フジドラマ枠に異変 月9はヒット、木曜劇場は本塁打狙いに

7月28日(日)7時0分 NEWSポストセブン

フジの看板ドラマ枠に変化が?(月9『監察医 朝顔』公式HPより)

写真を拡大

 数々のヒットドラマを生み出してきたフジテレビのドラマ枠「月9」と「木曜劇場」。この2大ドラマ枠に異変が見られるという。いったい何が起こっているのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。


 * * *

 フジテレビの看板ドラマ枠に変化のきざしが見えます。


 1つは1987年にスタートし、『東京ラブストーリー』『ひとつ屋根の下』『ロングバケーション』『HERO』などのヒット作を生み出してきた月9。もう1つは1984年にスタートし、『愛という名のもとに』『29歳のクリスマス』『白い巨塔』『眠れる森』らのヒット作を生み出してきた木曜劇場。


 月9は若年層向けラブストーリーのドラマ枠だと思われがちですが、実際は時代の流行に合わせてさまざまな職業や生き方を描きながら、恋愛の要素を織り交ぜて若年層にもリーチしてきました。


 ところが今夏放送の『監察医 朝顔』は、法医学の世界を穏やかなトーンで描き、東日本大震災をモチーフにするなど流行とは無縁の作品。また、ヒロインの万木朝顔(上野樹里)には初回から桑原真也(風間俊介)という恋人がいて、2話で早くもプロポーズされるなど、恋愛の要素はほとんどありません。


 一方、木曜劇場のターゲットは一貫して、大人の女性層。たとえば、『最後から二番目の恋』『最高の離婚』『医龍』『風のガーデン』など、大人世代の恋愛・結婚、職業や生き方を描き続けてきました。


 ところが今夏放送の『ルパンの娘』は、他局を見渡しても前例がないほどの振り切ったコメディ。年齢性別を問わず笑わせることを狙った作品であり、若年層にもウケていて、ツイッターの世界トレンド3位にランクインするなどネット上の動きが活発です。


 これまでとは明らかに異なる作風なのはなぜなのでしょうか? ともに30年超の伝統を持つ看板ドラマ枠に起きている変化を掘り下げていきます。


◆月9はヒット狙い、木曜劇場はホームラン狙い


 月9は、2010年代に入って視聴率の低下が止まらず、「最低視聴率更新」という報道が相次ぐなど、何度となく打ち切り危機が噂されてきました。昨年も『海月姫』『コンフィデンスマンJP』はネット上の評判こそよかったものの、視聴率は1桁に低迷。しかし昨夏以降、刑事ドラマの『絶対零度』、弁護士ドラマの『SUITS/スーツ』、科捜研ドラマの『トレース』、医療ドラマの『ラジエーションハウス』と、リアルタイム視聴されやすく安定した視聴率が計算できるジャンルの作品を続けて、2桁視聴率を獲得しました。


 同様に今夏の『監察医 朝顔』も、法医学という視聴率を計算できるジャンルであり、「月9は流行を追うよりも、看板枠として確実に視聴率を取っていこう」という方針が見えます。ただ、「恋愛の要素を入れない」「あえてシリアスな東日本大震災を扱う」「大きな事件や急展開のない静かなムード」という若年層から敬遠されかねないコンセプトは、これまでにない試みと言えるでしょう。


『絶対零度』『SUITS/スーツ』『トレース』『ラジエーションハウス』が、「1年間2桁視聴率を記録」という一定の成果をあげたことで、「次は手堅いジャンルを扱うだけでなく、その中で攻めていこう」というフェーズに入っているのではないでしょうか。


 一方、木曜劇場は2010年代後半、何をやってもうまくいかず、視聴率はプライムタイムで放送される連ドラの最下位になることもありました。その中で唯一成功した『グッド・ドクター』は、現在月9が取り組んでいるジャンルであり、「フジテレビ制作の2枠に似た作品が並ぶ」のは得策と言えません。


