障害のある子とない子が一緒に学ぶ学童、設立した保護者の物語

8月8日(木)11時0分 NEWSポストセブン

「インクルーシブ学童&保育所」を立ち上げたママたちがいる

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 神奈川・横須賀市のバリアフリー子育て情報局『sukasuka-ippo』(以下『ippo』)は、同市の療育(障害児対象の幼稚園)相談センター『ひまわり園』の保護者会役員7名が立ち上げた一般社団法人だ。現在はインクルーシブ学童『sukasuka-kids』(以下『kids』)とインクルーシブ託児『sukasuka-nursery』(以下『nursery』)の運営も行い、インクルーシブ教育の先駆けとして注目を集めている。


「インクルーシブ」とは、「包括的な」「包み込む」を意味し、障害をもつ人ともたない人が一緒に学ぶ仕組みのことをいう。『ippo』代表理事・五本木愛さんに話を聞いた。


◆必要な人に情報が届かない現状に疑問


「娘のうららは、遺伝子疾患による『アンジェルマン症候群』。重度に精神発達が遅れ、発語がありません。彼女が『ひまわり園』に通っていた頃、私は障害をもつ園児の親代表として、障害福祉関係の会議へ多数出席する機会を得ました。


 会議では私の知らない福祉サービスの現状や法改正などが盛んに協議されていて驚きました。『当事者の私たちに届かない情報って何の意味があるの?』って。私たちは、情報もなく将来も見えない中で日々子育てをしていましたから」(五本木さん・以下同)


 五本木さんは、すぐに会議の内容を福祉関連の現状として園誌の『ひまわり通信』に掲載し始め、保護者間でも好評を得る。


 その手応えから、横須賀市内の障害児のママ全員に広く発信すべきと考え、2016年に情報発信サイト『ippo』を立ち上げた。


「会議の情報だけでなく、欲しい情報を自分たちで集め、取材し、記事を作り、配信する。『放課後デイサービスってどこにあるの?』『障害者が働く作業所ってどんな場所?』等々。取材を続けるうちに、『この仕組みが足りない』『この部分を工夫すれば育てやすいのに』と、疑問や欲しいものが具体的な形になって見えてきました。こうなったら、足りないものは自分たちで作るしかない!と(笑い)」


 独自に動けたのは、障害児のママにビジネススキルの高い人が多かったから。生まれた子供に障害があり会社勤務は無理。でも仕事や社会参加は続けたい…。サイト運営の収入源確保と人材活用の両面から、デザイン作成や制作物の受注を始め、2017年に法人化。同市の商工会議所に事業のノウハウや企業との連携を教えてもらう一方、地域のママを巻き込んだ「よこすかテレワーク」の仕事を担った。


「すでに障害児のママは組織化していました。ママたちにはワーカー登録を、商工会議所には地域の企業との橋渡しをしてもらう。ママたちの働き方の枠組みを作ったのは、会社とのパイプをつないでおけば、子供たちが働ける場も広がるのでは…と想定したからです」


◆「今日ね、うららちゃんが僕の名前を呼んだんだよ!」


 その一方で、五本木さんが取材を通して痛感したのが障害者に対する偏見や差別。さらに「やまゆり園」の事件で加害者が放った「障害者は生産性がない」「心失者」の発言が、障害者の親として心に突き刺さった。


「いちばんつらかったのは、この発言に賛同する意見がツイッター等で上がったこと。『税金も払っていないんだからある意味しょうがない』 という書き込みを目にした時は、“世の中がおかしくなってる”とすごく感じました。


 障害者に対する偏見や差別が、どうすれば少しずつでも減るのかを突き詰めて考えた結果、“幼い頃から障害のある子とない子が一緒に生活する” に辿り着いたんです。時間はかかるけど確実な方法だと思いました」


 一般幼稚園と障害児の幼稚園とに並行通園していたうららちゃんが、障害のない子との生活で著しく成長したことも大きかった。


「お迎えに行ったある日、男の子が一目散に駆け寄って来て『うららちゃんが僕の名前を呼んだんだよ!』って。


 呼べないんですよ。発語がないから絶対呼べないんですが、きっと彼は娘の表情や身振り手振りで、『僕を呼んでる』って感じたんでしょうね」


 お互いが育ち合うと、相手に思いを馳せる心が身につく。


「表情、前後の仕草や行動を見て、『こうしたいのかな』『こう思ってるのかな』と察することができる。これは大人になっても必要なこと。障害があっても、ゆくゆくは健常者が大多数の社会で生きていかなくちゃならない。コミュニケーション能力は必須です」


