『だから私は推しました』脚本家・森下佳子が見た「白石聖ちゃんはあの世代の台風の目になる」

8月10日(土)11時0分 文春オンライン

「ドラマファンがオタクと呼ばれる時代が来る」“朝ドラ脚本家”森下佳子を突き動かす危機感 から続く



 オタク沼にはまっていくOLを演じる桜井ユキさんや、“コミュ障”の地下アイドルを演じる白石聖さんなど、今後のドラマ界・映画界を担うであろう出演者が勢揃いしているのも『だから私は推しました』(NHK)の見どころの一つだ。それでは脚本を執筆した森下佳子さんは、彼女たちの姿をどう見ているのか。劇中に登場する地下アイドルグループ「サニーサイドアップ」プロデュースの“裏側”とあわせて聞いた。



(全3回の3回目/ #1 、 #2 より続く)


◆◆◆


——主人公の遠藤愛を演じる桜井ユキさんとは、何か言葉を交わされましたか?


森下 顔合わせのときに初めて挨拶をして、その後ご飯を食べたりしましたが、役柄についての詰めた話はそんなにしなかったですね。


「全員返り討ちにあったみたいですよ(笑)」


——お会いされたときはどんな印象だったんでしょうか?


森下 桜井ユキちゃんはすごくお酒が強いんです(笑)。私が一緒にご飯を食べたときは、翌日が撮影だったのでそんなに飲んでなかったんですけど、それでも日本酒を飲んでいて。やっぱりご飯のときに日本酒飲む人って結構お酒好きな人だから、あ、これは強いんだなと。それで後日、翌日が休みのときにみんなで飲んだらしいんですが、全員返り討ちにあったみたいですよ(笑)。





——桜井さんが1人だけ生き残った(笑)。


森下 彼女はずっと役者になりたいという気持ちがあったらしいのですが、デビューは24歳と遅かったんです。その間、色々と思うところとか、考えるところがあったんだと思います。だからいざやるぞ、となったらすごく肝が据わっているんじゃないですかね。座長としても素晴らしいと聞いています。いつも明るくて、現場を盛り上げてくれるムードメーカーだそうです。


桜井ユキさんの「前日が見える芝居」


——ドラマの中では友達とのチクッとくる会話や上司との何気ないやり取りなど、本当に自然に演じられていますよね。


森下 そうそう。うまいですよね、表情の作り方とかも。なんというか、どこから考えてその芝居になっているんだろうって思います。すごくナチュラルなんだけど、その芝居はいったいどこからどう来ているのかが、外側からはわからない。昔、菅野美穂さんが出てきたときもそんな風に感じたことがあるんですが、彼女はこう見えていることを意識しているのかな、いないのかな、みたいな。桜井さんが演じてくれることによって、愛ちゃんに血肉が付く感じがします。



——登場人物が生きた人間になる?


森下 そうですね。倉本聰さんのエッセイで、「前日が見える芝居」という表現があるんです。その登場人物の前日というのは、台本にはほとんど書かれていないんですが、なんとなくその設定が感じられたりとか、見えたりする、それがいい芝居なんだ、と。桜井さんのお芝居には、そういうものを感じさせる力があります。この人が前日も生きていて、このシーンだけ切り取ってやっているわけじゃないんだよ、というものが。



白石聖さんの「翳のある美しさ」


——一方、地下アイドルの栗本ハナを演じる白石聖さんですが、第1回を初めてご覧になったときの感想はいかがでしたか?


森下 面白かったです(笑)。ハナはコミュ障というか、人との距離のとり方がうまくいっていなくて、困っている。そこに関して、一応予想はして脚本を書いているはずなんですが、それとはまた違うタイミングでセリフが出てきたりして、面白かったですね。妙にそのズレっぷりがかわいくて、もともと人気がないキャラにしたはずなんだけど、この子、人気上がっちゃうよね、と妙な心配をしています(笑)。



——白石さん、今回は難しい役どころだと思いますが。


森下 やっぱり白石聖ちゃんも、すごく上手いんです。だって脚本を書いたはずの私がセリフの出方を予想できないって、コミュニケーションがずれているってことをそれこそ的確に表現している証拠ですよね。彼女はあの世代の台風の目じゃないかな。どんなときでも絵がもつ美しさを保ちつつ、ちょっと翳(かげ)もあって。すごい逸材だと思います。


NHKが全力で作り込んだアイドルグループ


——その白石さん演じるハナが所属する地下アイドルグループ「サニーサイドアップ」ですが、曲作りからミュージックビデオの配信、さらにはTwitterの投稿まで非常に力を入れて作り込んでいますね。





森下 そうなんです。プロデューサーたちがもともとアイドル好きの女の子ということもあってか、ドラマの企画について話しているはずが、時々「あれ、アイドルのプロデュースの話になってませんか?」という時もあって(笑)。


——私たちの手でこのグループを、みたいな?


森下 そうそう。かなりそこはそこで楽しんでやっていたんじゃないかと思います(笑)。衣装どうするのとか、歌どうするのとか、踊りどうするのとか。



“それでもできること”の先を描いていく


——あの作り込みの理由がよくわかりました。では最後になりますが、『だから私は推しました』、今後の注目ポイントがあればぜひ教えてください。


森下 はい。今作は地下アイドルをファンが全力で推して、それでハナたちが、たとえば世界的なスターになるとか、地球を救うとかそういう話ではないです。あと、いま芸能界が揉めているようなギャラの問題とか、ある種ブラックな構造に関しては、ドラマの中ではたぶん解決策を提示できないし、提示したとしても嘘になるので、そこに答えを出すこともできません。愛ちゃんは世界を救ってくれるスーパーヒーローではないんです。



 でも、そんな中で、「何が普通か」という議論は一旦置いておいて、愛ちゃんという普通の人が、それでもできることは何だろう、と。そして“それでもできること”をしていった先には、何かが待っているはず。では、そこには何が待っているのか。今回のドラマは、そうしたことを考えて作っています。ということで、今後も愛ちゃんの右往左往っぷりに注目してください。


——サニーサイドアップの展開にも期待しています。


森下 実は第5回か第6回あたりに、すごく楽しみにしているシーンがあるんです。サニーサイドアップがある仕事に挑戦するんですが、それがどんな風に撮られているのか……。私もまだ観ていないので、ワクワクしています(笑)。


写真=末永裕樹/文藝春秋



森下佳子(もりした・よしこ)

1971年大阪生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。2000年『平成夫婦茶碗』(日本テレビ)で脚本家デビュー。『世界の中心で、愛を叫ぶ』『白夜行』『JIN-仁-』『義母と娘のブルース』(以上、TBS)など、話題作を多数手掛ける。2013年度下半期に放送された朝の連続テレビ小説『ごちそうさん』で、第32回向田邦子賞と第22回橋田賞を受賞。2017年には大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK)の脚本も手掛けた。




(「文春オンライン」編集部)

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