K-POPのオーディション番組はなぜ視聴者を魅きつけるのか

7月21日(土)7時0分 NEWSポストセブン

オーディション番組を経てデビューしたTWICE(時事通信フォト)

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 韓国のテレビ番組といえば日本でも放送されるドラマを思い出す人が多いかもしれない。最近はK-POPグループのメンバーを選抜するオーディション番組がネットを通じて大変な人気だ。K-POP のガールズグループ(GG)のディープなウォッチャーでもあるライターのまつど☆たまき氏が、日本でも人気のTWICEメンバーを選抜した番組『SIXTEEN』を中心に、司会のパク・ジニョンJYP社長の思想を反映した過酷なオーディション番組の在り方についてやさしく解説します。


 * * *

 5月発売のBTS(防弾少年団)の最新アルバム『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』が全米ビルボード・アルバムチャートで初登場1位に輝いたのは、K-POP史上初の快挙となりました。今や、エンターテインメントの世界首都であるアメリカでも、K-POPアイドルの一糸乱れぬ超高度な集団ダンスと歌唱力はおどろきをもって迎えられているようです。


 K-POPスターを目指す少年少女の大半は、十代の初めから練習生として芸能事務所と契約し、何年間も徹底した技能訓練を施されます。その間は無給で、デビューできる確約もないまま、明日のスターを夢見て茨の道を歩むことを選びます。その厳しい弱肉強食の構図をそのままリアリティ番組として放送するのが近年の韓国では流行していますが、あまりの過酷さから「サバイバル番組」とも呼ばれています。


◆奇跡のサバイバル番組『SIXTEEN』


 現在日本でも大人気のガールズグループ「TWICE」のメンバーも、そのサバイバル番組『SIXTEEN』(Mnet 2014年5月放映開始)によって、16人の練習生から選抜されました。


 もともと同番組は、韓国3大芸能事務所の一角JYPからデビューする予定だった「6 MIX」というグループの、優秀なメンバーたちをなんとかサルベージするために企画されました。2014年4月に起きたセウォル号沈没事故による強い自粛ムードなどでデビュー予定がなくなってしまった彼女たちを、優秀な練習生のまま埋もれさせないためです。


(TWICEのネーミングの由来は、公式には「良い音楽で一度、素敵なパフォーマンスでもう一度感動をプレゼントする」だと言われていますが、一度はチャンスを失った彼女たちに、“二度目のチャンス”を与えようというこの企画の趣旨がこっそり埋め込められていたのではないかと、筆者は睨んでいます。)


 番組の司会を務めたのはJYPの社長兼現役アーティスト、パク・ジニョン氏。そのゴツゴツした容姿とは裏腹に、ジェントルでユーモアに溢れたギャップ萌えを誘うTVタレントとして親しまれており、大好物のお餅(トック)にちなんだあだ名「餅ゴリ(ラ)」のほうが有名な名物社長です。(TWICE『KNOCK KNOCK』のPVには、夜中に枕を抱えてナイトキャップ&パジャマ姿で女子寮のドアをノックする迷惑なオッサン役で登場しています。)


『SIXTEEN』では、参加メンバーが強制的に、合格予定者7名の「メジャー」と失格者9名の「マイナー」の2チームに振り分けられてすすみます。第一回ではスタッフ評価の結果として、練習生生活10年でTWICE現リーダーのジヒョが「マイナー」通告をうけておもわず落涙、同じく今ではTWICEリードボーカルのジョンヨンも「マイナー」からのスタートを強いられます。一方でJYP所属一年たらず、パク氏の記憶にもなかったミナ(TWICEではメインダンサー)がいきなり「メジャー」入りするなど、大波乱の幕開けとなりました。


 番組の過酷さはそれだけにとどまりません。チームのネーミングどおり、MLBの一軍と二軍のように番組収録時の移動バスや宿泊施設などにも差がつけられ、練習部屋の使用時間もメジャーは朝9時〜夜9時までの通常枠、マイナーはそれ以外の深夜を強いられる──プロフェッショナルとして「銭になる」者だけが好待遇を受けることができるという構図を浮き彫りにします。


 そして毎回、番組の終盤ではマイナーからメジャーに昇格を告げられたメンバーが、自分の代わりに誰がマイナーへ行くのかを指名する場面があります。このとき指名されたメンバーは、メジャー7名の特権を保証する「SIXTEEN」のペンダントを外して、昇格者に渡さねばなりません。


 ずっと一緒に練習を重ねてきた"同志"や"先輩""後輩"を自ら引きずり下ろして、そのイスに座る。そんな過酷な交代劇を冷徹にカメラは映し出します。凍った表情でお互いを見つめ合うメンバーのぎこちない姿は、毎回見ていて心が痛む光景でした。


