作品の“質”、クリエイター発掘、プロモーション力…映画制作・配給会社「A24」の魅力

2020年8月14日(金)18時0分 シネマカフェ

「A24」の魅力/イラスト:Akari Kuramoto

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「いま最も勢いに乗っている」といっても過言ではない、米国の映画制作・配給会社「A24」。専門誌だけでなく、「POPEYE」や「anan」でも取り上げられており、日本でも「A24が好き」といえば、映画好きだけでなく、ファッションやカルチャー層にも通じる存在だろう。

わずか8年で映画賞常連のスタジオに
しかし、A24は設立約8年しか経っていない若い会社。この期間で、『ムーンライト』や『ルーム』『魂のゆくえ』ほか、アカデミー賞をはじめとする映画賞の常連スタジオにまで一気に駆け上がった。それだけではなく、『ロブスター』『へレディタリー/継承』『ミッドサマー』『WAVES ウェイブス』…斬新な作品を次々と世に放ち、作家性が強い作品群で「話題性」「興行」「評価」を両立させるという離れ業にチャレンジ。

かと思えば『レディ・バード』『フェアウェル』『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』といったハートフルなヒューマンコメディも手掛け、FOXサーチライトやアンナプルナなど、インディペンデント系のレーベルの中でも異彩を放っている。


同社が初めて配給に乗り出したのは、2013年の『チャールズ・スワン三世の頭ン中』。その後『スプリング・ブレイカーズ』や『複製された男』を配給し、2015年に配給した『ルーム』『AMY エイミー』『エクス・マキナ』が翌年にオスカーを受賞。2016年には『ムーンライト』で製作に乗り出し、『スイス・アーミー・マン』で世界配給にも挑む。その後の活躍は、いまや誰もが知るところだ。

若いクリエイターの発掘にも熱心で、『ミッドサマー』のアリ・アスター、『WAVES ウェイブス』のトレイ・エドワード・シュルツといった俊英や、グレタ・ガーウィグやジョナ・ヒルなどの俳優陣の監督作も積極的に支援。彼らの創造性に任せた作品作りが、功を奏している。


既存の枠に囚われないアイディアで躍進
このように、作品の“質”で名を挙げてきたA24だが、実はそれ“だけ”ではない。ブランディングとプロモーションにおいても、画期的な動きを次々と見せているのだ。

大きい部分は、自社のロゴの“売り出し”だろう。作品の世界観に合わせてロゴをデザインするお家芸は言わずもがな、自らオンラインショップを運営し、A24のロゴをプリントしたTシャツやキャップ、傘などのグッズを発売。これらがアーリーアダプターに刺さり、「かつてないお洒落なスタジオ」として耳目を集めた。作品の秀逸なポスターデザインも人気が高く、『ミッドサマー』では大島依提亜&ヒグチユウコによるアートポスターを公式で販売。即完売となった。


さらに、作品の舞台となった町で野外上映を行う“聖地巡礼”企画や、雑誌の刊行、クリエイターによるポッドキャストなど、次々に展開。新型コロナウイルスの流行当初には、いち早くチャリティオークションを開催した。『スイス・アーミー・マン』のプロモーション時には、ダニエル・ラドクリフと彼が演じた死体の人形をバスに乗せて運行。宝石商を描いた『アンカット・ダイヤモンド』の公開時には期間限定でショップをオープンし、「観ると別れる」と話題になった『ミッドサマー』公開時には、カップルセラピーを提供したという。

ちなみにA24は徹底した秘密主義で、メディアの取材にはほぼ応じないそう。また、従来の映画宣伝のメインだったテレビ等に投資せず、オンラインに注力。TwitterやInstagramはもちろん、GIPHYでGIFを無料提供するなど、映画離れが進みがちな若い層のハートをきっちりつかむアプローチを行っている。直近では、HBOやApple TV+と組んで新作ドラマを制作。劇場配給だけでなく、配信にも積極的に動いている。


こうした動きを見ても、A24がもはや既存の映画配給・制作会社の枠に収まっていないのは明白。日本でも、2020年はA24イヤーというべき、毎月のように作品群が公開されるフェーズに入っており、同社の勢いはとどまるところを知らない。

まだ観たことのない面白さを様々な面で届けてくれるA24は、映画業界の“光”となるべき存在だ。今後も、我々を大いに魅了してくれることだろう。

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