世に衝撃を与えた話題作『ルックバック』の舞台を訪ねる! 作品そのままの田園風景が広がる秋田県にかほ市
2024年8月17日(土)12時0分 ロケットニュース24
大ヒット中の漫画&アニメ映画『ルックバック』。「藤本」から一文字ずつとった主人公たちの名前や、母校・東北芸術工科大学が作画モデルとなっている点など、作者の藤本タツキ先生の経験が色濃く投影されたと言われている。
映画版の舞台は、先生の出身地でもある「秋田県にかほ市」だと押山清高監督が明言。登場人物のひとり、京本のなまりは秋田弁だ。
にかほ市では、これまで数回にわたって公式Xで作品ゆかりの地を紹介し、それらをまとめた「にかほを見てMAP」を作成している。マップを手に、藤野&京本の暮らした街を訪ねてみよう!
※以下、物語のあらすじ、登場人物、設定に関する多少のネタバレを含みます。
・JR仁賀保駅でマップをもらってスタート!
スポット巡りのスタートは「JR仁賀保駅」から。駅舎そのものは作中に出てこないが、電車に乗って出かけるシーンがあるので、藤野も京本も必ず利用したはず。
待合室には映画のポスターや藤本先生のプロフィールを掲示してあり、自治体を挙げて応援していることが伝わる。
駅にもマップをA4サイズでプリントしたものが置いてある(2024年8月現在)ので、ゲットしてから出かけよう。
以降で紹介するのは、基本的に同市公式Xとマップに掲載されているポイントになる。制作サイドからの発信ではないものの、「準公式」と呼んでいいだろう。
まずは駅から徒歩で行けるところに「ぶんりんどう(文林堂書店)」がある。
これは見た瞬間わかる! 藤野がスケッチブックを購入した「ぶっく堂」のモデルだ。左右にある建物までアニメとまったく同じなので、ちょっとびっくりする。
「無書店」自治体が全国の25%を超えるという現在、貴重な存在ではないだろうか。とはいえ藤本タツキ先生はインターネット世代で、pixivも利用していたというから、地域による体験格差のようなものは縮小してきているのかもしれない。
余談だが、駅のすぐ前にある「松永菓子舗」はシュークリームで知られる老舗菓子店だという。きっと藤野たちも「お母さんが買ってきた」とかで食べたに違いないので食べてみた!
嘘です、食べたいから食べました。ゴマが美味い。
続いて向かったのは「セブン-イレブン にかほ平沢店」。アニメ内では架空のブランドになっているが、カラーリングからセブンがモデルであることがわかり、原作ではロゴもセブン。
藤野&京本が大雪をこぎながらたどり着き、漫画賞の結果が載った「少年ジャンプ」を開くドキドキのシーンだ。
晴れていたら、このコンビニからも地域のシンボル「鳥海山」が見えるそう。原作では「ポツンと一軒家」風にコンビニが描かれているが、地方都市らしい広大な駐車場と、抜ける視界が気持ちいい。にかほの街からはいつも山々が見える。
筆者もそこそこの田舎育ちなのだが、都心に行くとコンビニがものすごく狭かったり、半地下だったり、三角形のような変則的な形だったりしてびっくりする。
・情感あふれる田園地帯へ
ここからは市街地を外れ、郊外の方を訪ねてみよう。以降は車があった方が便利……というか、車がないと訪ねるのがちょっと難しいエリアになる。
作中で、漫画賞の賞金を手にした藤野&京本は街で豪遊する。「県庁所在地の秋田市に出かけたのかな?」と思ったが、山形県山形市が作画モデルでは、との説も。
実際には電車で山形市まではかなり遠いのだが、藤野は東京の集英社を訪ねるほど行動力のある子だし、越境して隣県の主要都市を生活圏とするのは県境の自治体「あるある」だ。いずれにしても小旅行の感覚で出かけるのだろう。
アニメで電車が渡る陸橋は、少しデザインが異なるが自動車用の「仁賀保大橋」だそう。鮮やかな朱色が印象的だ。
原作では二人を乗せた電車は、小さな踏切を抜けていく。マップによると「ローソン にかほ平森店」そばの踏切のよう。
電車の車内では、自分を部屋から連れ出してくれた藤野へ、京本がお礼を述べるシーンがある。ひきこもりだった京本に藤野は世界を見せた。京本は自分のやりたいことを見つけ、才能を開花させていった。
そのことが後に悲劇につながるわけだが……輝くばかりの二人の若い時間は永遠だ。
踏切から後ろを振り向けば、懐かしさと眩しさに立ちくらみを起こしそうな田園風景が広がる。筆者は農家生まれではないし、田んぼに入ったことすらないのだが、強烈なノスタルジーが湧き起こるのはなぜだろう。日本人のDNAに刻み込まれているのだろうか。
