プロ野球、5000人の有観客試合 ゆとりとにぎわいのバランスが“ちょうどいい”件

8月5日(水)12時0分 文春オンライン

 文春野球コラムをお読みのみなさんは「有観客試合」に行かれましたでしょうか。プロ野球は上限5000人という制限のもとでの開催ですが、今のところ「超満員」とまでは言えません。チケットは一応売り切れるところまでは行くものの「落選祭り」というほどではなく、最後まで粘れば公式リセールサービスなどで翌日・当日のチケットを拾うこともできます(※名誉のために名前は伏せますが、粘らなくても当日まで普通に買える球団も存在してオリッマス)。じっくり取り引き価格を見ていると球団によっては定価割れのケースも散見されます。


 プロ野球では8月1日から「収容人数50%」での開催を目論んでもいましたが、見直しの判断は適切だったと言えるでしょう。各地が感染拡大の傾向にあることもそうですが、巨人・阪神のような一部超人気球団以外はおそらくその枚数のチケットをさばき切る状況にはまだないのではないかと思います。「絶対行きたい」と思えば行ける……上限5000人が「ちょうどいい」くらいの世情であると感じます。


 この「ちょうどいい」こそが有観客試合を端的に表すキーワードではないでしょうか。


 去る7月25日、僕自身も「観客」として埼玉西武ライオンズの試合を観戦してきました。今シーズン初、そして一連のコロナ禍以降ではその他の競技を含めて初となる「観客」としての観戦です。その体験は率直に言って素晴らしく、「ちょうどいい」ものでした。ようやく野球の試合をこの目で見られたという嬉しさはもちろんですが、観戦体験そのものの心地よさがグッと増していました。



あいにくの雨のなかではあるけれど「観客」としての喜びに震える訪問


「ちょうどいい」ことだらけの有観客試合


 もはや対策については世間一般でも標準化してきていますが、待機列などにおいて距離を取るソーシャルディスタンス、検温・消毒の徹底、マスクの使用、接客にあたる職員をビニールカーテンで保護するなど安心感のあるものです。メットライフドームは球場本体も隙間があいている落としブタ構造ですので、観戦時に取り立てて「密」と言える環境はありません。


「密」を避けた結果として率直に実感するのが、どれだけ「密」が不快であったのかということ。何をするにも人数が多く、人とぶつからないように気遣うことや、順番待ちをすることの連続。電車はすし詰め、売店は行列、球場では黒豚シウマイのように箱にギッチリと押し込められ、トイレの前では漏れそうな人が震えています。混雑による高揚感がないわけではありませんが、それは常に不快を伴うものでした。夏の暑さのように「気分も上がるが、不快でもある」という。


 それが有観客試合ではどうでしょう。行列はあっても短くすぐにさばける程度のものですし、さばき切れずに人が滞留してしまうことはありません。心なしか球団の職員さんたちにもゆとりがあり、普段なら絶対に放置されるだろうなぁと思う案件にも丁寧に対応してもらえます。


 たとえば客にレンガを売りつけようと躍起になっている「Lions BRICK CIRCLE PROJECT」の販売テント。こちらメットライフドーム前広場に自分の名前を入れたレンガを敷設してもらえるというサービスです。レンガ代、1個19,800円(税込)。テントでは担当の職員さんが熱心にセールスを展開してくれます。僕ひとりにふたり掛かりでセールスしてきます。電気量販店だってこんなに熱心にはやってくれないという勢いです。さすが、レンガを19,800円で売ろうとする男たちの目の輝きは違う。


 僕も検討にあたり実物を見てみたいと思っていたので、この機会にじっくりとレンガを観察させてもらいました。ずっしりとして、まさに「レンガ」といった重量感ある塊と、ちっちゃいフォントで深く明確に刻印される名前・シリアルナンバー・ライオンズのロゴ。「思ったよりしっかりしてる」「これなら10年くらい壊れないかも」「三匹の子豚のブタなら即決のレンガ」という納得感。担当の人は「オードリーの春日さんも買ってくれたんですよ」などと熱心なアピールを僕ひとりに展開してくれています(※「えっ春日さんが! じゃあ買います!」とはならないが……どんな品物でも……)。


 通常なら「視察」段階では見るだけでそそくさと撤退するのですが(※買うならどのみちネットだし)、これだけゆとりがあるならひとつふたつ質問してもいいだろうとコチラからも話し掛けます。「一応検討はしているんですが……すぐに売り切れちゃいそうですかね?」と勇気を出して聞いてみました。あぁ、すみません! お忙しいなかで質問なんかしちゃって! ほんと、お忙しいなかすみません! そして「販売期間の最後まで大丈夫だと思いますよ」のご回答ありがとうございました! じっくり検討します!


