「西野朗監督の会見がおもしろくて仕方がない」ロシアW杯取材記者の報告——2018上半期BEST5

8月13日(月)11時0分 文春オンライン


2018年上半期、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。スポーツ部門の第3位は、こちら!(初公開日:2018年6月30日)。



*  *  *


 W杯では試合前日と試合後にFIFAが設定した公式会見がスタジアムで行われる。出席するのは監督と、選手が1名だったり複数名だったりする。対戦国やそれ以外の国の報道陣も集まり、少々お堅い雰囲気になるものだが西野朗監督の会見は違う。



お茶目さが際立つ西野監督 ©JMPA


 誤解をおそれずに表現すれば、おもしろくて仕方がない。


つまずく、まちがえる、つけられない


 ポーランド戦前日は登壇の際、段差に蹴つまずいた。転んで空を舞いかけた。話を始めても何かが起きるから、こちらは集中していなくてはならない。この日はエカテリンブルクをきちんということが出来ず、エカテリ……後半はよく聞き取れなかった。


「あれ、言えてなかったよね」と取材者同士でざわっとする。何度やっても自分でつけられなかった同時通訳機のイヤフォンは、今回はつけることができた。しかし装着まで皆が笑顔で見守った。



 といった塩梅で始まった会見。話す内容は独特の言葉遣いで難解ではあるのだが、嘘をつくタイプではないから、発言にはしっかりと耳を傾けておく必要がある。天然で強気だけど、裏表はないのが西野監督だと思う。


 ポーランド戦前日の時点ではこんな話をしていた。



他会場の状況を選手に伝えるつもりはない


「持久戦に対しては日本の選手が高い能力を持っているので、粘り強く戦況を見ながら試合を進めていかないといけない。あまり他会場を気にしたくないし、選手にも伝えるつもりはないのですが、情報が選手にも伝わるかもしれない。そのことによって、動きが変わらないようにコントロールしたいと思います。非常にデリケートな3戦目になると思います」



 実際に非常にデリケートな試合にはなった。前半は日本が幾度もチャンスを掴みながら、外しつづけた。前線のオートマチズムの欠如は先発6人交代の弊害以外の何物でもない。後半に入った直後、岡崎慎司が負傷交代。この辺りから雲行きは怪しくなる。


 59分に失点、ここからの15分間は、得点によって元気になったポーランドと、1点を返そうともがく日本という構図。グループリーグ突破に黄信号が灯るなか、ポーランドのカウンターは鋭くなり、ピンチもあった。しかし74分、H組のもう一方のカード、コロンビア対セネガルでコロンビアが先制し、状況が一変する。82分、長谷部の投入は「敗戦でもOK」というサインだった。


 順位決定の7番目の条件であるフェアプレーポイント(警告、退場の少なさ)で順位が決まることを自覚して長谷部は送り込まれ「カードはもらうな」という指示も伝えられ徹底された。以降はブーイングにも焦ることなく試合終了までボール回しに徹し、グループ2位での突破となった。




非常に難しい、不本意な選択だった


 ちなみに8番目の順位決定条件はFIFAによる抽選なので、本当にギリギリで突破したということ。また、ポーランドが先制した時点で日本は3位に落ちているので、コロンビアはセネガルと手打ちにしようということもできたはず。攻撃的なコロンビアに助けられた格好だ。


 西野監督は結局、前日の発言を撤回して、他会場の情報を選手に伝えた。しかも、コロンビアの勝利を信じるという他力本願な選択でもあった。ポーランド戦後の会見では、


「非常に厳しい選択でした。万が一ということは、自分たちのピッチでも他会場(コロンビア対セネガル)でもあり得た。不本意な選択。他力に頼っているのも良くないこと。観客からのブーイングを浴びながら選手にプレーさせたことも、自分の信条ではない。自分のスタイルは攻撃的というか強気というか……」



 と、激しい言葉で自責の念を口にした。おそらく本当に、忸怩たる思いを抱えた選択を強いられたのだろう。前日の言葉もこの日の言葉も、どちらも本音なのだ。


 一方でこうもいう。


「勝ちあがれたこと、そこだけにフォーカスしたい」



 結果が出たのだから、誰になんと言われようとこれで良いはずだ。そう言わんばかりに西野監督は堂々と落ち着いていた。舞い上がる様子もなく、しっかりと次を見据えているのは過去2回の16強進出とはちょっと違うのではないか。


 あと2回くらいは、おもしろい西野監督の会見を見られたら良いなと思うのである。



(了戒 美子)

文春オンライン

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