柳楽優弥、有村架純、三浦春馬と過ごした夏。黒崎監督「青春を精一杯生きている若者たちを撮って」

8月5日(木)13時40分 婦人公論.jp


「震災から10年たった今、このテーマを世の中に問うていかないと、震災も戦争もどんどん忘れ去られていってしまう」(撮影:本社写真部)

今年も8月6日、広島の原爆記念日がやってきます。第二次世界大戦末期、世界で初めて原子爆弾の被害者になった日本人が、同じく原爆開発をしていたという事実が、若い科学者の日記からひもとかれました。忘れてはいけない事実を作品にするため、長年にわたり温めてきた黒崎博監督に、主演の柳楽優弥さん、有村架純さん、三浦春馬さんとの撮影秘話や、作品に込めた思い、映像を撮る面白さや苦労を聞きました。(構成=内山靖子 撮影=本社写真部)

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偶然、目にした日記から始まった


この『映画 太陽の子』という作品を撮ることになったのは、まさに偶然の出会いがきっかけなんですよ。

ひとつの作品を撮り終えると、僕はいつも、図書館や大きな本屋さんに行って、1時間、2時間と、あてもなく歩き回るのが習慣になっています。そこに並んでいるたくさんの本の背表紙を見て、時々、手に取ってみたりする。そうすることで、自分の頭の中が整理されたり、ふと手に取った本の中に面白いテーマが書かれていたりとか。脳内整理をすると同時に新たな出会いを求めて、そうした時間を設けているのです。

『映画 太陽の子』のベースとなる若き科学者の日記の断片を見つけたのも、ちょうどそんなときでした。広島であるドラマの撮影を終え、県立図書館の片隅をブラブラと歩いているときに、たまたま手にとった何冊かの中に、この映画の主人公となる若い科学者が、太平洋戦争が最終局面を迎えた頃に綴っていた日記の断片を見つけて、「なんだ、これは?」と、目が釘付けになってしまって。

本当にまったくの偶然だったのですが、彼が残した日記に何か引っかかるものを感じて背景や周辺を調べてみたところ、その日記の断片の前後を持っている方にたどりついた。さらに、当時、修が研究をしていた京都帝国大学物理学研究室の他のメンバーが書いた研究ノートも見つかった。

最初は、これが物語になるかどうかもまったくわからなかったので、他の作品の撮影の合間に関係者の方々の話を聞きに行っているうちに何年もたってしまった……。じょじょに全貌が見えてくるにしたがって、この日記に書かれていることは絶対に物語にしなきゃいけないと強く思うようになりました。


研究者たちは、昼夜を惜しんで原子の力を利用した新型爆弾を開発していた (C)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ

なぜ、そう思ったかと言えば、ひとつは、この日記に、日本も原子の力を利用した新型爆弾の研究をしていたと書かれていたこと。日本は原爆の被害者だとばかり思っていたのが、加害者になる可能性もあったのだ、と。それまで自分がまったく知らなかった秘密の歴史に強く惹かれたんですね。

現代でいうAIやゲノム開発のような研究だった


もうひとつは、彼の日記から、若い科学者たちが生き生きと研究に取り組んでいる姿が想像できた。彼らが取り組んでいた原子物理学は、当時はまったく新しい学問で、今で言えばAIやゲノム開発といった、将来、どこにつながるかわからない未知の学問だったはず。この青年たちは、その新しい学問の魅力や魔力のようなものに惹かれている——その高揚感を日記から感じて、僕自身もワクワクしたのです。

もちろん、歴史の結果から見れば、核兵器につながる研究は非常に罪深い研究でもある。でも、そこに希望の光を見出している若者たちの思いとのギャップに興味が湧いて、その事実を伝えることはとても大事なことなのではないかという思いから、一つの作品として映画にできないかと考えました。

とはいえ、その思いを実現させるのは、正直な話、苦難の連続でした。科学をテーマに映画を撮るには、美術セットにも膨大なお金がかかります。さらに、「核兵器」をテーマに描くことにアレルギー反応を示す人が想像していた以上に多かった。企画の途中段階で東日本大震災が起こり、原子力を利用することの意味が問われたことで、ますますデリケートな問題になってしまって……。

でも、福島の原発で事故があったからこそ、このテーマを絶対に作品にしなければという思いが、僕の中ではどんどん強くなっていきました。震災から10年たった今、このテーマを世の中に問うてていかないと、震災も戦争もどんどん忘れ去られていってしまう。だからこそ、今やらなきゃいけないという僕の思いに賛同してくれるプロデューサーやスタッフが少しずつ集まってきてくれて、2019年の夏にようやく撮影を開始することができたのです。

「やっと、この作品を撮り始めることができるんだ」と、撮影初日は感無量でした。戦争という暗い時代背景や核兵器の是非といった深刻な問題もはらんでいますが、それでも自らの青春を精一杯生きている若者たちの映画を撮っていけるということが、僕にとっては本当に嬉しかったのです。


「実は、出演交渉をしたときには、この映画が実現するかどうか、まだ目途が立っていなかったんですよ」

主演の3人は「この人しかいない!」


スタッフに限らず、出演してくれた俳優のみなさんも、この映画のテーマに共鳴してくれたのがありがたかった。

日記を書いた科学者をモデルにした主人公は、実験バカで、研究への情熱があふれるあまり、〈狂気〉さえも感じさせる石村修。この役を演じられるのは柳楽優弥くん以外に考えられないと脚本を送ったところ、翌日すぐに電話をくれて、「ぜひ!」と。そう言ってくれた気持ちが本当に嬉しかった。期待通りの、いや、期待をはるかに超える素晴らしい演技を見せてくれました。

