決して生きては出られない……大島てるが「事故物件の聖地」と呼ぶ“惨劇アパート”

8月10日(土)17時0分 文春オンライン

練炭自殺の現場にマンションを建てたらやっぱりヤバかった 大島てるが語る“あるオーナーの悲劇” から続く


 私が「事故物件の聖地」と呼ぶその住宅は、どの駅からも離れた町にひっそりと佇む、3階建てのアパートです。アパートといっても、そんなに大きな建物ではありません。少し大きめの一軒家の1階部分に大家の仕事場と居住スペースがあり、余った2階と3階部分を人に貸し出している、という程度。「201」や「202」といった部屋番号はなく、各フロアに1号室(1部屋)ずつしかない、こぢんまりとした建物です。(全2回の2回目/ #1 から続く)



大島てる氏 ©文藝春秋


小さなアパートで相次ぐ自殺・殺人


 この小さな3階建てのアパートで、一体何が起きたのか——。あえて時系列ではなく、上の階から順に見ていきましょう。まずは屋上です。この建物はビルのような造りになっていて、屋上は平らで、そこには洗濯物を干すことのできる空間が広がっていました。はじめにこの屋上で、住人の首吊り自殺がありました。そのときの詳細な状況まではわかりませんが、おそらく物干し竿か、手すりを使って首を吊ったのだと思います。


 次に3階部分です。建物としては最上階にあたるこのフロアでは、入居者同士が酔っ払った末に喧嘩を始め、エスカレートした結果、一方の男性がビール瓶で相手を殴り殺してしまいました。同居人同士のトラブルが、遂には傷害致死事件にまで発展してしまったのです。



 屋上、3階と来ましたが、一旦2階は飛ばして、1階を見てみたいと思います。1階には大家であるおばあさんの職場と居住スペースがありました。屋上では自殺、3階では殺人事件が起きたことで、このおばあさんは不運にも事故物件のオーナーになってしまいました。しかし、不幸はそれだけで終わりませんでした。今度はこのおばあさんが何者かによって殺されてしまったのです。刃物を用いた刺殺でした。



大家を殺した犯人はまさかの……


 では、一体誰が大家のおばあさんを殺したのか。すでに察しのついている方もいらっしゃるかもしれません。……犯人は、このアパートの2階の住人だったのです。


 警察がどの段階から、その人物が犯人だと目星をつけていたのかはわかりません。ただ、地元の住人からすれば、なかなか犯人が捕まらず、もしかするとこのまま迷宮入りしてしまうのではないか、という空気が流れ始めた頃、埼玉の山奥でようやく犯人が見つかったのです。しかし、そのときには2階の住人は既に自殺し、変わり果てた姿になっていました。



 1階から屋上まで、すべての事件が起きるまでにかかった時間は約4年。それぞれ、まったく関連性のない「死」が、1つの小さな建物の中で相次ぎました。事故物件が非常に少ない地域にあるにもかかわらず、なぜかこのアパートでは、すべての住民が招かれるように「死」へと吸い込まれていった。これこそが、私がここを「事故物件の聖地」と呼ぶ所以です。


事故物件の意外な“活用法”


 実は、この物件は今でも当時の姿のまま残っています。最近の情報では、1階部分はようやく借り手が見つかったようで、ある業者の資材置き場として使われているそうです。


 これは事故物件の“活用法”としては非常に良い形です。人が住むのではなく、物を置く場所として利用する。特に自殺や殺人が続いた物件は、そうした方法以外では、もう使うことができないのではないかと思います。



 新たに人が住むとなれば、不動産の持ち主には「告知義務」が発生し、家賃も低く設定する必要が出てくるでしょう。しかし、それを避ける方法はいくつかあります。その1つが資材置き場やレンタルルームなどの「物の置き場」として利用すること。または貸会議室やライブハウスなど、人が住まない空間として使う手もあります。他にも、建物を壊してコインパーキングとしてしまうのも、事故物件を“再生”させるためにはよく用いられる方法です。



 しかし、今回ご紹介したアパートのように、すべてのフロアの住人が短期間のうちに、それぞれ全く異なる形で命を落とすという例は、他では聞いたことがありません。果たしてこれを、「偶然」という言葉で片付けることはできるのでしょうか……。


「死」のアパートから唯一抜け出した男の末路


 ところで、この「事故物件の聖地」に住んでいた住民の中で、もしかすると今もまだ生きているかもしれない人間が1人だけいることにお気付きでしょうか。かつて3階で、同居人をビール瓶で殴り殺した男性——。事件の後、すぐに刑務所に入った彼だけは、命を落とす前にこのアパートを抜け出すことができました。



 しかし、ここからは私の憶測ですが、事件当時の年齢を考えると、彼はすでに刑務所の中で生涯を終えている可能性が高いのではないかと思います。皮肉にも人を殺すことによって唯一“助かった”命も、結局は他の住人たちの後を追うように、続けてこの世から去っていった……。私には、そう思えてならないのです。


 あるいは、彼だけは今も生き延びているのでしょうか。そうだとすると、もう刑期を終えて外に出てきている頃だと思います。では、「死」に満ちたアパートの、ただ1人の生き残りが次に選んだ物件……それは、一体どこなのでしょうか。



(大島てる)

文春オンライン

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