中学で生徒に生徒を評価させるアンケート、何が問題だったか

7月24日(金)16時5分 NEWSポストセブン

教師の負担は大きくなっているとされる

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 上司が部下を評価する旧来型の人事評価制度とは異なり、立場や関係性の異なる関係者が多面的に1人の従業員を評価する「360度評価」には一定のメリットが見込まれるとされる。これを意識したのかどうかは定かでないが、中学校の教師が生徒に生徒を評価させるアンケートを実施、これがSNSで物議を醸した。コラムニストのオバタカズユキ氏が考察した。


 * * *

 その多くの日数がコロナで休校などになりながら、全国の学校の1学期がすでに終業、もしくはもうすぐ終わろうとしている。そんな時期の7月19日夜、ある中学生女子が、ツイッターに以下のツイートをした。


〈学校からもらった紙です。これを書いて提出しないといけません。なんで、こんなことを書かなければならないのかわかりません。なんのためなのか教えて下さい。〉


 これを私が見たのは翌々日の夜。すでに2000RTを超えるプチバズりツイートになっていた。なぜたくさんの注目を集めたのか。それは、つぶやきと共にアップされた一枚の「プリント」の写真が、どうにも気持ち悪かったからだ。「プリント」には、まず次の一文が書かれてある。


〈学級の中でこのような人は誰ですか。できるだけ多くの友達を書きましょう!〉


 そして、その直下に、10項目それぞれ男子と女子1人ずつの氏名と番号(おそらく出席番号だろう)を書きこむ形式の表が、大きく印刷されている。項目を順に並べてみよう。


【1】友だちに親切な人

【2】掃除を一生懸命している人

【3】日直の仕事を一生懸命している人

【4】給食当番を頑張っている人

【5】学級を明るく楽しくしてくれる人

【6】学級でリーダーシップをとれる人

【7】学級であいさつをしっかりしている人

【8】よく発表をしている人

【9】授業を真剣に受けている人

【10】1学期よく頑張った人(4人まで)


 最初、この表が目に飛びこんできたとき、通知表の右ページにある「行動の記録」みたいだなと思った。「礼儀・挨拶」「規範意識」「学習態度」「人間関係」などにおいて、達成できている項目に○がつけられるあれだ。


 通知表は学校ごとに異なるので、「行動の記録」の中身もいろいろだが、要は学校生活の中の学習面以外の部分を評価するものである。評価者はもちろん、担任の先生。先生が児童や生徒との関わりの中で把握したその子の特長を、簡単ではあるが表すわけだ。


 それにそっくりな項目の並んだプリントが、アンケートとして生徒たちの提出物になっている。アップ主も疑問を呈しているが、なぜ? なんのため?


 使用目的を生徒たちに説明していない時点でいかがなものかと思うのだが、目的を想像するともっと疑問は大きくなる。


 まっさきに考えられるのは、通知表の「行動の記録」を作成する際のデータ活用である。だとしたら、それはこのプリントを配った先生は、ふだんの生徒との関わりに乏しいのかもしれない。生徒一人一人をあまり把握していないから、評価に自信がなく、アンケートを実施した?


 プリント配布がいつされたのかはわからないので、通知表の作成目的かどうかは不明だが、もしそうだとしたらかなりお粗末な話だ。だって、これらの項目の大半は、普通に生徒を教えていれば自ずとその先生の記憶の中に残るものであるはずだから。


 【8】〈よく発表をしている人〉【9】〈授業を真剣に受けている人〉は授業の教壇に立っていれば把握していて当たり前だし、【2】〜【7】の〈掃除を一生懸命している人〉〈日直の仕事を一生懸命している人〉〈給食当番を頑張っている人〉〈学級を明るく楽しくしてくれる人〉〈学級でリーダーシップをとれる人〉〈学級であいさつをしっかりしている人〉も、担任としてクラスに出入りしていれば、特別な観察力がなくてもわかる事柄である。なのに、生徒の声を集めなきゃ判断がつかないとしたら、悪いけど担任失格だ。


 【1】の〈友だちに親切な人〉だけは、担任といえども、そう簡単には把握できない。ただ、それをアンケートで知ろうとするのはいかがなものか。子供たちが裏でふざけて作る、クラスの人気者ランキングと変わらないものになっちゃうのではないか。


 この点は、他の全項目に渡ってもいえる。どうやらアンケートは宿題になっているようなのだが、そんなことをしたら、仲のいい者同士で「誰にしようか」会議がすぐに始まって、明らかに偏った結果が出るだろう。


 そうした「データ操作」をするのは、いまの若者が頻繁に使う用語の「陽キャ」集団である。逆に、「陰キャ」の子たちは、下手なことを書いて、それがバレて、「誰だ?こんなやつを推したのは?」と追及されるのを恐れ、空欄だらけにするかもしれない。


 そこまで荒んだクラスでなくても、個人主義的な傾向の強い「陰キャ」の生徒は、このアンケート自体に抵抗を覚える場合が多いはずだ。なぜ生徒同士が互いに優劣をつけなきゃいけないのだろうか、私は安易に誰かの名前なんか書きたくない、と(そう、このツイートをした女子中学生も、保健室登校の日が多いなど、繊細なタイプのようである)。


 たとえ匿名アンケートであれ、生徒に生徒を評価させるというのはそれだけ難しいし、デリケートであるべき試みだ。


 この担任の先生は、通知表データと関係なく、クラス運営をよりよくするために、参考データが欲しかったのかもしれない。だとしても、その扱いのデリケートさは変わらないし、ならば、このありきたりな項目で生徒を見るセンスはどうかと、また別の疑問になる。


 だって、これらはぜんぶ大人にとって扱いやすい「いい子」像ばかりでしょう。友達に親切で、共同作業に積極的で、明朗快活な頑張る子。なんだか、とっても昭和の価値観。


 それらがもう無価値だとは思わないが、今の時代に求められている「目の付け所がみんなと違う人」「論理的に考えて発言する人」「自分と異なる意見にも耳を傾ける人」あたりがまったく入っていない。50年前に作られたものの使いまわしか、と言いたくなるほど、すべての評価項目が古臭い。もしかしたら、今の学校社会の人間評価基準は50年前と変わっていないのだろうか、という気分になる。


 このアンケートを取ることで、直接そう言わずとも、先生が生徒に「あるべき生徒像」を示す効果がある。また、他の子の実名を書かせることで、「クラスメイトのことをもっとよく知りましょう」と教える意味合いも生じる。


 しかし、その項目がいずれもこれだけ古臭くて凡庸だと、多くの生徒は「いい子」の一方的な押しつけだと感じるだろう。そして、こういう教育を繰り返すほど、世渡り上手な子は先生の前でだけ「いい子」を演じ、世渡り下手な子は埋没してしまうという、悪循環に陥ってしまう。結果、生徒の実像がますます先生の目では見えなくなる副作用もある。


 最近よく指摘されるように、今の学校の先生は忙しい。教務以外のさまざまな雑務に負われ、生徒とじっくり向き合う時間がなかなか取れないとも聞く。そのせいでこんなアンケートが実施されたとしたら、ちょっと先生を責められない気もしてくる。だが、しかし、だったらこんな無意味なアンケートは即刻やめましょう、疑問に思った生徒は白紙提出でいいよ、と言いたい。

NEWSポストセブン

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