テレビ制作会社苦境の中で右肩上がり、UNITED PRODUCTIONSが「日本一のコンテンツサプライヤー」へ仕掛ける次の一手

2024年8月2日(金)6時0分 マイナビニュース

●4年で収益2.7倍、さらに倍増へ
昨年11月、2023年1〜9月のテレビ番組制作会社の倒産が、過去10年間で最多を更新したことを、東京商工リサーチが発表。コロナ禍で減少した受注が従前の規模まで回復せず、テレビメディア広告費の漸減傾向が続く厳しい環境が浮き彫りとなった。
そんな中で、右肩上がりで売上を伸ばしているのが、UNITED PRODUCTIONS。『トークサバイバー! 〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』(Netflix)、『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ)といった人気バラエティの制作を手がけ、2019年から2023年の4年間で収益は2.7倍に拡大し、5〜6年後には現在のさらに倍の収益規模を目指しているという。
なぜこの環境下で成長を続けているのか。「日本一のコンテンツサプライヤーになる」というミッションを掲げる森田篤社長に、今後の展望を含め話を聞いた——。
○合併を進める中でコロナ禍「これからという時に二重苦」
UNITED PRODUCTIONSの源流は、森田社長がディレクター仲間4人で2008年に創業した番組制作会社・フーリンラージ。「fool=バカ」と「enlarge=誇張」をかけ合わせて「思い切りバカをやる」という思いを込め、主にバラエティ番組を制作してきた。
『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日)、『櫻井・有吉THE夜会』『マツコの知らない世界』(TBS)といった人気番組を手がけ、順調に事業を展開してきたが、「もっと成長スピードを上げたい」と考えていた森田社長。
そんな中、ゲームセンター事業からエンタメ事業への転換を進める最中にあったKeyHolder社が、映像コンテンツを作れるプロダクションと経営者を求めていたことで、双方の思惑が一致。19年に同社の傘下に入り、豊富な資金力を背景に、さらなる成長を推進していくことになった。
その後、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)や『全裸監督』(Netflix)などを制作していたイメージフィールドの一部事業を承継し、KeyHolder社傘下のKeyProductionと合併するタイミングで、フーリンラージから現在のUNITED PRODUCTIONSに社名変更。森田社長は「フーリンラージ」の社名に愛着があり、傘下に入る際もこの名前を残すことを第一条件にしていたほどだったが、「買収を進めていくうちに、フーリンラージ出身の社員が4分の1未満になったので、看板を下ろしました。でもブランドを一新して、いちから再スタートを切るという意味でも、この判断は正しかったと思います」と語る。
テレビ制作会社同士の合併はあまり事例がなく、ディレクターという業種が職人気質な部分もあって、風土が大きく異なる企業が一緒になることは、「めちゃくちゃ難しくて、そこは苦労しました(笑)」と吐露。
特に、イメージフィールドに関しては、民事再生手続を行った経緯に加え、ドラマ・映画の制作会社ということもあり、「文化が全く違う」事態に直面。「当初は自分の声が全然届かず、のれんに腕押しのような感じで、リーダーシップを発揮するのが難しかったです」という上、2020年春にはコロナ禍に突入したことで、「これからという時に二重苦のような感じで、経営者としては非常に苦しんだ時期でした」と振り返った。
○『トークサバイバー!』がターニングポイントに
そんな厳しい時期を乗り越え、コロナも落ち着き、社員と丁寧なコミュニケーションを重ねることで、「2022年くらいから、ようやく一枚岩となってきて、フランケンシュタインのようなつぎはぎロボットのような状態から、本当に超合金合体マシーンのように機能するようになってきました」と手応えが。それを象徴するコンテンツが、この年に制作を担当した、元テレビ東京の佐久間宣行氏プロデュースによる『トークサバイバー! 〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』(Netflix)だった。