最後に訪ねたのは、藤野&京本が何度も行き来するあぜ道。農作業の邪魔にならないように見学しよう。
仁賀保大橋の南西側らしいことや、山沿いに鳥居が見えること、鳥海山が正面に見えること、などヒントはいくつかあるのだが、どの道かまでは特定できなかった。
けれど、だいぶ雰囲気は出ているのではないだろうか。
左右には見渡す限り、青々とした田んぼが広がる。田んぼがあるところには清らかな水があるし、水があるところには生き物がいる。豊かな土地だ。
藤野の家がある辺りは住宅街だったが、こんな未舗装のあぜ道を使って毎日登下校していた。実際に近くには、にかほ市立院内小学校がある。地方に行くほど学区が広域になるから、きっと藤野も結構な距離を歩いて通学していたのだろう。
画力の差を見せつけられて悔しさを噛みしめるシーンや、唯一無二のパートナーになった二人が行き交うシーン、決別するシーンなど、作品にはさまざまな時間帯、四季折々の田園風景が登場する。
何より印象的なのは、土砂降りの帰宅シーンで満場一致だろう。濡れるのも構わず、藤野がちょっと変なポーズでスキップする場面。
二人の主人公の胸のうちに起こる鮮烈な感情に対し、ひたすら静かで美しい背景美術。「静」と「動」の対比も映画版の魅力だ。
・秋田県出身の作家であるということ
美術や芸能を志すとき、地方在住であることは、ときにディスアドバンテージになる。原画展や舞台や公演など、ホンモノに触れる機会が幼少期から圧倒的に少ないし、身近にロールモデルもいない。そもそも文化的な仕事ができる就職先がほとんどない。
高齢化や過疎化による経済の閉塞感もハンパない。学校はどんどん統廃合されていく。藤本タツキ先生も「美術高校」というものが存在する話を聞いてうらやましく思っていたという。
けれど、広い空と豊かな緑に囲まれて、人間が人間らしくいられる環境で大きくなることは、たぐいまれな感性を育むと思う。四季には匂いがあることや、夜の森というのは意外にうるさいこと、穫ったばかりの野菜や果物は売っているものとは全然違うことなど、体感で知っているのは財産だ。
藤本タツキ先生は、そして藤野は、連載の締め切りに追われて大都市で多忙な日々を送っても、きっと子ども時代を忘れないと思う。
まだまだあるかもしれないが、同市のXで公認の場所は以上! ほかに作中には先生の出身校、山形県山形市の東北芸術工科大学がモデルとして登場する。いずれそちらも訪問してみたい。
参考リンク:にかほ市、少年ジャンプ+、劇場アニメ「ルックバック」
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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映画版の舞台は、先生の出身地でもある「秋田県にかほ市」だと押山清高監督が明言。登場人物のひとり、京本のなまりは秋田弁だ。
にかほ市では、これまで数回にわたって公式Xで作品ゆかりの地を紹介し、それらをまとめた「にかほを見てMAP」を作成している。マップを手に、藤野&京本の暮らした街を訪ねてみよう!
※以下、物語のあらすじ、登場人物、設定に関する多少のネタバレを含みます。
・JR仁賀保駅でマップをもらってスタート!
スポット巡りのスタートは「JR仁賀保駅」から。駅舎そのものは作中に出てこないが、電車に乗って出かけるシーンがあるので、藤野も京本も必ず利用したはず。
待合室には映画のポスターや藤本先生のプロフィールを掲示してあり、自治体を挙げて応援していることが伝わる。
駅にもマップをA4サイズでプリントしたものが置いてある(2024年8月現在)ので、ゲットしてから出かけよう。
以降で紹介するのは、基本的に同市公式Xとマップに掲載されているポイントになる。制作サイドからの発信ではないものの、「準公式」と呼んでいいだろう。
まずは駅から徒歩で行けるところに「ぶんりんどう(文林堂書店)」がある。
これは見た瞬間わかる! 藤野がスケッチブックを購入した「ぶっく堂」のモデルだ。左右にある建物までアニメとまったく同じなので、ちょっとびっくりする。
「無書店」自治体が全国の25%を超えるという現在、貴重な存在ではないだろうか。とはいえ藤本タツキ先生はインターネット世代で、pixivも利用していたというから、地域による体験格差のようなものは縮小してきているのかもしれない。
余談だが、駅のすぐ前にある「松永菓子舗」はシュークリームで知られる老舗菓子店だという。きっと藤野たちも「お母さんが買ってきた」とかで食べたに違いないので食べてみた!
