JASRAC潜入調査で炎上 ネットの論調は妥当なのか

8月12日(月)7時0分 NEWSポストセブン

 過激なものの言い方はSNSで多くの反響を集めるにはよいかもしれないが、その激しい言葉に引きずられて、冷静な議論からどんどん遠ざかってはいないだろうか。とかく批判一辺倒にさらされがちな音楽著作権の集中管理を行っているJASRAC(ジャスラック、一般社団法人日本音楽著作権協会)が先日、音楽教室へ潜入調査を行っていたことが報じられたときも、偏った意見ばかりが目についた。潜入調査は、やむにやまれぬ理由から数十年前から続けられてきた手法であることを、ライターの森鷹久氏がレポートする。


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──カスラックは潰れろ!

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 ネット上に溢れるこうした罵詈雑言は、一般社団法人日本音楽著作権協会、通称「JASRAC」に向けられたもの。JASRAC職員が約二年間に渡り、一般人を装って音楽教室に通い「潜入調査」をしていたことが報じられると、やり方がフェアではないとして、大バッシングが巻き起こった。


 いや、潜入調査が明らかになる以前から、ネット上ではJASRACに対する風当たりは強かったことは、ネットユーザーなら誰もが知るところであろう。音楽教室だけでなく、カラオケスナック、ライブハウスなどにもJASRACからの「請求」が届き、音楽文化を守るはずの団体の行動が、音楽文化を衰退させている、と言われてきたのだ。


 例えば、あるアーティストがライブハウスで持ち歌を歌っても、JASRACへの著作権料が生じてしまう、といった噂もささやかれている。筆者がいくつかのライブハウス、ショークラブに問い合わせをしても、実際にそうした請求が届いたという例には行きあたらなかったが、音楽教室にまで「請求する」のは確かに、やり過ぎだと言われても仕方ない気がしないでもない。


 また、音楽教室への著作権料徴収については、従前から話題になっていたことで、手段を選ばず「スパイ」まで送り込んだのか、という印象で語られている向きも確かにあろう。JASRAC側は、あくまで潜入調査を正当な方法だとアナウンスしているが、実際にJASRAC職員はどう考えているのか? 実は過去にも「カラオケGメン」なる調査員が存在していたことを明かしつつ覆面捜査をせざるを得ない実情について証言する。


「潜入調査は、何十年も前からやっています。まだカラオケが現在のような通信式ではなくレーザーディスクだった時代には“カラオケGメン”なる調査員がいました。夜な夜なスナックやクラブに出向いては職員だとバレないよう調査をし報告書を書いて、悪質なら通知を出す。経費で飲み食いをして、弱小事業主であるスナック店主やクラブオーナーをいじめている、みたいな指摘もありますが、それは違います」


 こう話すのは、1990年代から十数年間JASRACで働いていた職員。現在のカラオケ機器は通信タイプで、客が一曲歌うごとにしっかりと著作権料がカウントされる仕組みだが、レーザーディスクが用いられていた時代は、厳密に言えば、一曲歌うごとに店や歌った客が申請されない限り、著作権料を支払わなくてもバレなかった。こうした行為が横行したが故に、やむなく潜入調査が行われるようになったというのだ。さらに、JASRACという財団法人の存在意義が「音楽の著作物の著作権を保護」することである以上、こうした調査をせずに放っておく、という手段は取られにくいのだという。「音楽には著作権があります。急速なネットの発達で著作権を無視したコンテンツで溢れかえるようになったのは周知の事実。徐々にストリーミング式の定額サービスが主流となっていますが、これはかつてCDやダウンロード販売に比べて分配率が低い。音楽を耳にする時間が増えているはずなのに、著作権者の権利が縮小されたといっても過言ではない事態です。もちろん、アーティストの中には、ライブなどで食べていける人もいるだろうし、そうした流れになるのも仕方ない。しかし、著作権者の権益を守ろうという姿勢をやめてしまえば、新しく登場するクリエイターは何をきっかけに収入を得られるようになればよいのか」


 こうして聞けば、著作権管理に対する真っ当な姿勢のもと、JASRACが活動していることは疑いようもない。漫画や映像作品の著作権侵害については、業界にだけでなく一般人にも厳守しなければならない、著作権者に利益が出るべきだ、という感覚が拡がっているように感じる。音楽だけが除外されるものではない。


 時代の流れは確かに変わり、一個人がYouTubeなどを通じて楽曲を発表し、音楽出版社などを介さずに利益を得る例も数多くあるが、だからと言って、著作権者の利益を守る機関が不要かといえば、そうは言い切れない。いまだに不法な音楽コンテンツがネット上に存在している以上、彼らの行為はやはり著作権者に一定の利益をもたらすのは明らかだ。しかし、音楽教室にまで「請求」をすることに関して、疑問はないのか?


「私個人の意見としては、少しやり過ぎな気もします。ただ、先方は小学校や中学、高校ではありません。音楽教室を開設し教育をするという目的はありますが、それ以前に利益を追求する一般企業な訳です。音楽教室を通じて、生徒さんに楽譜やピアノ、バイオリンなどの楽器を販売する目的もあるでしょう。やはり、誰かの“音楽”で商売をしているのなら、一定の使用料が発生するのは仕方のないことだと考えます。もちろん、教育目的もあるのですから、割引をするとか、そうした議論をすべきかと」


 今回の報道で、論点としてあまり語られていない部分がある。それは、モーツァルトやベートベンなど著作権の切れた音楽はもちろん、子供用のレッスン曲にまで厳しく著作権料を請求しているわけではない、ということだ。現代ポップ音楽を用いた大人向けのピアノやバイオリンの音楽教室について、支払い義務が生じるという主張がなされている事実についても、もう少し理解が広がるべきなのかもしれない。


 また、今一度「権利」とは何かについて、冷静に考えることも必要だろう。前述したように音楽は、映像作品や漫画などに比べて、著作者の権利が及びにくいという現実がある。鼻歌や口笛まで著作権が発生するのか、などと言った的外れな指摘はさておき、権利者のコンテンツを用いて営業活動をし、利益を得ているのであれば、そして権利者をリスペクトしているのであれば、権利者のために一定の金額を支払うという行為は極めて自然だろう。だが、その大半が自己申告をせずにタダ使いしている。尊敬はしていても金は払わない、という理屈が通るのか。権利という言葉すら、必要なくなるのではないか。


 JASRACが市民から音楽を取り上げている、と脊髄反射的に批判ばかりするのは建設的ではない。各々の利害関係がぶつかる中で、音楽文化の発展に寄与するために何をすべきか、何ができるのか。一音楽ファンとして、感情的になりすぎない議論が展開されることを望みたい。

NEWSポストセブン

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