参院選全国比例候補者に支給の「特殊乗車券」は“おかわり”可

8月10日(土)7時0分 NEWSポストセブン


 国会議員が国会(東京)と選挙区を往復するためにJR無料パス(鉄道乗車証)と無料航空券(クーポン)が支給されることは比較的知られていることだろう。国会議員選挙の立候補者に対しても、似たような制度がある。ライターの小川裕夫氏が、公平な選挙を実施するために立候補者に支給される「特殊乗車券」「特殊航空券」についてレポートする。


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 観光地をめぐることができる乗り放題フリーきっぷや、スタンプラリーと連動した乗り放題きっぷが人気だ。それなら全国を回れるフリーきっぷがないものかと探しても、海外居住者用のJRのジャパン・レール・パスがある。しかし、国内で暮らす私たちは使用できない。


 国会議員には、JRの無料パスが支給されている。国会議員にならなくても、似たようなフリーパスを手に入れることもできる。それが、参議院議員選挙に全国比例から立候補者した人が使用できる“特殊乗車券””特殊航空券”だ。


 全国比例の候補者たちの選挙区は、日本全国。全国比例で出馬した候補者たちは、それこそ北は北海道から南は沖縄県まで駆け回り、自身の政見を訴える。


 17日間にわたって、全国を回ることは体力的にもシンドい。それ以上に、交通費などの金銭的な負担も馬鹿にならない。


「公平な選挙を実施するために、できるだけ資金力で選挙の優劣がつかないようにする必要があります。そうした環境を整えるため、参院選の全国比例から出馬する立候補者に“特殊乗車券”もしくは“特殊航空券”を支給しています。これは、鉄道や飛行機が期間中は乗り放題になるチケットです」と説明するのは、総務省自治行政局選挙管理部管理課の担当者だ。


 冊子状になっている特殊乗車券と特殊航空券は、JRのみならず私鉄や市電なども乗り放題になる。全国比例の立候補者は、交通費を心配することなく全国を飛び回ることができる。


 特殊乗車券も特殊航空券も、一人の立候補者に対して6冊が支給される。1冊は50枚つづり。これは、候補者本人分に加えて候補者の選挙を手伝うスタッフ5人分までの交通費を公費で負担することを公職選挙法が認めているからだ。足りなくなった場合は“おかわり”もできる。


「参院選制度が現在の非拘束名簿式に変更された2001年の第19回から今回の第25回までの全7回において、特殊乗車券・特殊乗車券が足りなくなって追加を申請した立候補者はいません」(同)


 ただし、立候補者は特殊乗車券と特殊航空券を併用することはできない。あくまで、どちらか一方の使用を選択しなければならない。


 総務省によると、立候補者の大半は特殊乗車券を選択するという。特殊乗車券は乗車券・特急券・指定席券として使用することはできるが、グリーン券・グランクラス・寝台券として使用することは認められていない。


 これら日本全国をカバーした特殊乗車券・特殊航空券が支給されるのは、全国比例の候補者だけに限られる。対して、選挙区から出馬した候補者は各選挙区の選挙管理委員会が定める規則に準じる。たいていの選挙区は、当該の選挙区内のみを自由に移動できるパスを支給している。すべての立候補者が、日本全国を自由に回っているわけではない。


「“特殊乗車券”と“特殊航空券”が公職選挙法で法的に明確に定められたのは、1950年です。しかし、1948年には臨時特例による法律を制定し、立候補者に“特殊乗車券”“特殊航空券”が支給されていました」


 衆議院選挙にも比例代表はあるが、衆院選の比例代表は政党の裁量によって名簿順位が決まる。そうした事情から、衆院選の比例代表には特殊乗車券も特殊航空券も支給されない。


 今回の参院選から、新たな制度として導入された特定枠からの立候補者に関しても「特定枠の立候補者は選挙活動ができない」という規定がある。今回の参院選では特定枠から5名の立候補者がいたが、そうしたことを理由に特殊乗車券・特殊航空券は支給されていない。


 特殊乗車券・特殊航空券どちらも、通用期間は選挙後の5日までに設定されている。

「選挙5日後まで使用できるようになっている理由は、一般的な乗車券の通用期間が5日間なので、それに合わせています」と総務省は説明する。


 通用期間に合わせたという理由のほかにも、立候補者が遠方まで遊説に行き、選挙が終わった後の帰路でも使えるようにとの配慮が含まれている。しかし、選挙5日後まで特殊乗車券・特殊航空券が使用できるとなると、スタッフなど選挙の慰安旅行に行くことも物理的には可能だ。


 当選者も落選者も支持者たちへのあいさつ回りに忙殺される。また、当選者は議員会館への入居準備、落選者は議員会館の引き払い作業などが生じる。選挙事務所の片づけもある。立候補者たちが慰安旅行に出る余裕はないだろうが、そうした不正利用をどう防いでいるのか? しかも、特殊乗車券・特殊航空券は使用時に本人確認をしない。不正使用することは、かなり容易い。


「これまでに不正使用された実例は確認できませんが、不正使用を防止するための工夫はしています。特殊乗車券・特殊航空券は、使用時に鉄道会社へ半券を渡すことになっています。後日、その半券と引き換えに総務省が鉄道会社と運賃を精算します。そのため、使用された金額は総務省が把握できる仕組みです。また、これら特殊乗車券・特殊航空券の使用状況は情報公開でも開示しています。有権者が開示請求し、チェックすることも可能です」


 昨今、こうしたチケット類は簡単にネットで転売されてしまうが、余った特殊乗車券・特殊航空券は選挙後に返却しなければならない決まりがあり、こうした措置も不正利用を防止している。


 また、チケットにはシリアルナンバーを入れて管理を厳重にしているほか、念には念を入れて、特殊乗車券・特殊航空券に関する取材は使用期限が過ぎる選挙5日後まで受け付けない。取材で写真を撮られると、万が一にも偽造される可能性があるからだ。それほど管理は徹底しており、そのために特殊乗車券や特殊航空券の情報が世間に出回ることは少ない。


 参院選の全国比例から出馬するには、供託金600万円が必要になる。それをクリアした立候補者だけが特殊乗車券・特殊航空券を手にする。


 立候補者数によっても変動はあるものの、特殊乗車券・特殊航空券には毎回3億円ほどの予算を組んでいるという。その原資は、もちろん私たちが納める税金だ。

NEWSポストセブン

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