 そこで浮上したのは、フジテレビが製作委員会に名を連ねて成功した『翔んで埼玉』のような振り切ったコメディ路線。『ルパンの娘』と『翔んで埼玉』の演出・脚本は同じスタッフであること、さらにコメディ映画『テルマエ・ロマエ』とプロデュース・演出が同じスタッフであることからも、その様子がうかがえます。


 スタートからここまで、『監察医 朝顔』は高視聴率を記録し、『ルパンの娘』は前述したツイッターのほか見逃し配信視聴数でも歴代最高レベルを記録。「月9は広告指標である視聴率を担い、木曜劇場は話題性やネットの反響を担う」という図式が浮かび上がってきます。


 たとえるなら、前者がコツコツとヒットを狙うアベレージヒッターで、後者はフルスイングでホームランを狙うホームランバッター。2010年代の低迷をきっかけに、長年の伝統にしばられることなく、新たな方針を打ち出しているのではないでしょうか。


◆なぜ「リニューアルします!」とPRしないのか?


 ただ、大きく変化させているにも関わらず、フジテレビは「ドラマ枠の方針を変えます」「月9はリニューアルしました」とPRしていません。


「なぜPRしないの?」と思うかもしれませんが、もともと民放各局は、ドラマ枠そのもののPRをすることはほとんどないのです。たとえば、TBSの『日曜劇場』は熱い男たちが戦う職業ドラマ、『火曜ドラマ』は漫画を原作にした女性の共感を狙うドラマ。日本テレビの『水曜ドラマ』は女性主人公の仕事と恋を描いたドラマ。テレビ朝日の水曜9時と『木曜ミステリー』は刑事ドラマというように、それぞれハッキリとしたカラーがあるにも関わらず、各局が自らそれを打ち出すことはありません。


 その理由は、ターゲット層以外の視聴者層をシャットアウトしないため。どのドラマ枠にも、いわゆる“お得意様”のターゲット層がいますが、それ以外の層に「自分には関係のないドラマ枠」と思われないために、「ウチはこういう枠です!」とPRをしないのです。また、ターゲット層の人々も、時代や流行に合わせて嗜好が変わるため、「同じテイストのドラマを放送し続けていればいい」というわけではないのでしょう。


 特にフジテレビが近年そうだったように、視聴率の低迷が長引いたときはリニューアルの必要性に迫られますし、変えたものがまた不振に陥れば再リニューアルを求められるなど、あくまで暫定的な変更に過ぎないため、わざわざ「リニューアルします!」とPRしないようです。


◆バラエティもリニューアルのPRはしない


「ウチはこういう枠です」「リニューアルします!」とPRしないのはバラエティも同様。基本的に1クール1作のドラマとは異なり、継続することが前提のバラエティは、「視聴率がふるわないときも、打ち切って新しい番組を作るのではなく、内容をリニューアルして浮上を狙う」という方法がよく採られます。


 たとえば、『世界の果てまでイッテQ!』『行列のできる法律相談所』『人生が変わる1分間の深イイ話』など日本テレビのバラエティでは定番の手法であり、フジテレビの『ネプリーグ』『坂上どうぶつ王国』『ダウンタウンなう』なども同様。しかし、内容を変えるときは、「新企画スタート」と打ち出すことはあっても、「リニューアル」と打ち出す番組はほとんどありません。やはりテレビマンたちの頭には、「リニューアルは暫定的なもの」「再リニューアルもありうる」という意識があるのでしょう。


 まだ月9も、木曜劇場も、今後どのような方針で制作されていくのかは未知数ですが、今作がテストケースになったのは間違いありません。ネットの普及で流行のサイクルが早くなり、視聴者嗜好をとらえながら変化し続けることが望まれる時代だけに、ドラマ枠でもこのような「PRなきリニューアル」が増えていくのではないでしょうか。



【木村隆志】

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本超のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

NEWSポストセブン

「フジテレビ」をもっと詳しく

このトピックスにコメントする

「フジテレビ」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