下條アトム「緒形拳さんは、とにかくスペシャルな方でした」

8月12日(水)16時5分 NEWSポストセブン

下條アトムが大物俳優たちの思い出を語る

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 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、役者の家に生まれた下條アトムが、過去に共演した萩原健一さん、渥美清さん、緒形拳さんについて語った言葉を春日氏がお届けする。


 * * *

 下條アトムは『信子とおばあちゃん』(一九六九年)、『藍より青く』(七二年)というNHK朝の連続テレビ小説に出演したことをきっかけに、俳優としての仕事を増やしていった。


「その辺りから食えるようになって、とんとん拍子で三十ぐらいまではやらせてもらいました。


 ただ、そのせいで、なかなか売れなくて我慢することを知って…自分を押し出すだけが役者ではない──という世界でやってきた人が四十・五十になって売れた場合に比べると人間の深みがなかなか出ないんですよね。


 一つ受けたらば、『よし、よかった』とひと息ついたり。台本を三冊ぐらい掛け持ちしてないと落ち着かないとかいうこともありましたね。そういう時期のテレビドラマを駆け抜けました。


 そのおかげで他の仕事をしないで、生業として食えてきたというのはあります」


 七三年には萩原健一主演の時代劇『風の中のあいつ』(TBS)に出演、萩原扮する主人公の渡世人「黒駒の勝蔵」と共に旅する弟分を演じた。


「ショーケンはやんちゃなところがありましたから、現場は大変でした。よく前田吟ちゃんが間に入っていました。でも、ショーケンは作品に対するピュアな情熱があったから、やっていて楽しかった。何を言ってきても、愛嬌があるから許せちゃう。


 作品自体も楽しかったですね。何をやってもいい。監督も含めて『面白くやれ』という感じで規制がありませんでした。ショーケン自体もそうでしたが、既成のものを壊していきたいっていうエネルギーがありました。


 今の若い子はびっくりするくらい大人っぽい。ですから、生意気な人をときどき見ると、『あっ、こいついける』と思っちゃうんですよね」


 同年のテレビドラマ『こんな男でよかったら』(読売テレビ)にも出演。主演は渥美清だった。


「雲の上の人ですが、可愛がってもらいました。関敬六さんのお店に飲みに誘われた時はハイヤーで家まで送ってもらって。


 千葉のスナックで飲んだ時は、店から出たら道中に人が溢れているんですよ。渥美さんに会いたくて。その中をかきわけながらハイヤーを待たせているところまで歩く。日本ではスターを放っておいてくれないんですよね。だから、日常がない。


 ですから、その日常も含めて、渥美さんは役として演じるしかない。オンオフではなくてね。そういうのを感じました」


 七七年の映画『八甲田山』では遭難する兵の一人を演じ、緒形拳と行動と共にしている。


「緒形さんにも可愛がってもらいました。とにかくスペシャルな方でした。『八甲田山』の時は家でもわざわざ暖房のない寒い中で過ごしたりとか、役に対してストイックで。


 僕、『教えてください。下條ってどうなんですか?』と緒形さんに聞いたことがあります。


 そうしたら『お前、ホワイトカラーの役はやらない方がいいよ。そういうキャラクターじゃない』と。縦割り社会で自分を隠して生きる役よりも、自由に自分を出せる役の方が合うということなんだと思います」


●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。


■撮影/藤岡雅樹


※週刊ポスト2020年8月14・21日号

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