まさか振り込め詐欺だとは!親に頼ったことのない息子の窮地を救うため、カードで銀行から150万円を借りてしまった

2024年7月31日(水)12時30分 婦人公論.jp


(イラスト:カワムラナツミ)

警察庁が発表した「令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について」によると、特殊詐欺の認知件数は19,038件で、被害額は452,6億円と、前年に比べて増加してます。中でもオレオレ詐欺は認知件数3,955件と、前年よりも332件減少するも、被害額は133,5億円で4,1億円の増加に。1件当たりの被害額が大きくなっており、より一層注意が必要です。自分は大丈夫と思っていても、身内からの急なSOSに疑いの目は向けづらいもの。丸山幸子さん(仮名・埼玉県・主婦・66歳)は、ようやく子育ても終わり、余裕も出てきたと思った頃、なけなしのお金を失うことになったそうで──

* * * * * * *

考える隙を与えない電話の声に急かされて


2人の息子は自立し、親のお金をあてにしたことはなく、「親に何百万円も頼むことは絶対にない」と言っていた。

怪しい電話がかかってきたら、慌てず息子の番号にかけ直して確認すればいい。絶対に振り込め詐欺になんてひっかからない——そう思っていたのに、私は150万円を掠め取られた。

電話の相手は用意周到に獲物を狙っていたようだ。5月のある夜、夫が電話に出ると、相手は次男の名前を名乗り、携帯を失くしたので借りた電話を使っていると話した。

翌朝、今度は私が電話に出ると、次男を騙る男はこう言った。

「すぐに100万円用意してほしい」

運の悪いことに男の声は次男とイントネーションがよく似ていたので、私はすっかり相手を信じ、馬鹿な親心が働いた。

今まで一度も親にお金の無心をしたことがない息子が頼んできたのだから、よほどのことだろう。

電話をかけ直す暇も与えられず


心配で胸が張り裂けそうになっていると、「人妻を妊娠させてしまい、夫にバレてもめている。騙されていると思ってDNA鑑定をしたら、99.9%俺の子どもだった」と言う。「お母さんが育てようか?」と訊ねると、「そこまで迷惑をかけられない」の答え。

双方の弁護士の話し合いの結果、120万円で示談が成立し、弁護士費用の35万円と20万円は自分で払ったから残りを用立ててほしいという。

お金を出す前に夫に伝えると言うと怒りだし、「兄さんに相談したら?」と聞いたら、「みっともないから知られたくない」と悲痛な声をあげた。(そのくらい自分で稼いでいるじゃない)という思いがよぎったが、(息子が最低なことをしたとネットで拡散されたらどうしよう)と思うと焦った。

電話をかけ直す暇も与えられず、窮状を並べたてられ、他の手立てが思い浮かばない。なんでもサッサと物事を処理するのを良しとする私の性格も裏目に出た。

今思えば、私が「取り返しのつかないことをしてしまったね。でも、あなたも彼女のこと好きだったのね」と言ったとき、受話器の向こうから不敵な笑いが聞こえていた気がする。

しかし、100万円もの大金は手元になかった。3年前に現役を退いた夫は、好きな料理を一手に引き受けてくれ、私は趣味や習い事に日々を費やし、年金でのんきに暮らしてきた。

蓄財はない。困った末に、一度も使ったことはないが、口座を持っている銀行のカードローンがあるのを思い出した。落ち着いたら次男が自分で返せる額だ。使ってはいけないお金だけど、少しの間拝借するだけならいいだろう。

息子のためにとATMへ直行


電話の声に従い、私は銀行に向かった。何度も「他人に知られたくない。急いで」と言うので、《振り込め詐欺に注意!》と警告するポスターもスルーしてATMへ直行。

息子の口座に振り込もうとしたが、「時間がないから直接、弁護士の口座に振り込んでほしい」と言われた。振り込み手続きがうまくできないので銀行の係の人を呼ぶと、電話の向こうで「やめて! みっともないから大きな声で話さないで」と声を荒らげる。

冷静になった今なら、よく言うわ、と思うのだが、あのときは矛盾だらけの話に気づけなかった。

お金を振り込むと、その場でまた電話がかかってきた。

「銀行は振り込め詐欺に慎重になっていて確認に時間をかけるので、振り込みが途中で止まっている。このままだと示談がパーになって多額の請求をされそうだ。あと50万円振り込んでほしい」。

あのとき、「騙されているんじゃないの」と聞いた私の愚かさよ。相手は「あなたを騙しているんですよ」と薄ら笑いをしていただろう。

騙されていたのは、息子ではなく私


追加の50万円を振り込むと、電話がぴたっと止まった。かけ直しても、「お客様のご都合でおつなぎできません」というメッセージが流れる。家に帰って次男にメールを送ると、即、「どうしたの?」と電話がかかってきた。

「それは振り込め詐欺だね。え! 150万円払ったの? すぐ警察に連絡して」という次男の声を聞き、私は(ああ、息子はあんなことやってなかったんだ)と安堵し、夫と警察署に行って被害届を出した。

翌日は休日で、長男一家と次男が我が家に集まることになっていた。食事を終えて雑談が始まると、私は「振り込め詐欺で150万円の被害に遭いました」と告白した。長男もそのお嫁さんも驚くばかり。

カードローンのことを話すと、長男は「お金は口座に入れておくから。カードはすぐに処分してね」と言い、次男は50万円を渡してくれた。

息子たちは相談しながら、私たちが二度と被害に遭わないように電話の設定変更などをして、「気にしなくていいんだよ」と言って帰っていった。

それから数日、身体は宙に浮いた感じで食欲もゼロ。65歳を過ぎると、こうも頭が働かなくなるの? 非常事態に対応できなかったら意味ないじゃないの、と思いもしたが、少しずつ自分を取り戻し、息子たちが一言も非難せず用意してくれたお金を返すために働こうと決めた。

幸い身体はいたって健康だから、どんな仕事でも働こうと思う。ずっと専業主婦だったので、お金を稼ぐ厳しさにこれから初めて直面するのは覚悟している。

この歳になって、なんで詐欺師のために緊張感を持たなければならないのかと思うと、やり場のない怒りがこみあげる。

しかし、普通に生活して家庭を守ってきた主婦がよき人生であったと幕を下ろすためには、責任を果たすことが必要だ。下劣な詐欺師に、心意気だけは負けてはいられない。

詐欺被害の対策と対処法


丸山さん(仮名)は、家族で振り込め詐欺を注意していたにもかかわらず、詐欺被害にあってしまいました。自分は大丈夫と思っていても、いざ非常事態が起きると、冷静な判断ができなくなるもの。

漠然とした注意ではなく、具体的な詐欺内容やお金を振り込ませるまでの流れなどの情報を知っているだけでも、心構えが変わるかもしれません。

金融庁HP
「振り込め詐欺」にはどのようなものがあるでしょうか・・・???
https://www.fsa.go.jp/policy/kyuusai/index.html

「すぐに振り込まないと大変なことになる」と、ゆっくり考える時間を与える前に、振り込ませるよう誘導させるのが特徴。「すぐに振り込まない」ことを忘れずに、1人で振り込む前に、身近な人や最寄りの交番などに相談するようにしましょう。

手記・漫画版はこちら

※婦人公論では「読者体験手記」を随時募集しています。

現在募集中のテーマはこちら

アンケート・投稿欄へ

婦人公論.jp

「詐欺」をもっと詳しく

「詐欺」のニュース

「詐欺」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