『竜とそばかすの姫』キャスティングの決め手は何よりも「温かさ」 岩崎良美×細田守×清水ミチコ

8月5日(木)13時20分 婦人公論.jp


左から清水ミチコさん、細田守さん、岩崎良美さん(撮影:清水朝子)

作品を発表するごとに、国内外で評価を高めてきたアニメーション映画監督の細田守さん。清水ミチコさんは監督の最新作『竜とそばかすの姫』で声優として出演、歌声も披露します。主人公の女子高生・すずを見守る合唱隊員をともに演じた岩崎良美さんと共に監督になぜ二人をキャスティングしたのかを尋ねれば、決め手はとても深いところにあるものだったようで——(撮影=清水朝子 構成=本誌編集部)

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仕事はバラバラでも歌ったら一気に仲良くなった


岩崎 私たちって、アフレコ(音入れ)の場では合唱隊員役の5人か、すず役の中村佳穂さんとしかご一緒しなかったじゃない? でもこの5人のキャスティングが、とにかくバラエティーに富んでて。

清水 私たちと坂本冬美さん、中尾幸世さん、そして森山良子さん。仕事はバラバラなのに、歌ったら一気に仲良くなった。キャスティングはどうしてるんですか。

細田 もともと僕は、声優さんに限定したくなくて。特に合唱隊の役は、さまざまな分野で歌ってらっしゃる方にしたかったんですよ。

清水 さまざまな分野! 「歌手に交じって、なにをシレッと引き受けてるんだ」って言われたりして(笑)。私は監督の『おおかみこどもの雨と雪』を映画館で観て以来、ほかの作品もDVDで揃えたほどのファンなんです。

細田 うわあ、それは嬉しい。ありがとうございます。

岩崎 じゃあ、出演のオファーがきたとき、嬉しかったでしょう。

清水 めちゃくちゃ嬉しかった。岩崎さんも同じだと思うけど、コロナでライブが次々飛んじゃって。なんて寂しいんだ、と思ってたときにオファーをいただいたことも、大きな喜びでした。

岩崎 私は昨年が歌手デビュー40周年だったんですよね。記念ライブができないまま今年に突入しているので、ずっと周年状態が続いてるような気分。(笑)

細田「直接お伝えしないと、失礼な気がしますから」


清水 私たちのアフレコは、つい最近終えたばかりですけど、7月16日の公開まで1ヵ月半を切りましたよね。もう完成しましたか。

細田 あははは。そうですねぇ、いまの時点で65%かな。(笑)

岩崎・清水 えーっ?

岩崎 いまはどういう作業をしているところなんですか。

細田 まだ、動きのアニメーションをつくる段階で。この作品では、すずが住む自然豊かな高知の村、という現実世界と、超巨大インターネット空間の仮想世界〈U〉、この2つの世界を描くわけですけど、現実世界のほうは9割8分くらい終わったので安心してください。

清水 〈U〉がまだ描けていないということか……(笑)。公開日に間に合うものなんですか。それとも、これが普通なんですか。

細田 7月公開の作品だとさすがに6月には完パケ(完成し)てないといけないので、これでもちょっとは延ばしてもらってるんです。

清水 理由はやっぱり……、

細田 コロナの感染対策ですね。いつもだったら1週間で録るアフレコも、12日間かけて行いましたし。ほら、ブースがひとつひとつ区切られていたでしょう?

清水 アフレコの部屋まで人数制限すると、いちいち手間がかかるでしょうね。それなのに監督は毎回ブースのなかまできてくださって、感激しました。普通はマイクの向こうから、「もっと感情込めて! はい、もう1回!」みたいに言われるものなんですよ。全員に丸聞こえ。(笑)

岩崎 傍まできて、小声で「ここはすごくよかったと思います。とらえているところはいいんですよ」って言いながらね。恥をかかせないように。

清水 監督は人を傷つけたことないんだろうなあ、と思っちゃった。

細田 いやいや、まったくそんなことはない(笑)。ただただ、人物に命を吹き込んでくださる方々への敬意の表れです。直接お伝えしないと、失礼な気がしますから。

外見のミスマッチよりもっと深いところを


岩崎 実は私、声優としての仕事は、これがほぼはじめてで。

清水 えー、意外。岩崎さんって声の仕事が多いイメージだった。

岩崎 ナレーションの仕事は多いんですけど、映画に声優として出演するのは、これがデビュー作。

細田 僕は子どもと一緒に『おさるのジョージ』をリアルタイムで見てまして(笑)。語り手の岩崎さんの声が素晴らしくて、絶対にこの「中井さん」役にぴったりだと思ったんです。

