金八先生が”うつヌケ”に成功した理由 武田鉄矢70歳のライフシフト

7月27日(土)5時30分 文春オンライン

 フォークバンド・海援隊で紅白出場を果たし、映画「幸福の黄色いハンカチ」(1977年)、ドラマ「101回目のプロポーズ」(フジテレビ系・1991年)や「3年B組金八先生」(TBS系・1979〜2011年)など、数々の名作に出演してきた俳優・武田鉄矢。今年で芸歴47年、御年70を数える、押しも押されもせぬ“大御所”だ。


 そんな武田鉄矢が65歳から合気道をはじめ、しかも最近“スピード昇段”したらしいという情報が舞い込んだ。武田は現在2段だが「10年かかっても辿り着かない人もいる」(同じ道場の門下生)という。年齢を重ねてなお成長を続ける秘訣はどこにあるのだろうか。





大手術の後、ウツっぽくなって気持ちが落ち込むようになった


——スピード昇段、おめでとうございます。


武田 ありがとうございます。しかしちょっとオマケもあるような気がして……。ただゴマを摺ってくれるような道場じゃないので、1日45分間、週2回、老骨に鞭打ちながらコツコツやっているのを先生が哀れに思ったのかもしれません(笑)。


——そもそもどういったきっかけで合気道を始めたのですか?


武田 61歳の時に心臓に欠陥が見つかって、ちょっと大きい手術で人工弁を入れたんです。その頃はモチベーションというか、やる気がどんどん下がっていってね。ウツっぽくなって、気持ちが常に落ち込むようになってしまったんですよ。若い頃は夜中に目が覚めてもすぐ寝られたんですけど、年を取るとそこから眠れなくなるんですよね。その時に暗いことばっかり考えるんです。それで精神的にもだいぶ弱ってきて、何かしないとまずいなぁと思いましてね。



——その時に出会ったのが合気道だったと。


武田 実際に道場の門を叩いたのは2014年7月です。でも50代の頃から合気道には興味があった。フランス哲学者で合気道の達人でもある内田樹(うちだたつる)さんが好きでよく本を読んでいたんですけど、合気道についてのくだりになると途端に訳が分かんなくなる。この人は一体何が言いたいんだろう、どうしてこんな考え方ができるんだろうとずっと謎に思っていたんです。


 そこで鬱ウツとした気持ちも吹き飛ばしたいし、「よし、道場へ行ってみるか」という気になりましてね。実際に道場へ足を踏み入れると、みるみる引き込まれた。ハッと気が付いたら5年も経っていました。



やっつける能力よりも、やっつけられる積極性


——武田さんは柔道経験者で、映画「刑事物語」(1982年)ではハンガーをヌンチャクに見立ててカンフーを披露していますよね。そういった経験があったからこそ、すんなり合気道に馴染めたのでしょうか?


武田 いやそれがね、合気道はまったく別物なんですよ。ジャッキー・チェンが強い敵にやられそうになっているときに、相手の力を利用して劇的に流れを変えるってシーンがあるじゃないですか。最初、合気道はそんな武道だと思っていたんです。でも我が道場ではやっつける能力よりも、やっつけられる積極性を身につけることのほうが評価が高い。合気道っていうのは、いかに上手にやっつけられるかで、技の理解度を測るんです。



——実際に立会いをすることもあるのでしょうか?


武田 いえ、私の通っている道場は型稽古だけなので、実際の立会いはありません。柔道でいうと“打ち込み”までを稽古する武道なんです。自分の得意技を磨くために相手に脱力してもらい、相手の体重を借りて、自分の技の入り方を何回もなぞる。そうやって技への理解を深めていくんです。



——年齢を重ねてから新しい世界へ飛び込むことに抵抗はなかったんですか?


武田 内田先生がこんなことを言っています。「学びの姿勢は、コミュニケーションを結ぶ時の最も手っ取り早い方法である」。我が道場でも、私なんかより中学生ぐらいの子の方がはるかに上手いんです。だから分からないことがあればすぐに質問するんですね。どんなに歳をとっても、学ぶ姿勢を保っていれば孤立しないでいられるんですよ。


 実は「金八先生」が終わった時にも、何かしようと思っていたんです。でも何がしたいのかずっと分からなかった。それが合気道をやり始めてやっとわかったんです。



歳をとればとるほど、少しの油断で”意地悪な爺さん”に落ちる


——というと?


武田 私は先生役を長いことやってきましたが、ずっと生徒になってみたかったんです。「お願いします!」と大きい声で教えを乞い、「ありがとうございました!」と畳に額を擦りつけてお礼を言う。そんなことをやっていると、体が快調に回り始めましてね。歳をとって曇ってきた心が、晴れていったんです。


 あのね、歳をとればみんな、日本昔ばなしの“花咲か爺さん”になれると思っていますが、大間違いなんですよ。



——“花咲か爺さん”ですか?


武田 そう。正直で優しくていつもニコニコしている“良い爺さん”。歳を重ねると周囲は気を使ってくれるようになるでしょ? それに安住してしまうと「自分が正しい」とか「最近の若い奴はなっとらん!」なんていううぬぼれで心が曇る。そうなるとあっという間に“意地悪な爺さん”になってしまうんですよ。歳をとればとるほど、少しの油断で “意地悪な爺さん”に落ちる。年寄りはそんな崖っぷちを歩いていると自覚しなければいけません。



——武田さんには“良い爺さん”のイメージがあります。金八先生がそのまま歳を重ねたような……。


武田 うーん、自分では分かりませんけどね(笑)。ただ、知らないことは知らないと言えるよう、常に謙虚でいようと心がけています。


 あとは口が裂けても、若い人の前で絶望の条件を言ってはならない。爺たるもの、自分は明日死ぬかもしれないけど、明日生まれてくる子には「お前は自分の分だけ生きていけばいいんだよ」と言わなくてはいけない。大変でも、嘘八百でも、「ハイカラな花を咲かせましょう」と、枯れ木に灰を撒き続けるのが年寄りの仕事なんです。



(「週刊文春」編集部)

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