61歳で受けた心臓手術で精神的にもダメージ 武田鉄矢を襲った「老後クライシス」

7月28日(日)5時30分 文春オンライン

 32年間続いたドラマ「3年B組金八先生」(TBS系・1979〜2011年)シリーズは2011年に終了したが、テレビの中の武田鉄矢(70)はいまだ“金八先生”のイメージそのままだ。しかし、プライベートでは 61歳の時に心臓の手術を受けて人工弁を入れた 。その関係か、精神的には気持ちが常に落ち込むようになり、鬱ウツとする日々が続いたという。


 そこで始めたのが合気道。65歳から始めて、今でも若い人に混じって、週2回道場で“生徒”として汗を流しているという。老後2000万円問題や孤独死など暗いニュースを眼にすることが多い昨今だが、”楽しく歳を重ねるコツ”を聞いた。







長く一緒に暮らしてきて、女房の俺への叩き方が変わってきた


——合気道を始めて、日常生活に変化はありましたか?


武田 驚くほど変わりましたよ。いちばんは夫婦関係ですね。


——今年で結婚46年目ですよね?


武田 ずいぶん長く一緒に暮らしてきましたが、だんだん女房の俺への叩き方が変わってくるんですよ。コーヒーを飲んだカップを窓辺に置いたら「輪染みがつく!」って叱られて。洗濯物が部屋に干してあったから、ベランダに出してあげたら「何で外に出したのっ!? 夜露に濡れるじゃない!」と叱られて。茶碗を洗っても「底洗ってないね」とか。もうね、何やっても怒られるんですよ(苦笑)。



——それは……、大変ですね。


武田 ほんと、参っちゃうよね……。私は貧しい家に生まれたもんですから、不潔に強いんですよ(笑)。だから、そんなに潔癖すぎると息苦しくなるだろうと女房に説教してみるんだけど、「話が長い!」とか言われるわけです。世間では15、16歳のガキ相手に説教させたら日本一うまいとか言われていても、女房には職業で磨いたものが何一つ効かないわけです。そんな時に自分の威力の衰えを感じて合気道道場に行くと、先生が武道論を語り始めるんです。


——どんな武道論なんですか?


武田 それが俺たちの喧嘩を見たような武道論でしてね。先生が弟子たちを並べて技の説明をするんです。「逆らっちゃいかん。風が吹いてきたら静かに吹かれましょう。頑丈な木は折れますが、柳は折れないでしょう。相手が押してくるんだったら押されなさいよ。相手が引くんだったら引かれなさい。ただ、その時に真後ろに下がらず、わずかに横に受け流す。そこから技が始まるんですよ」って。夫婦喧嘩での悔しい気持ちを思い出して、なんか涙が出てきましてね(笑)。



女房の気持ちを時に受け止め、時に受け流す


——がっぷり四つに組み合っていては駄目だと。


武田 合気道を知れば知るほど、発想の転換が起きるんです。それまでは、稼いで給料を持って帰れば立派な男だと思っていたんです。だから家庭でも俺は偉いんだと。でもね、冷静になって考えると、俺が仕事に命を懸けているように、彼女は家事に命を懸けているわけですよ。それを軽んじたら、そりゃあ怒るよなと。女房のそんな気持ちを時には受け止め、時には受け流す。それが大事なんですよ。


 あとは、合気道をはじめてガリガリ君のアイスが旨く感じるようになりましたね。



——ガリガリ君、ですか。


武田 そう。夏なんて特にね、暑くて道場通いも地獄になってくるんですけど、帰り道にアイスのガリガリ君を食べると、もう至福です。「うめぇ〜」って唸りますよ。ただそれは暑い中練習をして汗をかいたから、っていうんじゃないんです。


 合気道の基本は「何が起きても驚かない」ということなんですけど、驚かないためにはいつも小さく驚くことが大事なんですって。小さく驚いていると大きい驚きを受け止めることができる。俺、これは名言だと思いましたよね。


——アイスの旨さにびっくりするということですか?


武田 そうです。驚くっていうのは、心を動かすということですね。綺麗なものを見たときは「綺麗だね」って、道で気持ちいい風が吹いたら「気持ちいいね」ってそのたびに感動すると。そういう小さな習慣を積み重ねることで、歳をとっても自分の感性を錆びつかせない。歳をとるのが怖くなくなりますよ。



——老後に2000万円が必要だと言われるなかで、老いることに不安を感じている人もいます。


武田 確かに老後資金は大切ですよ。ただ2000万円貯めて、使おうと思った手前で死んじゃったら、本当に悲惨な人生だよね。幸せっていうのは、得るもののなかにはないんですよ。得ようとする道のなかにある。


 例えば合気道でいうと、おそらく私は合気道の奥義を掴むことは不可能です。でもどこで合気道の修行が終わるかというと、道場へ向かうところで死んだとしたら「俺の合気道は本物だった」という人生になるんじゃないかなあ、なんて考えるんですよ。何かを求めるなかに充実があるんであって、手に入れれば幸せになれる、なんていうものはこの世にはないんじゃないかな。だから一番幸せな人っていうのは、どこかを目指し続けて生きている人。そのことが最近手触りで分かってきました。


 高倉健さんもね、いつまでも何かを目指し続けた方なんですよ。



老いと格闘するにはもってこいの武道


——武田さんは、高倉健さん主演の『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)で俳優デビューされていますよね。プライベートでも交流は深いんですか?


武田 実はね、高倉健さんも偶然我が道場の先生と縁があったんです。俺が道場へ申し込んだ時はまだ健さんがご存命だったから、先生が「武田鉄矢が合気道を教えてくれと道場に来た」と健さんに伝えた。そしたら「あいつはまだそんなことやりたがっているんだ」って大笑いなさったみたい。亡くなったのはそれから数カ月後でしたね。健さんは喉まで出て言えなかったみたいなんですけど、あのお歳でまだ合気道をやってみたかったようです。



——高倉健さんが亡くなったのは2014年11月でした。


武田 あの冬からね、道着を着る度に健さんも合気道をやりたかったんだろうなって思うんです。ただ別格のスターだったから、俺みたいに街中を平気で歩けない。合気道を始めるのも、そんな簡単に出来ないんですよね。世間が窮屈だっただろうなあと思います。健さんに成り代わって、私が一生懸命練習しないといけませんね。



——合気道は今後もずっと続けていきますか?


武田 はい。いまね、本当に合気道が面白いんです。私も道場では年寄りの方ですが、それでもまだまだ上がいるんですよ。80代の方だっていらっしゃる。老いと格闘するにはもってこいの武道です。これは人生最後の修行で、人生最後の学びだと思っています。


 死ぬまで合気道を究めていきたいですね。



(「週刊文春」編集部)

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