◆障害を超える生活の場こそ学童


 一緒に過ごすなら小さい頃から。そこで、障害のある子とない子が放課後一緒に過ごせる場所「インクルーシブ学童」を開くことになった。“インクルーシブ”を掲げたのは一般の人にも広く知ってほしかったから。


「勉強の部分でインクルーシブにするって難しい。例えば、算数の掛け算ができる子と数字も読めない子を、同じ時間に同じ教室で勉強させる。障害児の親としては迷惑をかけている後ろめたさがあります。そんなふうに思っちゃいけないとは言われますが、思っちゃう。でも、生活の場なら、さほど神経質にならなくてもいい。差別や偏見も入り込みにくいと考えました」


 2018年4月、小学1〜6年生を対象にインクルーシブ学童『kids』をオープン。生徒数13人でスタートしたが、問い合わせが殺到し、現在は一時利用も含めて30人(障害の有無は半々)の子供たちが通う。


「学区外の子供も受け入れ、歩いて来られないお子さんはスタッフが車で学校まで迎えに行きます。放課後、子供を預けたくても連れて行く親がいなければ預けられない。そうなれば親は仕事もできない。サイトの取材で感じた小さな『こうだったらいいな、ああだったらいいな』を学童に生かしました」


◆「福祉を補助金の範囲でやろうとするから、広がらない」


 学童に通う半数の子はいわゆる“健常者”。親が仕事をする上で必要に迫られて預けるケースをはじめ、差別や偏見のない場所に身を置かせたい、いろんな学校の子と遊ばせたい、など理由はさまざまだ。


 今年7月には、生後半年〜小学校入学前までを対象とするインクルーシブ託児『nursery』も開所した。


「小学校に入学するまで、幼稚園で預かってくれるのは長くても14時頃まで。きょうだいの授業参観などで1〜2時間だけ預けたいと思っても場所がない。同行させるしかないのですが、走り回ってじっとしていない。その姿を見たきょうだいたちはムリして来なくいいよと。それがすごくつらかった」。そんな経験から、託児所は9〜17時に。


「事務所の2階と隣の美容室がちょうど空いて。美容室は居抜きで使えば初期投資も少ないし、美容室をやればその売り上げで託児所の家賃を捻出し、事務所と美容室をつなげば託児所のスペースも広くなる。じゃあ美容室もやっちゃおう!と。実は、妹が美容師なんです(笑い)」


 託児所と美容室。唐突な感じもするが、美容室に障害児を連れて行くのはハードルが高い。「美容室だって障害児やママには福祉サービスの1つ」と、五本木さんは言う。


「福祉が外に広がらないのは、福祉の中で福祉をやろうとしているから。補助金の範囲では、当事者が本当に必要なサービスは提供しにくい」


◆最終ゴールは“自立した仕事と暮らし”


 学童、美容室、託児所を立ち上げた五本木さんだが、まだ先がある。1年後にはインクルーシブ学童の中高生版を始める予定だという。


「私には娘が大人になるまでのタイムリミットがあります。先々必要になってくる居場所を前倒しで用意しなければなりません。今、小学3年生ですから3年後には中学生。中学生になれば居場所はさらに狭まります。


 勉強の差は明らかになる。塾も行けない、部活もできない、親にはどうにもできない。放っておけば不登校やひきこもりになり、自分の部屋から出られなくなる。社会と断絶せざるを得ない状況も充分あり得ます」


 そう考えると、中高生の居場所を作るだけではなく、その先々にちゃんとつながる仕組みがなければ意味がない。


「例えば、中高生の学習支援などでパソコンのスキルを身につけて、既に稼働しているテレワークの仕事をする。スキルが上がれば企業で働くことも可能になります」


 五本木さんの最終着地点は、障害のある子が自立して“働きながら”“住む”ことができる社会だ。


「最終的に娘が働くところや住む場所は作っておかないと…という強い思いが常にありました。そこに到達するために必要な場所を一つひとつ作っていこうと。遠回りはしないと決めていたので、娘が小学校に上がるから学童、本当に欲しかった託児所、小学校を卒業するタイミングに合わせた中高生の学童…。娘にも、25才くらいになれば仕事をして、ひとり立ちしてほしい。どの親も望むことです。私も同じ。そのためにも全国にインクルーシブの施設が増えることを願います。人としての尊厳、そして自由は、障害に左右されない社会にこそあると信じています」


撮影/高橋進


※女性セブン2019年8月22・29日号

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