 そして不勉強な客に対するサポートも充実しています。お土産に買おうと思っていた今季から新登場の「らいおんず十万石まんぢゅう」。これがグッズショップのお菓子コーナーに見当たりません。店員さんに聞くと売り場が違うとのこと。「グッズショップのお菓子売り場じゃなけりゃ逆にどこなんですか?」と思いつつ、「あっちの店です」というアドバイスを受けてさらに探しに向かいます。


 指差された「あっち」方向にグングン進んでいくと、これまた今季から新設のチームストア獅子ビルが見えてきました。なるほど新しいショップがあるのだなと思って突入するも、そこにあるのは食堂とゲームセンター。まんじゅうの気配はありません。入場口の職員さんに「まんじゅうは一体どこなんですか!?」と尋ねると、警備員さんの無線まで使って懸命にまんじゅうの場所を探してくれます。


職員「客なら調べてから来いよ……」


観客「まんじゅうの場所ぐらい周知しとけよ……」


職員「お前がいじっているスマホで今調べろよ……」


観客「まんじゅうの看板くらい立てとけよ……」


 と、心のなかで互いを罵倒する神経戦(※向こうは違うかもしれない/一方的な被害妄想)。情報をあっちゃこっちゃ探った末に教えていただけたのは、球場の弁当を売るブースで試合開始1時間後から売るというお話でした。なるほど、あとでちゃんと見たら球団の公式サイトに書いてありました。弁当と同様に事前予約も可能なので絶対欲しい人は予約してね、というご案内とともに。


 公式サイトをちゃんと読んでこない客への丁寧な案内と、数量限定ではありながらも当日ちゃんと並べばちゃんと買える程度の人混み具合。「ちょうどいい」なと思います。事前にしっかり調査と準備をした人しか得られない楽しみでは「広がり」というものがありません。まんじゅうひとつとってもそう思います。いやー買えてよかった!


まるで心地よいカフェのような空間


 いざ入場後。座席は前後1列と左右2席があいており、十分にゆとりのある距離感が保たれています。トイレだってできるならほかの人と「個室ひとつ以上」「小便器ひとつ以上」の隙間をあけて使いたい派としては、ようやくあるべき状況が始まったという気分。ずっとガマンしていただけで「隣に知らない他人」がいるというのは猛烈なストレスでした。ちょこちょこ太ももを当てられるのもイヤでしたし、「あなたが使っているドリンクホルダーは本来僕の席のヤツですよね?」という苛立ちもありました。


「隣の人が清潔感のある穏やかな人でありますように……」という切なる願いを込める隣席ガチャ(※お互い様でしょうが)。列のド真ん中に入ってしまったときの憂鬱と、トイレに行く回数を減らすためにビールを控えるような何しにきたんだかという本末転倒の行動抑制。そういったものがすべて霧散し、「うわー!」「いい!」「これすごくいい!」と興奮するほど。ただ前後左右に誰もいない、それだけのことで。


 前後左右のストレスがないことで試合にも集中できますし、食事やトイレもスムーズにこなすことができ、快適さはうなぎのぼり。唯一心配していた「寂しいのではないか」という懸念も、思った以上に5000人でも「にぎわい」は感じられます。当然です。ここに集まっているのは、世間的には決して大賛成を受けている行動ではないものに、リスクを冒して集っている「どうしても来たかった5000人」なのです。少数ですが精鋭です。楽しむことへの意気込みが違う。


 無用な雑音がないことで拍手や歓声はむしろよく響いてさえいます。応援の声も通常音量で抑制されながらほどよく聞こえてきますし、逆に場内アナウンスや「球音」などの本当に重要な音はしっかりと聞き取れます。3万人のざわつきのなかだとタイミングによってはよく聞き取れないアナウンスもあったりするものですが、5000人ではそういったことがありません。「聞きたい」ものに全員で耳を澄ます、「見たい」ものに全員で注目する、そんな一体感がありました。


 それはまるで心地よいカフェのような空間でした。カフェが備える、ゆったりと落ち着ける空間、うるさくない程度に流れる音楽、大事な会話や勉強に集中できる環境が、ついに野球場にも訪れたのです。心地よく落ち着いた環境によって、試合中にひたすら大声をあげつづける埼玉西武ライオンズ山田遥楓選手が単独ドームライブでも開催しているみたいに目立っていたことだけ気になりましたが、それ以外は本当に素晴らしかった。快適でした。


 そして、それは野球だけの話ではありません。後日、別口で出掛けた大相撲でも心地よさはまったく同様でした。ゆったりとした環境と、ほどよい「にぎわい」のなかで観戦に集中することができました。カフェでは勉強や仕事がはかどるように、「あえてゆったりさせてある心地よい空間」のなかでは観戦もはかどるのだなと実感しました。長いスポーツ観戦歴のなかでも、際だって印象に残る「素晴らしい体験」でした、「有観客試合」というのは。


 この観戦体験をぜひもっと多くの方に経験していただきたいものです。球団側は「できるだけ早くもっと多くのお客を入れたい」と思っているでしょうが、今の「有観客試合」のバランスが実はとても素晴らしいものであるということを多くの方が経験すれば、今後の日本のスポーツ観戦体験というのも変わってくるはずです。


 金の計算だけをすれば「詰め込み」に走りがちですが、「有観客試合」の快適さには単価が上がってもよいと納得できるだけの価値がありました。実体験として実感しました。いまだ感染拡大がつづくなかでの「一時的な措置」としての人数を絞っての開催は、この素晴らしい体験を安価にお試しできるチャンスです。リスクの観点で言っても、ワクチンや特効薬ができない限り、今よりも「いいタイミング」はありません。今より観客が少ないパターンは無観客ということですし、「上限50%」など今より多いパターンはリスクも同時に高まるということです。今が観戦に「ちょうどいい」機会。ぜひ、「有観客試合」という稀有なる機会をより多くの方に体験していただきたいものです!


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(フモフモ編集長)

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