「佐久間さんとはテレ東時代から『あちこちオードリー』を制作してお付き合いがあったのですが、『トークサバイバー!』はドラマとバラエティが一体になった番組なので、弊社がドラマとバラエティの両方のプロダクション機能を持っているということで、お話を頂きました。Netflixも、ドラマ部分とバラエティ部分を別々の会社に発注することは想定していなかったようで、両ジャンルをしっかりつくれるプロダクションとして選んでいただいたのだと思います」
『トークサバイバー!』は今年2月にシーズン3の制作も決定する人気シリーズとなり、「どんどん規模も大きくなっていって、売上としてもインパクトのある作品になりました」と、ターニングポイントの1つになった。
2022年は、人気バラエティ番組『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ)がレギュラー化した年でもある。翌年には、大型特番『FNS27時間テレビ』のメイン番組となって結果を残し、コア視聴率(13〜49歳)の強さが評価され、同局の「社長賞」も受賞するなど今やフジの看板番組となっている。
●成長の背景は人材をそろえる「組織力」
現在は、所属する林博史氏が総合演出を務める『THE神業チャレンジ』『熱狂マニアさん!』(TBS)、『何を隠そう…ソレが!』(テレビ東京)をはじめ、『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』(NHK)、『かまいガチ』(テレビ朝日)など、各局の番組を制作。レギュラー番組は16本を数えるが、なぜ、これだけの案件を受けることができるのか。
「今、プロダクションに求められているのは組織力だと思います。特にバラエティ制作ではAD(アシスタントディレクター)さんやAP(アシスタントプロデューサー)さんなど、制作を下支えする人材をしっかりそろえられるかが実は重要なんです。人材の出入りが激しい業界なので、ADさんがいないから番組を受けられないという機会損失が頻繁に起こるんです。当社は370人ほど社員がいるのですが、平均年齢が27〜28歳と若く、活きのいいAD、APさんをたくさん抱えています。ここが、業績を伸ばすことができた原動力だと思います」
2018年頃からテレビ業界でも働き方改革が声高に叫ばれるようになり、AD1人あたりの業務量が減少しつつあったことから、おのずとADの頭数を増やさなければならない状況が出てきた。森田社長はそれを見越して、16年に人材派遣会社・WISENLARGEを設立(22年にUNITED PRODUCTIONSと統合)。現在はテレビ業界に200人を超える制作人材を供給しており、「ほかのプロダクションも含めた業界全体の人材不足の解消も担っていくという気概で立ち上げたのですが、この働き方改革の流れに上手く乗れました」と捉えている。
激務で知られたAD業務だが、業界全体で改革が進み、「ここ1〜2年で離職率はすごく下がりました」とのこと。一方で、ADの負担が軽減された分、ディレクターにしわ寄せが来ている現状もあるそうで、「そこの解決はこれからの課題です。この業界はまだまだ非効率なところがたくさんあるのは事実ですが、コロナ禍で様々な業界慣習の改善が図れた部分もあったり、やれば必ずできるはずなので一つ一つ改善していかなければいけないと思います」と意欲を示した。
○海外共同制作のヒューマンドラマを発表
従来のテレビ番組制作に加え、23年4月にグローバルターゲットの映像制作を行う「TOKYO ROCK STUDIO」を設立し、今年3月にはホラー専門のクリエイティブカンパニー「闇」と資本業務提携を締結するなど、次の一手に続々と着手している。
TOKYO ROCK STUDIOでは、海外共同制作の開発がすでにいくつか進んでおり、今月1日には、ハリウッドや日本のトップクリエーターが集結し、世界に初めて原爆の真実を伝えたアメリカ人ジャーナリストのジョン・ハーシーと広島の谷本清牧師のヒューマンドラマを描く劇映画『WHAT DIVIDES US』(原題)の制作発表会見が広島で行われた。
「テレビが緩やかにシュリンク(縮小)していくのを何もせずただ傍観するのではなく、先を見越した指針として “グローバル戦略”と“IP(知的財産)戦略”を掲げました。一朝一夕に成し得ることではないので、2022年から事業が盤石になって勢いがあるうちに、そこにチャレンジしていこうというものです」と狙いを明かす森田社長。
