ソフトバンク・サファテの“告白”と岩嵜翔の“復活” 異例の調整を経て戻るべき場所へ

8月14日(金)12時0分 文春オンライン

 サファテの突然の告白に誰もが驚いた。


 手術歴のある右股関節の検査のため今月7日にアメリカへ帰国してまもなく、自身のフェイスブックに「私にとって、最後の試合はすでに終えた」と現役引退を示唆する投稿をしたのだ。


 サファテは2年前のシーズン開幕直後だった、2018年4月にメスを入れ、その後はリハビリに努めてきた。昨年も今年もオープン戦では登板した。しかし、我々が期待するサファテの球ではなかった。それは彼自身が誰より痛感していたはずだ。


 開幕延期となった自主練習期間中は家庭の事情により一時アメリカに戻っていたが、トレーニングはしっかり行っていたようだ。7月4日にチーム再合流。すぐにブルペン投球を行い、元気なところをアピールしていた。だが、その矢先、右股間節痛を再発したという。「私はおじいさんのように歩いています」とフェイスブックには綴っており、日常生活にも支障が出るほどの痛みを伴うようになっていた。


 ただ、一方で告白から数日後の今月10日にはツイッターの方で「まだ野球を辞めると決まったわけではありません」と日本語でメッセージを書き込んだ。


 いずれにせよ、サファテ本人が肉声で思いを語るときが来るだろう。どのような選択だとしても、彼の言葉を今はただ待つのみだ。


2017年のサファテは本当に偉大だった


 サファテが日本にやってきたのは2011年だった。広島カープ、西武ライオンズを経て2014年からホークスでプレー。加入2年目から3年連続でセーブ王に輝いた守護神に最大限の敬意をこめて「キング・オブ・クローザー」と呼んだ。本拠地で彼のために作られた登場演出は最高に格好良かった。


 やはり最も大きなインパクトを残してくれたのは2017年シーズンだろう。66試合に登板して54セーブ、防御率1.09。日本プロ野球のシーズン最多セーブ記録を更新し文句なしのシーズンMVPを獲得した。さらにベイスターズと戦った日本シリーズでは日本一を決めた第6戦に3イニングを投げ抜く大熱投。いつも以上にド派手なガッツポーズを見せたり、ファンの歓声を煽ったりともの凄い気迫だった。日本シリーズMVP、さらには外国人選手で初の正力松太郎賞にも輝いた。


 記録は塗り替えられるためにあると言われるが、これほどの名クローザーを次に我々が目撃できるのはいつになるだろうか。


 あの2017年のサファテは本当に偉大だった。


 ただ、あの時もそれ以外の時も、サファテは周りから尊敬されるだけの人間ではなく、彼自身もまた周りをリスペクトしていた。


 リードするために打ってくれる味方打線、試合を作ってくれる先発投手陣、そして必死で繋いでくれるブルペンの仲間たち——。


 あの2017年。サファテにバトンを渡す「8回の投手」もまた驚異的なピッチングで好成績を残していた。


 72試合登板、そして40ホールドはともにリーグ最多。防御率1.99の右腕。


 最強のセットアッパー、岩嵜翔の投球にもファンはやはりくぎ付けになった。



2017年、日本シリーズ進出を決めて記念撮影をするサファテら投手陣 ©共同通信社


完全復活が見えたはずだったが……


 しかし、その岩嵜もまた、翌シーズンの2018年から苦しんでいる。奇しくもサファテと同じ同年4月に手術を行い、大切な右肘にメスを入れた。


 長いリハビリ生活。ただ、岩嵜は一軍マウンドに帰ってきた。昨年は2試合に登板。満足いくものではなかったが、復活への足掛かりになったのは間違いない。そして今シーズンはオフの自主トレで、気鋭のトレーナーへと華麗なる転身を遂げた馬原孝浩氏(元ソフトバンク、オリックス)と個人契約して体の仕組みを学びながらフォームづくりを行ってきた。