そして、修の弟・裕之を演じる三浦春馬くんと、兄弟が思いを寄せる幼馴染の有村架純さん。この2人もそれぞれ「この人しかいない!」と言う思いで出演をお願いしました。 嬉しかったのは、みなさん、非常に難しいテーマだということはわかっていながら、「やります」と即答してくれたこと。

実は、出演交渉をしたときには、この映画が実現するかどうか、まだ目途が立っていなかったんですよ。それでも、この3人が集まってくれたことが、撮影を前進させる大きな原動力になりました。

有村さんは、僕が演出を担当した朝の連続ドラマ『ひよっこ』のときから、演じることに対してあえて何も武器を持たず、体ひとつで思い切りぶつかっていくタイプ。今回の役も「自分が生きたことのない時代なので、とても難しい」と、おっしゃっていたけれど、最終的にカメラが回ると、自分が感じた思いをすべてぶつけるように演じてくれました。

春馬くんにすべてを委ねて


三浦春馬くんともたくさん話し合いました。過酷な戦場を体験した裕之は軍人として死と隣り合わせにいるからこそ、毎日を愛おしく思って生きている。期限付きの命だと自分でわかっているからこそ、笑顔で精一杯生きる。初めて春馬くんと会ったとき、「全力を傾けます」と言ってくれ、この役がなぜ自分なのかということもわかってくれていた。

楽しいシーンはいかに楽しいか、つらいシーンはどれだけ苦しい思いを抱えているかということもお互いに確認し合ったうえで、あとは春馬くんにすべてを委ねることができました。

さまざまな想いを抱え春馬くん演じる裕之が海に入っていくシーンは一発撮り。京丹後の海で、朝、太陽が昇ってくる前のわずか5分程度しかないマジックアワーを狙うと決めていたので、撮り直しが効かない。スタッフも役者さんたちもかなり緊張していましたね。

撮影当日は予想以上に波が高くて、「マジか〜?」って感じだったのですが(笑)、柳楽くんと春馬くんの身体能力が素晴らしかった。足元の引き波が強く、体にも波がバンバン当たって来る中で、迫真の演技を見せてくれて。


さまざまな思いに揺れる3人。夜明けの海での一発撮りは波も強く過酷だったが、とても印象的なシーンに (C)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ

こんな素晴らしい俳優さんやスタッフのみんなと、作品の舞台になった京都の町や海辺で合宿しながら撮影できたのも本当に幸運でしたね。キャストもスタッフも車座で一緒に食事をしながら、明日のシーンに関する真剣な話もしたし、馬鹿話もたくさん。そんなかけがえのない時間が、この作品をいっそう豊かにしてくれたのだと感じています。

幸運と言えば、14年から、故郷の長崎で被爆樹木に新たな命を吹き込む「KUSUNOKIプロジェクト」の活動を続けている福山雅治さんが主題歌を引き受けてくださったのもありがたかった。編集がほぼ上がっていた段階で何度も観ていただき、素敵な曲を提供してくださり、本当に感謝しています。

ダサイ演技もできる吉沢亮


みなさんの力のおかげで、『映画 太陽の子』を完成させた後、僕は今、大河ドラマ『青天を衝け』の演出を手掛けています。主人公の渋沢栄一は歴史上の偉人ですが、いわゆるスーパーヒーローではなく、お百姓さんから出発して実業家になった、ごく普通の「庶民その1」だと僕は思っているんですね。

だから、あまり大上段に構えるのではなく、自分たちと同じように生活している人たちの目線を忘れないように描きたいと思っています。

その渋沢栄一を演じていてくれているのが吉沢亮くん。ご存じのように、彼はとってもカッコイイでしょう。でも、そのカッコよさを自分の武器として身構えていないのが素晴らしい。ダサイ表情やしぐさも、ごく自然にやって見せてくれる。それも、決して無理に3枚目を演じているわけではなく、「僕の中にこういうところがいっぱいあるので、ラクなんです」と、あっけらかん。

吉沢くんならもとっといくらでもカッコつけて演じられるはずなのに、そんな気持ちは微塵もなくて。そんなところが、名誉欲や自己顕示欲のために人の上に立ったのではない渋沢栄一のキャラクターと重なっている。この作品を、ひとりの庶民の目線で描いて行こうという趣旨にも、吉沢くんはぴったりなんですよ。

この『青天を衝け』や朝の連ドラ『ひよっこ』など、僕は大学卒業後にNHKに入局し、一職員としてこれまで数々のドラマを手掛けてきました。そもそも、「ドラマの演出をしたい」という思いでNHKに入ったものの、最初の数年間は教育番組を作るセクションに配属されて、合唱コンクールなど、歌番組の演出のアシスタントをしたり、ドキュメンタリー番組の制作に携わったり。

今、思えば、教育番組を作っていた時代に様々な出会いがありました。素敵なカメラマンの方と知り合ったり、仕事を通じてお世話になった北海道の農家の方の姿を10年後に短編映画にさせていただいたりとか。そんな数々の経験が、現在、ドラマや映画の際にも生かされているように感じます。

ありがたいことに、今回の『映画 太陽の子』のように、時折、NHK以外のスタッフの方々と一緒に仕事をする機会にも恵まれています。立場を超えて演出の仕事ができることに感謝しながら、これからも自分が撮りたい作品を作り続けていけたら最高だなと思っています。

婦人公論.jp

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