さらに、「映像のヒットコンテンツをもっと作っていくためには、今のリソースだけでは足りません。“グローバル”と“IP”というテーマでしっかりと実績を作っていく必要があると思っています」と、今後も積極的にM&Aを進めて事業規模を拡大していく方針を示した。
●大手総合商社からテレビ業界へ「一度しかない人生だから」
森田社長は、新卒でテレビ局を第一志望にしたが縁がなく、海外での仕事を希望して第二志望だった総合商社の丸紅へ2001年に入社。花形部署である飼料穀物課に配属されたが、海外赴任まで6年間ほど時間を要すると聞いた上、テレビ制作会社に入社した幼なじみから聞く仕事の話がいつも楽しそうだったという。
そんな中、9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が発生。人生観を変えられた森田社長は「一度しかない人生だから、やりたいことをやろうと思って一念発起しました」と丸紅を入社9か月で退社し、幼なじみの口利きもあってシオンに転職した。
『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ)のADからスタートすると、「やっぱりテレビのほうが、水が合ってましたね。手取りは3分の1以下ほどになりましたが、やりがいがありました」とすっかりハマり、3年後にはディレクターに昇格。
大手商社での経験は短いながらも大きかったそうで、「社会人の基礎を学ばせてもらえたので、ADの中ではそれが結構アドバンテージになりました。また、先輩のディレクターたちから本当にたくさんのことを教えてもらいましたが、一方で職人気質のため欠けている部分もあって(笑)、そこを絶妙に埋めるという自らの力が生かせるポジションを上手く見つけられ、順調に駆け上がっていくことができました」と充実のテレビマン人生を送る。6年在籍したシオンを退社すると、フリーの期間を経て、フーリンラージを設立した。
○至極正常な「コンテンツが正しく評価される時代」に
そんなテレビ愛を抱く森田社長は、近年「オワコン」とも言われ、大きな曲がり角に差しかかるテレビ業界をどう見ているのか。
「私はまだまだ全然可能性があると思います。昔みたいに世帯視聴率20%をとる番組がどんどん出てくるというのは難しいですが、『不適切にもほどがある!』(TBS)や『VIVANT』(同)など、しっかりヒットが出る構造になっているし、社会現象を巻き起こすほどの影響力があるのは、やっぱりいまだにテレビが一番ですよね。ただ、“テレビ局至上主義”から“コンテンツ至上主義”に時代がシフトしてきている。テレビで流れているからなんとなくみんなが見ているという時代から、本当に面白いコンテンツだから見る。一方、面白くないものは全く見られない。これは至極正常で、コンテンツが正しく評価される時代になったと思っているんです」
コンテンツの評価が、デバイス間にとどまらず、国境を越えて行われるようになった今、「“日本のテレビ”だけで切り取ると狭いけど、世界規模で見ていくと、コンテンツのマーケットはむしろ広がっているので、そこに勝機があるはず。戦いの場を世界に移せば競合も増えるし、相手は世界レベルに。より戦いは厳しくなっていくことは必至ですが、世界の舞台で打ち勝てるように、私たちは“日本一のコンテンツサプライヤーになる”というミッションを掲げています」と決意を語っている。
●森田篤1978年生まれ、埼玉県出身。幼少期を米国で過ごし、早稲田大学卒業後、01年に丸紅入社。同年12月に退社し、02年にテレビ制作会社・シオンに転職。『ぐるぐるナインティナイン』『行列のできる法律相談所』などの制作に携わり、08年に映像制作プロダクション・フーリンラージを設立。『しくじり先生 俺みたいになるな!!』『櫻井・有吉THE夜会』『マツコの知らない世界』などの番組や、映画、CM、MVなど映像制作事業を展開する。19年にKeyHolderグループに入り、傘下の制作会社と合併してUNITED PRODUCTIONSに社名変更。現在は同社代表取締役社長のほか、親会社であるKeyHolder取締役副社長、UNITED PRODUCTIONSの子会社であるTechCarry及びmacaroniの取締役も務める。

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