清水 キャスティングの決め手は、やっぱり声ですか。

細田 中井さんの見た目は、なんというか、ギャルっぽい(笑)。観客はその先入観で作品を観ていくわけですけど、作品の後半で彼女の職業が明らかになる。そういう二面性を表すのに、岩崎さんの声がぴったりだと思ったんです。

清水 これまで私にくる役は、ガサツな中年女性ばかりで(笑)。だから「喜多さん」というデリケートな役どころはすごく意外で嬉しかったです。

細田 見た目の話で言うと、喜多さんはちょっとふっくらした女性。それをあえて清水さんにお願いするのが、我ながらいいんじゃないかと思ったんですよ。引き受けていただけてすごい自慢。(笑)

岩崎 監督は外見のミスマッチより、もっと深いところを見てらっしゃるんですね。

細田 そう、大事にしたのは「温かさ」でした。あの5人は、すずの亡くなった母親が所属していた合唱隊のメンバー。だからみんなすずのことを娘のように思ってるんだけど、なかでも一番ストレートにすずへの愛情を表現するのが喜多さんで。そういう、誰かを大事に思っている人ならではの温かさが、清水さんの面白さとすごくマッチするんじゃないかと勝手に思ったんです。

清水 疑似お母さん感だ。

岩崎「セリフはキーが決まってないので歌より難しい」


細田 芝居ができることは、もちろん最低限の条件です。でも、さまざまな表現で成り立つのが映画なので、その方の存在感や人間性が表れるものだと僕は考えていて。特にお2人は一緒のシーンが多かったので、声のコンビネーションとかお芝居の対比が素敵でした。僕は本当に鳥肌が立ちました。

清水 わー、よかったね。(笑)

岩崎 うん、よかった。私は歌と比べると、セリフを言うほうが圧倒的に難しく感じるから。

清水 歌うほうがラクなの?

岩崎 なぜかと言うと、セリフはキーが決まってないから。

清水 あははは。面白いこと言う。

岩崎 歌って、キー決めが一番大事じゃないですか。この部分を自分の好きな声で響かせたい、と思うからキーをしっかり選ぶ。でもセリフは「どうぞご自由に」だから、すごく考えさせられる。私、アフレコ当日もめちゃくちゃ緊張してたんですよ。

細田 それは意外。全然わからなかった。

岩崎 緊張魔なんです。本番でも、手がガタガタ震えるタイプ。

毅然として〈歌わなかった〉オーディション


清水 それは、なにか大きな失敗をした経験があったとか?

岩崎 そういうわけじゃないんだけど……、私、三姉妹の末っ子なのね。真ん中の宏美が『スター誕生!』でデビューが決まったのを見て、ただお姉ちゃんのまねっこをしたくて16歳でこの業界に入っただけみたいなところがあって。だから、この歳になってもどこか甘いんですよ、きっと。

清水 自分に厳しい! そんなふうには見えなかったなあ。

細田 岩崎さんは、僕らにとって青春を彩る歌声の象徴なんですよ。明るい太陽みたいな。だからか、緊張とは結びつかなかった。

岩崎 あるミュージカルのオーディションで、「あなた、そんなに緊張して歌われたんじゃわからないから、もう一度歌って」って審査の方に言われたことがあるんですよ。でも、「いいえ、もう一度歌っても同じだと思います」って歌わなかった。(笑)

清水 あははは。その言い方! 毅然として弱い!(笑)

細田 面白いなあ、その話。人に勇気を与えるエピソードだと思いますよ。岩崎さんが毅然としすぎてる。

岩崎 そうなんですよね。もう威張って、「何度歌っても同じです!」って。

細田 でも、ちょっとわかってきた気がします。岩崎さんの歌声やキャラクター、変わらない明るさに励まされる僕みたいな人が多いから、そういう期待に応えなきゃいけないところがあるのかも。

岩崎 プレッシャーは、多少感じてるかもしれません。

細田 それって、大変なことだと思いますよ。

<後編につづく>

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