもかかわらず、強敵をなぎ倒して昨年に続いて優勝。棋戦最年少連覇記録を更新した。



 そのときのインタビューで「今年は本戦ですべて後手番だったので、来年は少しは先手番が欲しい」と述べて、会場が爆笑の渦に包まれた。


統計学の言葉をスッと出す語彙の豊富さ


 公式戦29連勝を果たす直前に行われたインタビューで藤井は「連勝には特にこだわりはありません。今は勝敗が偏っている時期で、いずれ『平均への回帰』が起こるのではないかと思っています」と述べた。


「平均への回帰」とは、1回目の結果で偏った値が出た事象において、同じ内容での2回目の結果は、1回目全体の平均値に近くなるという現象のことだ。統計学の言葉をスッと出す語彙の豊富さに驚かされる。



 29連勝をもう1回するのは至難の業だが、それでも通算で150局以上指して、勝率は8割5分を超える非常に高い成績を残している。上位陣との対戦が中心になったときが勝負どころだろう。



 先に第12回朝日杯で後手番が4局続いたと書いた。先後を決める振り駒は、球技のコイントスのようなもの。先手番が5割程度になるのが普通だ。


 ところが、2018年度の藤井は、振り駒を行った対局の42局中で先手番になったのはわずか12局(28.6%)。極端な結果が出ていたのだ。2019年度は、これまでのところ振り駒で先手8局、後手7局。振り駒の結果は平均的になってきたようだ。



「来年は、今の自分に65%勝てる強さを目指します」


 タイトル挑戦の最年少記録は、屋敷伸之九段の17歳10ヵ月。タイトル獲得の最年少記録もやはり屋敷九段の18歳6ヵ月。それらの更新ができるか注目されているが、藤井のコメントを読むと、本人は記録に拘泥した様子はない。


 将棋世界2018年7月号のインタビューでは「(タイトルの最年少獲得記録について)意識はしていないです。その時までにタイトルを取り得る実力になっているかどうか、ということは大事だと思いますけど……」と述べている。


 藤井がよく述べているのは、記録についてではなく、棋力を向上させることだ。将棋世界2019年2月号のインタビューで「自分としては、記録のことよりも、強くなれる時期がどれくらいあるのかという部分を意識しています」と話している。



 また、昨年末、関西将棋会館のTwitterアカウント( @shogi_osaka )の企画で、藤井は2019年の目標を「来年は、今の自分に65%勝てる強さを目指します」と記している。



 強くなる中で、結果がついてくればいいと考えているようだ。2019年新春用に行われた各媒体のインタビューの場で、藤井は「進歩」と色紙に揮毫した。色紙の右上に押す関防印は「果てがないこと。限りのないこと」を意味する「無極」。


 将棋という果てのない世界で、17歳となる藤井が、どのように進んでいくだろうか。この少年棋士の活躍からまだまだ目が離せない。



(君島 俊介)

文春オンライン

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