「カープ緒方監督会見!?」騒動から考える“名将”の条件

7月20日(土)11時0分 文春オンライン

 7月10日。広島のあるテレビ局の情報番組がTwitterに書いた一言が、カープファンの間に瞬く間に広がって騒然となった。その一言とは「カープ緒方監督会見!?」。折悪しくその時はカープ10連敗の真っただ中であり、「すわ辞任会見か」と大騒ぎになったのである。ほどなくしてそれはただ単に毎年恒例で行われるオールスター前の前半戦総括会見であることが判明し、ファンは胸をなで下ろした。ここから得られる教訓としては、文末に「!?」を付ける時には気を付けよう、というくらいの話である。


 ところがこの会見の真相が明らかになるまでの間、さまざまな憶測や意見が飛び交い、緒方孝市監督に対する批判をぶつける投稿も多く見られた。その中には「緒方監督は名将ではない」という主旨の意見もあった。


「名将」とは一体何なのだろうか


 名将か名将でないかで言うならば、緒方監督は名将だと思う。ここしばらくの負けが込んでいるとはいえ、過去4年間で3度のリーグ優勝を果たした監督が名将でなくて何なのだろうか。通算成績で見れば、368勝278敗、勝率.569、リーグ優勝3回(7月19日現在)。現役監督には驚異的な勝率.616を誇る工藤公康(ソフトバンク)や日本一3回の原辰徳(巨人)などもいるが、緒方監督の成績は歴代の名将と並んでも遜色はない筈である。しかし「名将ではない」という人たちが批判するのは、どうやら数字上のことではないようなのだ。そこでふと思う。「名将」とは一体何なのだろうか。


 工藤健策『名将たちはなぜ失敗したか』(草思社・2003)には、凡庸な監督の特徴として「1.ローテーションを守らない。2.打線が固定しない。3.『愛のムチ』が好きだ。4.選手を育てない。5.好き嫌いが激しい。6.捕手を代える。7.負けると、ミーティングをする」が挙げられている。これはあくまで一つの見方であろうが、緒方監督は「凡庸な監督」には当てはまらないのではないだろうか。昨年までのリーグ3連覇は「タナキクマル」すなわち田中広輔・菊池涼介・丸佳浩の1〜3番固定、そして鈴木誠也の4番固定、中﨑翔太の9回固定という「固定」によりもたらされたものである。しかしその「固定」がうまく機能しないとなると、とたんにそれは「頑固」という評価に変わる。緒方監督は、たとえ不調に陥った選手であっても我慢して使い続けることが多いが、それも「頑固」という評価に拍車をかけているのかも知れない。


 その「融通のきかなさ」は、「短期決戦に弱い」という結果に繋げて見られてしまう。すなわち、カープが3連覇を果たしながら一度も日本一になれなかったことに不満を覚える人もいる。しかし過去を遡ってみれば、8度のリーグ優勝を果たしながら一度も日本一になれなかった西本幸雄監督(大毎・阪急・近鉄)などの例もあるし、それで西本監督が「名将」でなかったかと言われればそうではないだろう。「リーグ優勝はするが短期決戦に弱い」監督と「短期決戦には強いがリーグ戦では優勝できない」監督とどちらかを選べ、と言われたら多くの人は前者を選ぶのではないだろうか。



カープの歴代名将 ©オギリマサホ



土台をただ引き継いだだけでは勝つことができない


 一方、前掲書には「名将の条件」として次の6項目が挙げられている。「1.野球ファン、スポーツファンに好かれる性格であること。2.奥さんの性格・行動には十分留意し、管理できること。3.口がうまいこと。4.勝つこと。5.参謀・コーチに人を得ること。6.球団フロントに人材がいること」。緒方監督の妻・かな子さんはタレントとして広島のテレビに出演するなど好感度が高いし、そもそも勝っているし、十分に名将の条件を備えているようにも見える。しかしその「勝ち方」が取り沙汰されることもある。


 リーグ3連覇を支えた主な勝ち方は「逆転のカープ」と表現されるような逆転勝ちであった。2016年には89勝中45回、17年には88勝中41回、18年には82勝中41回が逆転勝ちという驚異的な数字を挙げた。しかしこれは「一歩間違えれば負けていたかもしれない」数字でもある。今シーズンの40勝のうち逆転勝ちは11回のみ(7月19日現在)。一方、先制されてそのまま負けた試合が30試合。すなわち「逆転できなかった」敗戦だ。逆転勝ちできない理由が打線の不調にあるとなると、「打線頼みで策を講じていない」と批判を受ける訳である。


 そもそもそのリーグ3連覇を支えた強力打線からして、前任の野村謙二郎監督が造り上げた土台を継承しただけではないか、と言う人もいる。野村監督は丸、菊池を将来のチームリーダーになる存在として抜擢し、鈴木誠也を育成し、長距離砲の必要性を訴えてエルドレッドを獲得した。3連覇を支えたのは確かに彼らの存在である。しかし緒方監督就任1年目の2015年、菊池、丸を含めた打撃陣はつながりを欠き、CS出場を賭けた最終戦で負けて4位に終わったことを考えれば、土台をただ引き継いだだけでは勝つことができないということもわかる。3連覇は、確かに緒方監督の功績なのである。


緒方監督を印象付ける言葉


 上記の名将の条件に緒方監督があてはまらない項目があるとすれば、「3.口がうまいこと」ではないだろうか。緒方監督は決して饒舌な方ではない。かつて名将と呼ばれた監督は、たとえば鶴岡一人監督(南海)の「グラウンドにはゼニが落ちている」だとか、野村克也監督(南海・ヤクルト・阪神・楽天)の「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」など、自らを印象付ける言葉を持っていた。今後緒方監督が「名将」と呼ばれるにあたっては、こうした「言葉」が必要なのかも知れない。


 緒方監督を印象付ける言葉を思い出してみると、「ホントニ」という言葉が浮かぶ。過去3年間の優勝時の監督インタビューにおいて、緒方監督は2016年に11回、17年に35回、18年に14回も「ホントニ」を用いた(参考までに、先日のオールスター第2戦の勝利監督インタビューでは9回)。特に回数の多かった17年の会見で、感極まった緒方監督は「……ホントニ選手たちをホントニ……(言葉に詰まる)……そう、(選手達の方を向いて)ホントニご苦労さん! お疲れさん! ホントニ、頼もしい奴らだホントニ!」と叫んだ。一つのセンテンスの中にこれだけ「ホントニ」を頻出させるのは、緒方監督の優勝インタビューと富士サファリパークのCMぐらいであろう。


 この「ホントニ」を我々が聞くことができるのは優勝監督インタビューの時ぐらいである。緒方監督が名将かそうでないかはさておき、この「ホントニ」が一回でも多く聞けることを願ってやまない。



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(オギリマ サホ)

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