《路上園芸》鑑賞で路傍の草花から元気をもらう。いつもの街の風景に新しい発見が

7月25日(日)19時50分 婦人公論.jp


(撮影=大河内禎)

住宅や商店の前、はたまた街路樹の植え込みや通学路。人の暮らしのあるところで必ずや目にするのが植物の鉢植えだ。その近くをよく見ると、アスファルトのすき間からは小さな草花が芽吹いている。人と自然とのそんなコラボレーションを「路上園芸」と称して楽しむ方法が、今、密かなブームになっているようで──路上園芸鑑賞家として活動する村田あやこさんに聞きました。(構成=山田真理 撮影=大河内禎)

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はじまりは商店裏にあった植木鉢


「路上園芸」とは、住宅やお店の前で個人が楽しみのために育てている植物や、コンクリートのすき間などに自然に生える緑のこと。それを散歩の途中に見つけては、テーマごとに分類したり季節ごとに観察をしたりする「路上園芸鑑賞家」の活動を10年ほど前から続けています。

きっかけは、当時住んでいた家の近所の商店裏にあった植木鉢でした。雨水でボロボロに劣化した鉢の中には、雑草に囲まれて不敵に笑うタヌキの置物。その光景が妙に気になって、ガラケーで写真を撮りました。すると他の場所でも、路上の植木鉢が目に留まるようになったんですね。


家の前の路上に並べられた鉢植えたち。ブロックを使い、鉢植えの高さを揃えているところに持ち主の愛を感じる


(左)室外機の裏を通って勢いよく生い茂っている笹
(右上)線路脇に自生するアロエの群れ。増えすぎてものすごい迫力に
(右下)たわんだ板の上にちょこんと乗った小さな鉢。どんな植物が生えるのかな

福岡で生まれ育ち、大学はキャンパス内に自然林の広がる北海道だったりと、自然の多い場所で暮らしてきました。東京の大学院に進み、卒業後はメーカーに勤めたのですが、2年ほどで退職。将来にわたって続けたいことは何かと考えたとき、植物にかかわることがしたいと思い、植物で空間をデザインする仕事を目指すことに。園芸装飾技能士の資格を取る勉強のかたわら、アルバイトで始めたのが、デパートの店内に飾る植物の手入れをする仕事でした。

肩の力が抜けた美しさ


装飾のための植物は、「こういう姿にしたい」という計画ありきのものなので、枯れたり伸びすぎればすぐに交換されてしまいます。風や光が少ない場所で弱っていく姿を見るのも、何だか自分のやりたいことと違うような気がして、日々悶々としていた気がします。

そんな私の心のすき間を埋めてくれたのが、路上の植物でした。デザインとして完成されているわけではないけれど、住む人が暮らしを楽しむために育てる鉢植えの、どこか肩の力が抜けた美しさ。段差にはブロックを挟み、鉢の上にも鉢を重ね、限られた空間を何とか生かして植物を育てようとする涙ぐましい工夫。植えた人の意図を超えてどんどん大きく成長したり、種がこぼれて、元いた場所から植物がはみ出していく姿も健気で、なんとも愛しく思えたのです。

そんな植物の様子を撮影しては家族や友人に見せていたのですが、最初は「何が面白いの?」という反応でした。でも5〜6年前に、撮りためてきた写真に「路上園芸」「植物のふりした妖怪」などのハッシュタグを付けてツイッターとインスタグラムに投稿したところ、面白がってくれる人が徐々に増えてきて。

2020年には活動を本にまとめたことで、幅広い世代の方に知ってもらえたようです。親世代の方から「こういう視点で見ると、身近な街にも緑があふれていることに気づきました」といった反響をいただき嬉しく思っています。

「街なかの植物」を覚えてみても


路上園芸鑑賞には、特に決まったやり方はありません。私自身、好きなときに好きな場所をぶらぶら歩いて、「あ、これ面白い」と思ったものを撮って楽しんでいます。

まずは、毎日のお散歩コースに「お気に入りの路上園芸ポイント」を見つけてはどうでしょう。たとえば駐車場にあるポールの穴は、ヤエムグラなどの雑草がけっこう生えています。春先は小さい芽だったのが、むくむくと育って、「へえ、こんな花が咲くのね」「もう実がなったわ」と定点観測すると楽しいですよ。

建物と建物の間の空間も、去年と今年では生える植物が違ってきたりします。それが隣の家の鉢からはみ出してきた園芸品種のワイヤープランツだったりと、新旧の勢力争いがあるのも面白い。


「段差に置かれた踏み板の穴から飛び出すように生えているハコベ。踏み板のグレーと草の緑の対比が面白い。自然の逞しさを感じる瞬間

それには、植物の名前を知っておくと楽しみがさらに広がります。私もまだまだ詳しくないのですが、昨年コロナによる自粛生活で時間ができたとき、目に留まった植物の名前を全部言えるようにすることを「筋トレ」のように自分に課したら、また一段と路上園芸鑑賞が楽しくなりました。最近はスマホで撮った植物の名前を教えてくれるアプリもありますし、「街なかの植物」に特化した図鑑を書店で探してみてもいいと思います。

いつもの風景にも新しい発見が


私は下町によくある、赤い消火器ボックスと鉢植えのマッチングを撮るのが好きです。あるいは、かつて食材が入っていたであろう発泡スチロールの箱など、別の用途で使っていた入れ物を鉢に転用する「転職鉢」を探してみたり。植え込みや歩道、線路際など公共の場にひっそり置かれ、誰かの庭と化した場所にある鉢を「どさ」と呼んで楽しんだり。何かテーマを決めて眺めてみると、いつもの街の風景に新しい発見があるかもしれません。

理・美容院や喫茶店、蕎麦屋さんなど古くからあるお店の前も、格好の路上園芸スポット。建物や看板のデザインと植物をセットで楽しんだり、店主の人柄やセンスを想像してみたり。私の経験上、路上園芸がステキな飲食店は味もよいので、お散歩の寄り道にもおすすめです。


個人商店のシャッターの前には、整然と並ぶ鉢植えが。鉢の大きさが統一されていて、土に刺した薬剤には植えた植物の名前が丁寧に書かれている。持ち主の几帳面な性格を感じさせられる一角だ

そこにお住まいの方やお店の方がいれば、「きれいですね」と話しかけます。もともと園芸好きの方たちですから、「この桜は40年前に結婚記念で買ってきて」なんてエピソードを聞かせてくださる。ときには「鉢を持っていかないで!」といった貼り紙に、持ち主の心の叫びを感じることも。そうした人と植物のかかわりの深さを知るのも、路上園芸ならではだと思います。

人の愛と植物の生命力


最近、ネイチャーガイドの方から聞いた言葉で印象的だったのは、「街なかのアスファルトの環境は、火山が噴火した跡の荒れ地に近い」ということ。そうした場所にはまず過酷な環境でも生きられる丈夫なコケなどが生え、それが枯れたものが土壌になって次の植物が育つのだそうです。そういう視点で見ると、「自然がない」と言われる都会でも、自然のサイクルは営々と続いていることに気づかされます。

また鉢や庭先からはみ出して成長を続ける植物には、与えられた環境のみに収まらない逞しさ、したたかさを感じて、こちらも元気になれるのです。

すき間からはみだす植物や、敷地をはみだす園芸は、見る人によっては計画外で望ましくないかもしれない光景。でもそこには育てている人の愛があるし、植物それぞれの生命力があります。誰かが決めた価値観ではなく、自分だけの宝物を見つける楽しさを、皆さんも、おなじみの散歩道で探してみてはいかがでしょうか。

婦人公論.jp

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