嘘です、食べたいから食べました。ゴマが美味い。
続いて向かったのは「セブン-イレブン にかほ平沢店」。アニメ内では架空のブランドになっているが、カラーリングからセブンがモデルであることがわかり、原作ではロゴもセブン。
藤野&京本が大雪をこぎながらたどり着き、漫画賞の結果が載った「少年ジャンプ」を開くドキドキのシーンだ。
晴れていたら、このコンビニからも地域のシンボル「鳥海山」が見えるそう。原作では「ポツンと一軒家」風にコンビニが描かれているが、地方都市らしい広大な駐車場と、抜ける視界が気持ちいい。にかほの街からはいつも山々が見える。
筆者もそこそこの田舎育ちなのだが、都心に行くとコンビニがものすごく狭かったり、半地下だったり、三角形のような変則的な形だったりしてびっくりする。
・情感あふれる田園地帯へ
ここからは市街地を外れ、郊外の方を訪ねてみよう。以降は車があった方が便利……というか、車がないと訪ねるのがちょっと難しいエリアになる。
作中で、漫画賞の賞金を手にした藤野&京本は街で豪遊する。「県庁所在地の秋田市に出かけたのかな?」と思ったが、山形県山形市が作画モデルでは、との説も。
実際には電車で山形市まではかなり遠いのだが、藤野は東京の集英社を訪ねるほど行動力のある子だし、越境して隣県の主要都市を生活圏とするのは県境の自治体「あるある」だ。いずれにしても小旅行の感覚で出かけるのだろう。
アニメで電車が渡る陸橋は、少しデザインが異なるが自動車用の「仁賀保大橋」だそう。鮮やかな朱色が印象的だ。
原作では二人を乗せた電車は、小さな踏切を抜けていく。マップによると「ローソン にかほ平森店」そばの踏切のよう。
電車の車内では、自分を部屋から連れ出してくれた藤野へ、京本がお礼を述べるシーンがある。ひきこもりだった京本に藤野は世界を見せた。京本は自分のやりたいことを見つけ、才能を開花させていった。
そのことが後に悲劇につながるわけだが……輝くばかりの二人の若い時間は永遠だ。
踏切から後ろを振り向けば、懐かしさと眩しさに立ちくらみを起こしそうな田園風景が広がる。筆者は農家生まれではないし、田んぼに入ったことすらないのだが、強烈なノスタルジーが湧き起こるのはなぜだろう。日本人のDNAに刻み込まれているのだろうか。
最後に訪ねたのは、藤野&京本が何度も行き来するあぜ道。農作業の邪魔にならないように見学しよう。
仁賀保大橋の南西側らしいことや、山沿いに鳥居が見えること、鳥海山が正面に見えること、などヒントはいくつかあるのだが、どの道かまでは特定できなかった。
けれど、だいぶ雰囲気は出ているのではないだろうか。
左右には見渡す限り、青々とした田んぼが広がる。田んぼがあるところには清らかな水があるし、水があるところには生き物がいる。豊かな土地だ。
藤野の家がある辺りは住宅街だったが、こんな未舗装のあぜ道を使って毎日登下校していた。実際に近くには、にかほ市立院内小学校がある。地方に行くほど学区が広域になるから、きっと藤野も結構な距離を歩いて通学していたのだろう。
画力の差を見せつけられて悔しさを噛みしめるシーンや、唯一無二のパートナーになった二人が行き交うシーン、決別するシーンなど、作品にはさまざまな時間帯、四季折々の田園風景が登場する。
何より印象的なのは、土砂降りの帰宅シーンで満場一致だろう。濡れるのも構わず、藤野がちょっと変なポーズでスキップする場面。
二人の主人公の胸のうちに起こる鮮烈な感情に対し、ひたすら静かで美しい背景美術。「静」と「動」の対比も映画版の魅力だ。
・秋田県出身の作家であるということ
美術や芸能を志すとき、地方在住であることは、ときにディスアドバンテージになる。原画展や舞台や公演など、ホンモノに触れる機会が幼少期から圧倒的に少ないし、身近にロールモデルもいない。そもそも文化的な仕事ができる就職先がほとんどない。
高齢化や過疎化による経済の閉塞感もハンパない。学校はどんどん統廃合されていく。藤本タツキ先生も「美術高校」というものが存在する話を聞いてうらやましく思っていたという。
けれど、広い空と豊かな緑に囲まれて、人間が人間らしくいられる環境で大きくなることは、たぐいまれな感性を育むと思う。四季には匂いがあることや、夜の森というのは意外にうるさいこと、穫ったばかりの野菜や果物は売っているものとは全然違うことなど、体感で知っているのは財産だ。
藤本タツキ先生は、そして藤野は、連載の締め切りに追われて大都市で多忙な日々を送っても、きっと子ども時代を忘れないと思う。
まだまだあるかもしれないが、同市のXで公認の場所は以上! ほかに作中には先生の出身校、山形県山形市の東北芸術工科大学がモデルとして登場する。いずれそちらも訪問してみたい。
参考リンク:にかほ市、少年ジャンプ+、劇場アニメ「ルックバック」
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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