立川談幸 「寄席の高座」に復帰した談志唯一の内弟子

7月19日(木)16時0分 NEWSポストセブン

立川談幸の魅力は?

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 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、大学卒業とともに立川談志の内弟子となり、一門とともに落語協会を脱退、2015年からは落語芸術協会に加わった立川談幸(たてかわ だんこう)について解説する。


 * * *

 3年半前、立川流に「事件」が起きた。2014年末の理事会で立川談幸の脱会が承認され、翌2015年1月に談幸は落語芸術協会に移籍したのだ。2014年に還暦を迎えた談幸は、師匠談志の死から3年経って一区切りというタイミングでもあったことから、「寄席の高座に上がりたい」という理由で芸協入りを決めたのだった。


 談幸と言えば一門で唯一内弟子修業を経験、談志の覚えもめでたく「完璧な前座」と言われた男。それだけに当時このニュースは驚きをもって受け止められたが、今では談幸が芸協の寄席に出るのも当たり前の光景となった。昨年7月には浅草演芸ホールで初のトリも務めている。


 5月23日、横浜市神奈川区民文化センターかなっくホールで、その談幸の独演会を観た。


 1席目は『死神』。ラスト、蝋燭の部屋の場面では、寿命が尽きようとしている主人公の男が、拾った燃えさしに火を移すことに成功。死神に「捨てた女房子供とヨリを戻すか」と訊かれた男が「冗談じゃない、千両あるんだ、若い女を囲って面白おかしく暮らすよ」と答えると、死神は「所詮お前はそういう人間か。お前のせいで俺は死神を辞めさせられて火伏せの神に回された。初仕事の相手がお前になるとはなぁ……火の用心……」と言いながら蝋燭の炎を吹き消し、そのまま男が倒れるという独特な見立てオチ。


 2席目は腰元彫り(刀剣付属物の彫金)の名人譚『横谷ミン貞』。古今亭志ん生・志ん朝親子が『宗ミンの滝』として演じた講釈ネタだ。


 修業不足で師匠の横谷宗ミンから勘当された宗三郎が、旅先で紀州公の注文により刀の鍔に滝を彫る。驕った心で酒を飲みながら彫った品は、出来が良さそうでも受け取ってもらえず、心を入れ替え滝に打たれて一心不乱に修業に励み、飲まず食わずで彫り上げた滝は、一見拙い仕上がりだが紀州公を満足させ、お抱えの身となり勘当も解ける。志ん生・志ん朝の『宗ミンの滝』では宗三郎は師匠の名跡を継いで二代目宗ミンとなるが、談幸は講談そのままに「宗三郎は横谷ミン貞と名を改め、永く紀州にその名を遺した」とした。


 なぜ紀州公が拙い仕上がりの品に満足したかというと、「手に取った鍔の滝から水が滲んだから」だった。この奇跡を「謎解き」として語ったのは志ん朝の工夫。談幸もそれを踏襲して鮮やかに結んだ。


 二ツ目まで落語協会で寄席の世界を経験し、その後長らく寄席の外で立川流ファンを相手にしてきた談幸ならではの、「親しみやすくてコクがある」大ネタ2席だった。


●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。


※週刊ポスト2018年7月20・27日号

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