神秘さと不思議さに驚くこと……レイチェル・カーソンが残した「人間に絶対必要なもの」をアートで感じる

8月8日(土)12時0分 文春オンライン

 ああ、そうだった。いま私たちに不足しているのは、自然を含むこうした外界との交わりだったな……。


 コロナ禍で仕方のない面が多いとはいえ、富士山を近くに望む地に佇むヴァンジ彫刻庭園美術館に足を運ぶと、改めてそんな思いに駆られる。


 クレマチスやバラの咲き誇る広大な庭園の中にある同館では現在、7人のアーティストによるグループ展「センス・オブ・ワンダー もうひとつの庭へ」を開催中だ。


レイチェル・カーソンの教えに導かれて


 展名の「センス・オブ・ワンダー」という言葉には、出典がある。


 環境破壊に警鐘を鳴らした『沈黙の春』の著者として知られる、海洋生物学者のレイチェル・カーソン。彼女の生涯最後に上梓した本が、この名を冠しているのだ。


 直訳すれば、神秘や不思議さに驚き、畏れを抱く感受性といった意か。自然の営みに触れ、そこから何かを感じ学び取ることが、人の感性を育むには決定的に重要であることを同書は説いている。


 センス・オブ・ワンダーという考えに、最もよく共鳴できる存在はアーティストなのではないか。今展はそんな仮説に基づき、会場に設えたアート作品を通して、センス・オブ・ワンダーを表現しようと試みている。


 テリ・ワイフェンバックは、自然が織り成すシーンの一部分をクローズアップして、写真に留める作品で知られる。小鳥の羽ばたきや草花の揺れる様子がごく身近に感じ取れる写真の美しさには、思わず目を見張ってしまう。



テリ・ワイフェンバック《Centers of Gravity》より 2017年 ©Terri Weifenbach


 テリ・ワイフェンバック作品に呼応するような写真を展示しているのが、川内倫子である。以前にこの美術館界隈で撮影したという作品が並んでおり、いずれの画面にも光が横溢していて眩しい。


世界を肯定したくなる作品群


 会場には、多彩な絵画作品も並ぶ。須藤由希子の《枯れあじさい》は、自然界に溢れる線の美を再確認させてくれる。向かい合う壁面に掛かっているのは、杉戸洋《the dark mirror》とロゼリネ・ルドヴィコの《Pure Heart》《Jewely Rose》だ。いずれも淡い色調と細やかな筆致に覆われた画面に挟まれて室内に立っていると、思わず深呼吸したくなるほどに、場の空気が清澄なものに感じられてくる。


 小さくて儚く繊細で、手のひらにのせて愛でたくなるような作品群もある。クリスティアーネ・レーアの《小さな塊》は、綿毛でできたオブジェ作品。自然の完璧なる造形美に改めて思いを馳せたくなる。


 会場のそこかしこに、さりげなく設えられているのは須田悦弘の作品だ。本物と見紛う精度で草花をかたどった木彫が、壁面や室内の隅っこに飾られているので、よく目を凝らして探してみたい。ごく小さい草花を発見できた悦びと、それを観る眼の歓びは、とてつもなく大きい。


 レイチェル・カーソンは『センス・オブ・ワンダー』(新潮社刊・上遠恵子訳)の中で、こう書いている。


「地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることはけっしてないでしょう」


 そう、まさにこの世を肯定し、ここが生きるに値する場であると再確認させてくれるのが、今展なのである。


(山内 宏泰)

文春オンライン

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