 その成果もあり、昨年はいまいち戻りきれていなかった球のスピードが今春キャンプでは本人も納得できるところまで来ていた。


 開幕延期の期間もしっかり調整を続けて、迎えた3カ月遅れで始まったペナントレース。岩嵜はセットアッパーの地位を勝ちとることに成功した。6月19日のロッテとの開幕戦は0対0の七回に登板し、1回無失点で実に810日ぶりとなるホールドを記録した。


 続く登板だった同24日の西武戦でも連続ホールドを挙げ、いよいよ完全復活が見えた。


 そのはずだった。


 少なくともファンはそう信じていた。だが、岩嵜は違った。自分の投球に疑いを抱いていた。


「右足一本で立った時の感覚というか間合いが、以前のものと合わなくなっていた。頭で考えていることと実際の動きの誤差が大きい。でも、一軍の試合で言い訳なんて出来ないから、とにかく自分の力だけで抑えに行っていたんです」


 悪夢は2つ目のホールドから2日後、6月26日の西武戦、4対3でリードした8回にマウンドに上がったが、1死満塁のピンチを招いた。ベテラン栗山巧を一ゴロに抑えて2アウトまでこぎつけたが、木村文紀に149キロの直球をまさかバックスクリーン左に運ばれる逆転満塁ホームランを浴びたのだ。試合はそのまま4対7で敗れた。


 さらにその翌日だ。2点リードの7回、工藤公康監督はまた岩嵜をマウンドに送った。「嫌なイメージを早く払しょくしてほしい」という親心だったのだが、2アウトから山川穂高に逆転3ランを打ち込まれてしまった。


 その後の登板でも精彩を欠き、防御率15.88という信じたくない数字だけを残して、7月9日に出場選手登録を抹消されてしまった。工藤監督はその決断について「考えすぎちゃっているところもあるので、時間を空けてあげた方がいいかなと思いました。まだシーズンは長い。彼の中で整理した上でやってみるというのも一つの方法。投手コーチとも話をして、抹消することに決めました」と説明した。


異例の調整を経て、久々の実戦マウンドへ


 それから約1カ月、岩嵜の名前が報じられることは全くと言っていいほどなかった。コロナ禍で取材が制限されていることも要因だが、実力も人気もある岩嵜のことを気にかけていたファンは多いはずだ。


 8月9日、ファーム拠点のHAWKSベースボールパーク筑後。その日行われたウエスタン・リーグの中日戦を取材に行くと、7回のマウンドに岩嵜が上がったのだ。


 最初の打者、伊藤康祐への初球は146キロの直球でストライク。2球目はボール球だったが、152キロを計測した。最後はライトフライで打ち取った。続く石岡諒太は151キロで見逃し三振。そして岡林勇希はセンターフライで3アウト。勝負球はすべてストレートで、1回を打者3人できっちり片付けてみせた。


 この登板。じつはファーム降格後初めての実戦マウンドだった。どこかを痛めてリハビリ組に行っていたわけではない。ずっと二軍にいたのに1カ間も試合で投げていなかった。異例の調整だったのだ。


「ここを目標にしていたわけではなくて、遠征先に行ったら雨に降られたり、コロナの影響で中止になったり、そもそもファームは(リーグが奇数編成で)試合が少なかったりと様々な理由が重なったんです。でも、一から作り直すというか、もう一度フォームを見直しました。一軍にいた時は自分の中で意識をするポイントがないフォームのまま投げて、ただ力んで投げてという悪循環でしたから」


 修正ポイントも「言葉で説明するのは難しい」と苦笑いしたが、「一軍の時、明らかにおかしかったのは右足一本で立った時、景色が狭く見えちゃう時があったんです。それを少しずつ解消していって、今はいい意味で余裕がある中で投げられています」と解説してくれた。


 何より、岩嵜らしい柔和な明るい表情が戻っていた。マウンド上の岩嵜と普段の彼は全く別人だ。


「今日は良い感じで投げられました。もう少し出力も上がってくると思います。もう一歩、前に進める感覚があるんです。投げているボールの軌道を見れば、投げていて楽しい感覚も今はあります」


 本拠地PayPayドームで岩嵜が登板する際に流れる登場曲は、ミスターチルドレンの『足音〜Be Strong』。また一歩、次の一歩……岩嵜は戻るべき場所に着実に近づこうとしている。


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(田尻 耕太郎)

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