 ネットでも番組視聴者の声として


「あんな待遇差別になにか意味があるのだろうか」

「若い女性に残酷なサバイバルはつらいと思う。練習時間、宿泊施設、罪人ではないのだから、機会は平等に」


といった意見が渦巻きました。


『SIXTEEN』はリアリティ番組ではありますがが、JYPの練習生が実際に、これほど過酷な環境の日常を生きているわけではありません。「リアリズム(現実そのもの)」の描写ではなく、テレビを見ている視聴者に出演者が感じている葛藤をわかりやすく表現した、「リアリティ(現実を感じさせる)」TVの表現手法なわけです。


 練習生たちも拙いなりに「表現者の卵」として、その「リアリティ」を伝える"仕事"に全力で挑みます。24時間をカメラで監視されるこの環境に入った段階で、彼らはもうプロとしての第一歩を踏み出していると言っても過言ではないでしょう。


◆餅ゴリ社長の慈愛と独裁


 しかし『SIXTEEN』のユニークなところは、その過酷さだけではありません。番組は、司会のパク氏が提示するテーマミッションに沿って、メンバーはそれぞれの解釈で技能を披露していくのですが、例えば第一回のミッション「Are you a STAR?」。


「何をしても構わない。私に君たちのスター性を見せて欲しい」と告げるパク氏の謎の注文に対して、大半のメンバーは歌かダンスで応じますが、エプロン姿で登場、生春巻きづくりのお料理ショー形式で応じたサナの異次元回答や、お父さんに習ったテコンドーを披露したチョン・ソミ(途中脱落。後に同様の別番組『Produce101』ではトップで合格。「I.O.I.」センターとして活躍する)など、タレントとしての幅を魅せる表現でアピールする者もいました。


 こうした十代少女のすっ飛んだ発想力をいなしながら、パク氏が語るミッションの意義は、自身が百戦錬磨のタレント人生を送ってきただけに説得力にあふれています。


「(芸能人にとって)大事なのは、自分がどんな人間か知ることだ。自分がなぜ特別な存在だと思うのか? どうして歌手になりたいのか? また何を人に見せたいのか? を自分自身に問いかける機会だと考えてください」


『SIXTEEN』が、奇をてらった人体実験的な残酷バラエティに堕することがなかったのは、パク氏や先輩のアドバイザーたちの、厳しいながらも、真摯な人生哲学が折々に語られ、決して人間味を失わなかったからでしょう。


 最終回では、12人の最終候補を前に、パク氏は万感の思いをこめてこう語ります。


「なにより5ヶ月間にわたって16人が、歌手として人間として成長する姿を見るのが最も幸せだった。16人すべてに可能性がある。だからこの場所にいるはずなのです。 今回デビューできない人も落ち込まないで、頑張るきっかけにしてほしい」


 しかし、競争は競争です。最終回のメンバー発表ではこんな大逆転も起きます。


 まず一般視聴者投票で一位をキープしながら、合格圏外に去ったツゥイがまさかの追加選出。


「ツウィはここにいるTWICE7人よりも不足している部分が多い。しかし、同時にこの5ヶ月間で最も伸びた参加者でもある。視聴者の意見を反映し、彼女の力を信じて追加合格させます」


 また、「最後のメンバーはTWICEに最も必要な能力を持ち、今の8名ではカバーできない部分を持っているメンバーを選ぶことにしました。ダンスとパフォーマンスを補強するためにモモを追加します」とパク氏が宣言。スタジオから姿を消していたはずのモモも奇跡の復活を遂げたのでした。


 最初から最後まで、JYPの神でもあるパク氏の強い意志と人間観察眼が発揮された『SIXTEEN』は、単なるメンバー選びのドタバタしたリアリティ番組というより、JYPという会社がどういう考えを持ってK-POPアイドルを選び出し、ファンに提供するのか。またどんな環境で何を問われながら育成が行われるかを世に示した、哲学的な番組だったと言えるでしょう。


 これ以前にもJYPでは、2008年に孤島でのサバイバル生活を通して男性グループ「2AM」「2PM」のセレクションを行う『熱血男児』などを制作した過去があります。当時のそれはまだバラエティ的な感覚も混ざった作品でしたが、『SIXTEEN』のようなギミックなしのストレートな企画に変化してきたのは、よりリアルなものを求めるファン心理の変化もあるのかもしれません。


 凡百の「リアリティ番組」がいくつも企画されては消えていく中、未だにK-POPオーディション番組が次々に作られ、高い人気を維持し続けているのは、ただ単に素材としての面白さだけではなく、こうした根源的に出演者の人生──夢や欲望に直結した内容と、その感情がストレートに伝わるからだと思われます。


 彼らのたどる「天国と地獄」の遍歴に心奪われ、TVモニターの前で一喜一憂する数週間を過ごした後には、すっかり私たち視聴者も彼らのファンになってしまっているでしょう。心奪われたテレビドラマの主人公たちの「ENDマークのその向こう」の人生が未だに気になるように、デビューにこぎ着けた練習生たちのその後の活躍を追って、普段見ることのなかった音楽番組をみたり、芸能ニュースサイトをのぞいたり、曲をダウンロードして応援したくなってしまったら、あなたもK-POPの魅惑の扉をあけたことになるのです。

NEWSポストセブン

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